7."音殺の大魔導士"ロアン・アルカナ
魔法講習
〈魔法の種類について〉
魔法の種類に大きく分けて二つある。
一つ目、基本魔法 基本的に誰にでも使用可能な魔法。
炎・水・風が多い。
誰にでも使用可能だが、戦術は公に広まっているものが多い。
二つ目、主創魔法 魔法使い《メイジ》が自主制作した魔法。
誰にでも使えはするが、術式が複雑
なものが多い。
誰にでも使えるわけではないが、戦術には魔法使いの個性がでる。
多分誰も読んでやくれないだろうけど、一応書いときます。
おまけ
ロアンは詠唱破棄どころか、魔法名すら言わずに魔法を使えるヨ!
《これは…転移魔法?》
その魔力を、私は知っている。
知っているのに、なぜか冷たい。
知っているけど、知らない魔力。
転移先のそこは、黒く染まった荒れ地だった。
辺りには魔族がたくさんいた。
《響鳴魔法、音の魔力》
何も、起きていないように見えた。だけど、
その"魔力"を聞いた魔族が、一斉に刻印される。
《響鳴魔法、反響刻印》
そして、次の魔力が、魔族のなかのオトからオトへと、絶え間なく連鎖する。
避けることはできない。
《まぁでも攻撃力が全然ないんだよなぁ…》
だから暴者相手にはほとんど効かない…
あくまで"殲滅用"として、アルカナ家はこの魔法を使ってきた。
なのに…
「なんで…あなたが居るのよ…」
そこに立っていたのは、
あの時から何一つ変わっていない奴だった。
「…来たか、アルカナ家最後の"響鳴の大魔導士"ロアン・アルカナ。」
その声も、その音も、
あの時と何一つ違わない。
「"響鳴殺し"ゼルカイン…」
私は落ち着いた口調で言った。
それでも、心の奥が、
震えていた…
《両親の仇…》
「それでは、アルカナと儂との最期の戦いと行こうぞ…」
ゼルカインは言った。
「貴様らの音は、儂の波を乱す…目障りだ。」
ゼルカインにも思うことがある…
でも、私にだって、想うことはあるんだから…!
そして、私たちの戦いが始まった…
最期の、戦いが…
「水波魔法…」
《響鳴魔法…》
「従順なる波紋。」
《雑音の乱行!》
ゼルカインに操られている水の波紋が辺りに広がり、空間を形成している。
だけど、私のノイズはそれに干渉する…
私の魔法で波紋の空間が歪み、崩れた。
「やはりそうだ…貴様はいつも儂の"波"を乱す!」
ゼルカインが憤慨しながら言った。
アルカナ家は長年、ゼルカインに嫌われていた。
それがわかったのも最近、
父上の書斎を漁っているときだった…
その日記には、ゼルカインについて書いてあった。
古来、アルカナ家が大魔導士一族になったとき、私のご先祖は、魔王軍の視察に来ていた…
そこで"ある魔族"と出くわし、全滅してしまった…
それから子々孫々、全てのアルカナ家が死ぬのは、魔王軍の視察に行ったときだけだった。
それも、大魔導士になってから…
父上も私と同様、お祖父様に連れられ、魔王軍の視察に行っていた。
そこで父上も、お祖父様を目の前でゼルカインに殺され、ギリギリで生還した。
と書いてあった…
ゼルカインはそのときも、
「貴様らの音は儂の波の妨げとなる…」
と言っていたようだ。
つまり、ゼルカインは音が弱い…
少なくとも、相性が悪いとわかった。
だけど、肝心のゼルカインは年々強さを増し、並の大魔導士では倒せなくなっていた。
それでも私は、今…
こうして両親の、先祖の仇をとるために、ゼルカインと対峙している…
《響鳴魔法、音速衝突!》
私の魔力を、音速でぶつける!
だけど、ゼルカインはいとも容易く波で受け流した。
「そんな魔法、何度受けてきたと思う…」
ゼルカインは微塵も揺らいでいなかった。
「水波魔法、壮大な一時の波。」
巨大な波が、私と辺り一帯を覆った…
《息ができない…》
《魔法が通らない…!》
波に溺れて魔力が打ち消される…
そう考えていると、外から声が聞こえた。
「水波魔法、断罪の水波。」
青く光る固体化した水が私の左側腹部に刺さった…
水の中で、音も響かなかった。
痛くても、叫ぶことができなかった。
次に音が聞こえたのは、ゼルカインが魔法を解除し、私が空中から落ちたときのドスッという音だった。
「今までもこうして、儂の前で貴様らは散っていった。今宵もそうなのだ。」
ゼルカインが淡々と言った。
「これで儂の永年の霧も晴れる…」
ゼルカインはそう言ったが、私は端から諦める気はない。
古い思い出…
生前父上が言っていた言葉…
母上、リリアン・アルカナは音楽が好きで、そんな母上を好きになった父上も必然的に音が好きになった。
「わたしは…お前を巻き込むかもしれない…」
厳しいけど、優しい声で、
「それでも、わたしは全力で拒む。ロアン…」
父上は少し間を開けて言った。
「…すまなかったな。」
当時その言葉の意味が何だったのか、
私にはわからなかった。
だけど、今はわかる。
響鳴魔法はアルカナ家の伝統…
それで奴を倒すのも、父上の願っていたこと。
だけど、本当に奴を殺すためには…
瞬間、私の魔力圧が膨れ上がった。
ゼルカインは何かを察し、すぐに退がった。
「音殺魔法…」
殺意に染まる私の声は、
低く、唸っているようだった。
「静寂な叫鳴。」
刹那、
辺りの音が消えた…
そして、静かに響いていた。
アルカナ家の、叫び声が。
ゼルカインが魔法で防ごうとしたが、声すら聞かせないこの状況で、まともに発声できず、
魔法は使えなかった。
私はアルカナ家を、伝統を裏切るかもしれない…
だけど、それでも、
ゼルカインは、私が殺す…!
「音殺魔法、壊れる音波。」
全ての音も、波も、
壊せるだけ壊す…
壊れた音波は消え去り、私とゼルカインの間には虚無が広がっていた。
ゼルカインは何が起きたのかわかっていないような顔だった。
今、この状況で、ゼルカインを殺すのは簡単…
でも、私はそれをまだしない。
こいつには、アルカナ家が受けた全てを、苦しみを、
受けるまで、絶対に死なせない…
私の音も壊れかけていた…
だけど、もう止まらない。
私は心の奥で、静かに魔法名を言った。
《音殺魔法、隠された響鳴。》
私がこの空間で放てる最後の、最強の魔法…
ゼルカインの内側から音を再起させ、
ギリギリでその音を操る魔法…
次の瞬間、
ゼルカインは膨れ、弾け飛んだ。
だけど、誰も気づかない…
音もなく、どこにも響かなかった…
私は魔法を解除した。
ゼルカインが上半身と下半身の真っ二つになり、
ドスッと音を出して地面に倒れた…
「…はぁ、はぁ。」
音殺魔法は"消えないはずの音"を消す魔法…
魔力消費は圧倒的だ…
立てない…死にそう…
ゼルカインは倒せたが、
私ももう生きていられないかもしれない。
出血もひどい…
レインたちとの約束も、まだなのに…
《やっぱりこういうときに使うのよね…》
「回復魔法、治癒。」
私の左側腹部の傷が少し塞がった。
今の私には基本魔法が限界だ…
そうして、私も膝をついたとき、
「…水波魔法、せせらぎの癒し。」
《こいつ、まだ動くの…!?》
もう一発魔法を放てば、私はどうなるかわからない…
だけど、詠唱を言っている時間もない…
それでも、私の目標は、
ゼルカインを殺すこと…!
《最後まで…》
私は再び立ち上がった…
《やりきらなきゃ…!》
ゼルカインの下半身が水で再生していた…
というか、ほとんど水になっていた。
音は効かない…
それなら、使う魔法は一つ…!
「水波魔法…」
一瞬の間が空く。
「音殺魔法…」
「従順なる波紋!」
波紋が広がり、一斉に私に向かってきた。
だけど、
「殺音波の一撃!」
瞬間、辺り一帯の音も、波紋も、
全てが静まった…
そして一筋の閃光が、ゼルカインの左半身を消し飛ばした。
今度は、音すら出さずに、ゼルカインは倒れた。
そして、することもできなかった息を、引き取った。
ゼルカイン…先祖の、両親の仇を殺した…
だけど、あまりいい気分ではなかった…
《私はもう"響鳴の大魔導士"は名乗れない。》
私は響かせるはずの音を殺した。
アルカナ家を裏切った。
きっと天国から離縁されるんだろうな…
私がそう思っていると、
音が聞こえなくなって、何も見えなくなった。
死んだのかな…
倒れ込んだ私の目の前に誰かがいた。夢なのかな…?
声が聞こえる。響かないほどの、かすかな声が…
『ロアン…』
だけど、誰の声かわかる。
小さい頃、大好きだった。父上と母上の声だ。
『縛られなくていいんだ…』
父上が言った。
『アルカナ家の伝統も、先祖のしがらみも、どうだっていい…』
『私たちは、ロアンの幸せを願っているんだ…』
あの時の、厳しくて、優しい声で…
『大切なものを守るためなら、お前はアルカナ家でなくてもいいんだ…』
『好きなことをしなさい…』
私は最後の力を振り絞って立ち上がった…
そして、全力で両親と抱き合った。
「…ありがとう!」
私がそれだけ言うと、別の声が聞こえてきた。
「…ロアン!生きてるか?」
いつも何も考えていないザウンの声だった。
「お前死んだらレインとの約束破っちまうだろ!」
ザウンがそんなことを言うと思ってなかった私は、少しびっくりしたけど、
それでも声を出した。
「…ありがとう。」
まだ、戦いは終わらない。
レインやクエンも、きっと戦っているんだから。
私がここで死ぬのは許されない。
両親が許してくれたこの魔法で、
みんなを守る。約束を果たす。
そのときまで、立つんだ…!
私は起き上がってザウンに言った。
「行こうか…」
「バカ言え。少しは休め!」
見るとザウンも傷だらけだった。
私とザウンは、2人で少し休むことにした。
私は音を殺した。もう"響鳴の大魔導士"じゃない…
だけど、もう後悔はない。
これからは、"音殺の大魔導士"だ。
そして、私は再び横になった。




