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1.あの日の僕たちは、負けたんだ。

レイン・アンリミト

年齢:25歳

職業:弓士アーチャー/指揮者コマンダー


白髪ショート。身長172cm。

復讐にのまれた彼の目は黒く燃えていた。


勇者パーティ〈ノイフス〉の若きリーダー。その卓越した指揮能力で、人々から【勇者】と呼ばれている。

弓は彼が昔練習していた武器で、唯一磨き続けたもの。


クラウディアとの戦いで頭部に傷を負った…

治癒魔法で治すこともできたが、彼は拒否した。

その傷は、

命と約束を守れなかった、自らへの戒めだから…

「私、冒険者になる。」

「ん?」

仰向けで草原に寝る僕に、彼女は言った。

「魔王を倒して、この村のみんなを守る。」

僕は立ち上がって言った。

「じゃあ僕もなるよ。」

「え?」

彼女は驚いているようだ。そんなのも気にせず僕は続けた。

「君はみんなを守る。僕はそんな君を守るんだ。」

彼女は微笑んだ。

「うん!じゃあ、約束だよ。レイン!」

あの日、夕焼けに染まった草原を、風が波のように揺らしていた。

僕たちはその中心で、人生を捧げる約束を交わした。

「うん!シ…






「シオン!」

しかし、目覚めた場所はベッドの上だった。

「夢か…」

ずいぶんと懐かしい夢をみていたようだ。

もう聞くこともできないその声は、どこか寂しげなものにも感じた。

「…よし、」

僕は立ち上がり、準備を始めた。家を出て、ある場所へ向かった…


街を歩くと、いつもと何ら変わらぬ風景が広がる。

そんな中僕は歩き続け、目的の場所に着いた。墓場だ。


「今年も来たよ。」


この墓地には、たくさんの亡者が弔われている。

任務で命を落とした冒険者、それが亡者だ。

そのなかでも、大きな功績を残した亡者を、真亡者(マーター)と僕たちは呼んでいる。


僕がこれから会いに行くのも、マーターの1人だ。


そんなことを考えているうちに彼女の墓の前に着いた。墓を見つめたまま声が漏れた。

「久しぶりだね。」


「シオン…」

あれから7年が経った。






「……とうとう来てしまったな。」

風の音すら聞こえない。黒雲の下、巨大な城だけが異様な存在感を放っている。雲が低いのか、城が高いのか、それもわからない。


その日、歴代最悪の魔王[ティミルヌ・ニアル]がいる魔王城[アビサルフォート]の前に僕たちは立っている。

「えぇ。」

隣にはシオンもいた。


あの約束を交わして5年後、僕たちは冒険者になった。

それから仲間と出会い、パーティも組み、さらに8年。

僕たちは傷だらけになりながらもAランクを達成し、気づけば【勇者パーティ】と呼ばれるようになった。


「俺らならぜってぇ勝てるぜ!」

仲間の1人、ザウンが肩に剣を担ぎながら言った。


「そうですね。私たちならやれますよ。」

続けてロアンが言った。


「油断してはならない。相手は歴代最悪の魔王だ。」

クエンが周りを見渡しながら言った。


「まぁまぁ、まずは気持ちだから。」

シオンが場を和ますように言った。


それでも僕には見えていた。みんな手が震え、息も荒い。

僕が指揮を取らないといけないんだ。自分の震えを抑えながら、深く息を吸う。

「みんな無理するなよ。」


少し間が空き、みんな驚きながらも強く応えた。

『もちろん。』


僕たちは5人で魔王を討つ。そう誓い、ここまで来た。

誰か一人でも欠けていたら、ここには立てなかっただろう。

「終わらせるんだ。この戦いを…」


僕たちは、アビサルフォートに歩みを進めた。



3時間後、僕たちは地獄の底にいた。

「なんなんだよ…」


あたりは鮮血に染まり、その中には気を失ったクエンが見える。僕もザウンも傷を負い、もはや敗北に等しい。

「ぅん…!」

ロアンが術式の構築を始めた。だが、ティミルヌはそんなコンマ数秒も待ってはくれない。


「遅いな…」


「…ガハッ。」

奴の一撃でロアンが吹き飛んだ。


《負ける…!》このままでは全滅だ。


《どうすればいい?》1人で悩んでいたその時。


「私がみんなを送り返す…」

「は!?」

シオンの言葉に僕は驚きが隠せなかった。


「転移魔法でギルドまでとばせる。だから…」

「お前は…!」

僕は彼女の言葉を止めた。


「私がここを止める」


無理だ。彼女は回復、補助担当の賢者(セージ)、戦闘能力などないはず…


そう思っていたが、僕は目の前の光景に唖然としていた。

「それ…お前…」

彼女は、身の丈に合わない大剣を創造していた。


「私は…忘れたことはないよ。」

僕は何も言えなかった。考える時間もなかった。

次の瞬間には、彼女は転移魔法の術式を構築し終えていた。

「…またね。」

《まずい、シオンが…》

「待っ!」

その声虚しく、最後に転移魔法のキランとなる音を聞いた後、まぶたが閉じ、音も聞こえなくなった。



「…んんぅ。」

僕はどのくらい眠っていたのだろう。


「…シオン!」

僕が立ち上がろうとしたその時、


「がぁあ…」

頭が痛い。体が重い。力が入らない。


「無理すんな。3日も寝てたんだ。」

ザウンがいた。3日だと。なんでそんなに…

いろんな感情が一気にこみ上げてきたが僕が声に出したのは、


「シオンはどうなった!」


ザウンは間を置き、少ししてから首を横に振った。


「嘘だ…だって…約束したんだ…一緒に…魔王を…」

僕は喪失感と罪悪感に飲み込まれそうだった。

だが受け入れるしかない…。


「ザウン…」


僕は声を出した。


「シオンがやられたんだ…」


周囲の空気が凍りつく。


「絶対に魔王(あいつ)を…」


怒りに身を委ね。


「…ティミルヌ・ニアルを殺す。」

怒り以外の感情を捨てたその言葉には、ザウンも身震いしていた。


《あいつの仇を取るんだ。》


「…あぁ。」

ザウンがまたも反応を遅らせたが、僕の言葉には同意するしかなかったようだ。


その後僕たちは全員で集まり〈魔王ティミルヌを倒す〉と静かな決意を固めた。


僕たちは、歩き続ける。今より強くなる。いつかシオンの仇を取るために…






いろいろ思い出してしまったな…


気づけば5分くらい墓の前で立ち尽くしていただろうか。

そろそろ出すか。

僕は持っていた袋から買ってきたコロッケを出して、そっと置いた。


「シオン、あの店のコロッケ好きだったよな。」

何年経っても忘れない。シオンのこと。

忘れてしまうのが怖い。だから毎年、この日はここに来ると決めている。


「そろそろ行くか…」

僕は立ち上がって出口へ向かって歩みを進めた。



また同じ街並みを通り抜け、

家に着いて扉を開けると、


「よぉ、レイン。おかえり!」

ザウンが待っていた。

「あぁ、ただいま。」

僕は返事をした。


「じゃあ、私も行こうかな。」

ロアンが言った。

「うん、いってらっしゃい。」

僕は玄関でロアンを見送った。


僕たちは、あの日シオンに転移されてから、血の滲む努力を重ね続け、更に強くなった。


「懐かしいな、クエンなんか『俺が全てを防ぐ!』なんて言ってたのに、結構早めにやられたよな。」

ザウンが馬鹿にするように言った。


「お前だって、『くらえ!俺の必殺技を!』とか言って、お前は攻撃当てれなかったじゃないか、それなのにシオンが魔法あてて…いや、すまん…」


シオンの名が出て一瞬間が空く。


「いや、俺もすまん…」


「…いいんじゃないかな」


「今日くらい、一緒にいても…」

僕は言った。


「そうだな。」

2人はこたえた。


「もう、7年なんだな。」

クエンが呟いた。

「そうだな。」

ザウンが返した。


「今日はコロッケでも作ろうかな。シオン、好きだったし。」


7年前、あの出来事がなければ、僕たちはまだ、本気で笑い合えていたのだろうか。

しかし、今更それが戻ることはない。


僕たちは前を向くしかない。立ち止まるわけにはいかない。

絶対に忘れない。


あの憎しみを…

あの日交わした、一つの約束を果たすために…


あの日の僕たちは、負けたんだ。

とりあえず、読んでくださりありがとうございます。

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