表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

孤島の十三日間

作者: ラプ太郎

第一章 招かれざる客


船が島に近づくにつれ、不安が増していった。


私——篠原ユウコは、デッキに立ちながら、目的地の島を見つめていた。三十五歳。出版社の編集者。今回の取材旅行は、私にとって重要な仕事だった。


「あれが、黒瀬島ですか」


隣にいた写真家の佐々木リョウが、カメラを構えた。二十代後半の若い男性で、今回の取材に同行してくれた。


「ええ。十年前の連続殺人事件の舞台となった島」


私は、資料を確認した。


十年前、この孤島で五人が殺された。犯人は見つからず、事件は未解決のまま。島民たちは恐怖に怯え、次々と島を離れた。今では、わずか十人しか住んでいない。


「怖いですね」佐々木が言った。


「でも、だからこそ取材の価値がある」


私たちは、この事件を再調査し、真相を暴くために島を訪れた。出版社の企画で、ノンフィクション本を出すためだ。


船が桟橋に着いた。


迎えに来ていたのは、島の管理人——高橋タケシという六十代の男性だった。


「ようこそ、黒瀬島へ」


高橋は、愛想笑いを浮かべたが、目は笑っていなかった。


「お二人だけですか?」


「いえ、後から他の方も来る予定です」


私は説明した。


今回の取材には、他にも数名が参加する。心理学者の田中ケンジ、元刑事の山本サトシ、そしてフリーライターの中村アキなど。


「そうですか。では、宿まで案内しますね」


私たちは、高橋の運転する軽トラックで宿に向かった。


島は、想像以上に荒廃していた。空き家だらけで、草が生い茂っている。人の気配がほとんどない。


「寂しい島ですね」佐々木が呟いた。


「ええ。十年前の事件以来、誰も住みたがらなくなりました」


高橋が答えた。


「事件のことは、覚えていますか?」私が尋ねた。


高橋の顔が、一瞬歪んだ。


「......ええ、覚えています。忘れられるはずがない」


宿は、島唯一の民宿——「海風荘」という古い建物だった。


女将の吉田サチコという五十代の女性が、私たちを迎えてくれた。


「いらっしゃい。部屋に案内しますね」


部屋は、清潔だったが、どこか陰気な雰囲気があった。窓からは、荒れた海が見える。


「夕食は六時からです。それまで、ゆっくりしてください」


吉田が去った後、私は一人で資料を読み返した。


十年前の事件——


最初の犠牲者は、島の漁師・黒瀬タロウ。自宅で刺殺された。


二人目は、小学校の教師・佐藤ハナコ。絞殺された。


三人目は、島の診療所の医師・前田シゲル。撲殺された。


四人目は、雑貨店の店主・鈴木ミドリ。毒殺された。


五人目は、島の郵便局員・伊藤ヨシオ。海に突き落とされた。


全て、異なる殺害方法。犯人の動機も、共通点も分からない。


ただ一つ確かなのは——犯人は、まだ捕まっていない。


夕方、他の取材メンバーが到着した。


心理学者の田中ケンジは、四十代の理知的な男性。元刑事の山本サトシは、五十代の厳格そうな男性。フリーライターの中村アキは、三十代の活発な女性。


そして、意外な人物も来ていた。


「こんにちは。私は、被害者遺族の黒瀬ユカリです」


二十代後半の女性が、自己紹介した。


「被害者遺族......?」


「はい。最初の犠牲者、黒瀬タロウの娘です」


ユカリの目には、深い悲しみと憎しみがあった。


「私も、真相を知りたくて来ました」


夕食は、全員で海風荘の食堂に集まった。


だが、会話は弾まなかった。全員が、緊張していた。


「では、明日から本格的な調査を始めましょう」


私が提案すると、全員が頷いた。


だが、その時——


停電が起きた。


真っ暗闇の中、誰かの悲鳴が聞こえた。


数秒後、電気が戻った。


全員が、互いを確認した。


だが——


一人足りない。


佐々木リョウが、いなくなっていた。


「佐々木さん!」


私は、叫んだ。


全員で、佐々木を探した。


そして——


彼は、食堂の隣の部屋で見つかった。


床に倒れ、首に深い傷があった。


血が、床に広がっていた。


「死んでる......」


山本が、佐々木の脈を確認した。


「殺されたんだ」


私は、震えた。


事件が、再び始まった。




第二章 疑心暗鬼


「警察を呼ばなければ!」


中村が叫んだ。


「無理です」高橋が答えた。「嵐が来ています。船は出せません」


「携帯は!?」


「圏外です。この島は、電波が届かない」


私たちは、完全に孤立していた。


そして、この中に——犯人がいる。


「落ち着いて」田中が言った。「まず、状況を整理しましょう」


私たちは、再び食堂に集まった。


「佐々木さんが殺されたのは、停電の間です」山本が分析した。「つまり、犯人はその隙に殺害した」


「停電は、偶然ですか?」私が尋ねた。


「いや、おそらく計画的だ」


山本は、ブレーカーを確認しに行った。


そして、戻ってきて言った。


「ブレーカーは、人為的に落とされていた」


全員が、互いを疑いの目で見た。


「つまり、犯人はこの中にいるということですか?」ユカリが震える声で言った。


「その可能性が高い」


田中が答えた。


「では、アリバイを確認しましょう。停電の時、皆さんはどこにいましたか?」


一人ずつ、答えていった。


高橋——「厨房で、食器を洗っていました」


吉田——「二階の自分の部屋にいました」


山本——「トイレに行っていました」


田中——「食堂にいました」


中村——「食堂にいました」


ユカリ——「食堂にいました」


そして、私——「食堂にいました」


全員が、完全なアリバイを持っていない。


誰もが、犯人の可能性がある。


「とりあえず、今夜は各自の部屋に鍵をかけて、朝まで出ないようにしましょう」


田中が提案した。


全員が同意した。


だが、私は眠れなかった。


部屋の鍵をかけ、ベッドに横になったが、恐怖で体が震えた。


佐々木は殺された。


次は、誰が狙われるのか。


そして——犯人は、誰なのか。


深夜、廊下から足音が聞こえた。


私は、息を殺して耳を澄ませた。


足音は、私の部屋の前で止まった。


ドアノブが、ゆっくりと回された。


だが、鍵がかかっているので開かない。


数秒後、足音は去っていった。


私は、恐怖で声も出なかった。


誰かが、私を殺そうとしたのか——


翌朝、私は他の部屋をノックして回った。


全員、無事だった。


だが、朝食の時、また一人足りないことに気づいた。


「高橋さんがいない」


吉田が、心配そうに言った。


私たちは、高橋の部屋に向かった。


ドアは、鍵がかかっていた。


「高橋さん! 開けてください!」


山本が、ドアを叩いた。


だが、返事はない。


山本は、ドアを蹴破った。


部屋の中には——


高橋が、ベッドの上で死んでいた。


首に、絞殺の痕があった。


「また......」


中村が、泣き崩れた。


「誰がこんなことを......」


私は、冷静を装ったが、心の中ではパニックになっていた。


二人目の犠牲者。


そして、犯人はまだこの中にいる。


「部屋は鍵がかかっていました」山本が言った。「つまり、高橋さんは自分で鍵をかけた。だが、犯人は中に入った」


「どうやって?」


「窓です」


山本は、窓を指差した。


窓は、少し開いていた。


「外から侵入したのか?」


「いや、おそらく犯人は高橋さんを殺した後、窓から脱出した」


田中が分析した。


「ですが、この部屋は二階です。飛び降りれば、怪我をするはず」


「それでも、脱出した」


私たちは、窓の下を調べた。


だが、血痕も足跡もなかった。


「おかしい......」


その時、ユカリが叫んだ。


「見て! あれ!」


彼女が指差したのは、壁に書かれたメッセージだった。


血で書かれた文字。


『一人目。あと七人』


私の心臓が、激しく鼓動した。


これは——連続殺人だ。


犯人は、私たち全員を殺すつもりだ。




第三章 真実の断片


「警察が来るまで、ここにいるわけにはいかない」


山本が言った。


「何か、方法があるはず」


「船は?」中村が尋ねた。


「嵐で無理です」吉田が答えた。


「では、無線は? 連絡手段は何かないんですか?」


「あります。高橋さんの事務所に、無線機が」


私たちは、高橋の事務所に向かった。


だが——


無線機は、破壊されていた。


「犯人が......」


誰かが、呟いた。


私たちは、完全に孤立した。


外部との連絡手段はない。


嵐は激しくなり、脱出も不可能。


そして、この中に殺人鬼がいる。


「落ち着いて」田中が言った。「犯人を見つけましょう。そうすれば、助かる」


「どうやって?」


「まず、動機を考えるんです」


田中は、ホワイトボードに犠牲者の名前を書いた。


「佐々木リョウ——写真家。この島とは無関係」


「高橋タケシ——島の管理人。十年前の事件を知っている」


「この二人に、何か共通点は?」


全員が、考え込んだ。


だが、答えは出なかった。


その時、ユカリが言った。


「十年前の事件と、関係があるんじゃないですか?」


「どういうことですか?」私が尋ねた。


「高橋さんは、十年前の事件を知っていた。もしかしたら、犯人を知っていたのかもしれない」


「だから、殺された?」


「そうです。そして、佐々木さんは——」


ユカリが、写真を見せた。


「佐々木さんが撮った写真です。昨日、島を撮影していた時の」


写真には、古い廃屋が写っていた。


「これは?」


「十年前、最初の犠牲者——私の父が殺された家です」


ユカリの目に、涙が浮かんだ。


「佐々木さんは、この家を撮影していた。もしかしたら、何か見つけたのかもしれない」


私たちは、その廃屋に向かうことにした。


雨の中、傘を差して歩いた。


廃屋は、島の外れにあった。


ドアは、半分壊れていた。


中は、荒れ果てていた。


だが、奥の部屋に——


古いノートが置かれていた。


私は、それを拾った。


開くと、そこには——


日記が書かれていた。


「これは......」


私は、読み始めた。


『今日も、あいつらに嫌がらせをされた』


『島の人間は、みんな偽善者だ』


『いつか、復讐してやる』


日記は、十年前のものだった。


そして、書いたのは——


「黒瀬タロウ......?」


ユカリの父だった。


「父が......こんなことを......」


ユカリは、ショックを受けていた。


私は、さらに読み進めた。


そして、衝撃的な記述を見つけた。


『島の連中を、全員殺す計画を立てた』


『一人ずつ、確実に』


『そして、最後に自分も死ぬ』


「これは......」


山本が、ノートを奪った。


「黒瀬タロウが、連続殺人を計画していた?」


「でも、彼自身が最初の犠牲者ですよ」中村が言った。


「計画が、狂ったのか?」


田中が分析した。


「もしかしたら、黒瀬タロウは殺人を実行する前に、誰かに殺された」


「では、真犯人は別にいる?」


「そうです。そして、その真犯人が——今、私たちを殺している」


私は、恐怖で震えた。


十年前の真犯人が、まだ生きている。


そして、この中にいる。


その時、廃屋の外から声がした。


「助けて!」


吉田の声だった。


私たちは、慌てて外に出た。


だが——


吉田の姿はなかった。


「どこに!?」


私たちは、辺りを探した。


そして——


吉田は、崖の下で見つかった。


転落死していた。


「三人目......」


中村が、泣きながら言った。


私は、崖の上を見た。


誰かが、立っていた。


だが、雨で顔は見えない。


「犯人だ!」


山本が、走り出した。


だが、人影は消えた。


私たちは、必死に追いかけた。


だが、見失った。


犯人は、私たちの中にいる。


そして、一人ずつ殺していく。


次は、誰が狙われるのか——




第四章 崩壊する信頼


宿に戻った私たちは、互いを疑い始めていた。


「誰が、吉田さんを殺したんだ!」


山本が、全員を睨んだ。


「吉田さんが助けを求めた時、誰かがいなかった」


「私は、ずっと廃屋にいました」田中が答えた。


「私もです」中村が言った。


「私も」ユカリが震える声で言った。


「嘘だ! 誰かが嘘をついている!」


山本が、テーブルを叩いた。


その時、私は気づいた。


「待って。私たち、何人いますか?」


全員が、数えた。


「六人......」


最初は、十人だった。


佐々木、高橋、吉田——三人が死んだ。


残りは、七人のはずだ。


だが、ここにいるのは六人。


「一人、足りない......」


「誰が!?」


私たちは、互いを確認した。


そして、気づいた。


「田中さんがいない!」


田中ケンジが、いなくなっていた。


「いつ!?」


「さっきまで、ここにいたはずだ!」


私たちは、宿中を探した。


そして——


田中は、地下室で見つかった。


だが、死んではいなかった。


縛られて、猿ぐつわをされていた。


「田中さん!」


山本が、田中を解放した。


「大丈夫ですか!?」


田中は、荒い息をしながら言った。


「犯人が......私を......」


「誰ですか!?」


「見えなかった......後ろから襲われて......」


田中は、震えていた。


「でも、一つだけ分かったことがある」


「何ですか?」


「犯人は、女性だ」


その言葉に、全員が凍りついた。


ここにいる女性は——


私、中村、ユカリの三人。


「誰が......」


互いに疑いの目を向けた。


「違います! 私じゃありません!」


中村が叫んだ。


「私もです!」


ユカリも否定した。


私は、何も言えなかった。


なぜなら——


私には、証明する方法がないからだ。


その夜、私たちは一つの部屋に集まることにした。


全員で監視し合う。


誰も、一人にならない。


そうすれば、殺人は起きないはずだ。


だが——


深夜、停電が再び起きた。


「また!?」


誰かが叫んだ。


真っ暗闇の中、混乱が広がった。


そして——


銃声が響いた。


電気が戻った時——


山本が、床に倒れていた。


胸に、銃創があった。


「山本さん!」


だが、彼はもう息をしていなかった。


「誰が撃った!?」


全員が、互いを見た。


だが、誰も銃を持っていない。


「犯人は、どこに銃を隠した!?」


私たちは、部屋中を探した。


だが、銃は見つからなかった。


まるで、消えたかのように。


「これは......おかしい」


田中が、呟いた。


「犯人は、どうやって銃を隠したんだ?」


その時、私はあることに気づいた。


「待って。山本さんが撃たれた時、私たちは全員ここにいた」


「そうです」


「つまり、外部の人間が侵入した可能性は?」


「ありません。ドアも窓も、鍵がかかっていました」


「では......」


私は、恐ろしい結論に達した。


「犯人は、この中に二人いる」


全員が、息を呑んだ。


「二人......?」


「そうです。一人が停電を起こし、もう一人が殺す。そして、銃を受け渡す」


田中が、私の推理を補強した。


「つまり、共犯者がいる」


私たちは、互いを疑った。


五人の中に、二人の殺人鬼がいる。


誰が、誰を信じればいいのか——


その時、中村が突然笑い出した。


「アハハ......もう、無理......」


彼女は、精神的に限界だった。


「誰でもいい......早く、終わらせて......」


中村は、床に座り込んだ。


私も、限界が近かった。


恐怖、疑心暗鬼、そして絶望——


いつ、自分が殺されるのか。


いつ、この悪夢が終わるのか。


翌朝——いや、もう朝なのかも分からない——


私は、一つの決意をした。


「犯人を、見つけなければならない」


残された手がかりを、すべて集めた。


黒瀬タロウの日記、佐々木の写真、そして——


高橋の部屋で見つけた、古い新聞記事。


それらを繋ぎ合わせると——


恐ろしい真実が見えてきた。




第五章 孤島の真実


「皆さん、集まってください」


私は、残された四人を集めた。


田中、中村、ユカリ——そして、もう一人。


「誰が犯人か、分かりました」


全員が、私を見た。


「まず、十年前の事件から説明します」


私は、黒瀬タロウの日記を見せた。


「黒瀬タロウは、島の人々に恨みを持っていた。そして、連続殺人を計画していた」


「ですが、彼自身が最初の犠牲者になった。なぜか?」


私は、古い新聞記事を見せた。


「これを見てください。十年前、黒瀬タロウには愛人がいました」


ユカリが、驚いた顔をした。


「愛人......?」


「はい。そして、その愛人は——吉田サチコでした」


全員が、息を呑んだ。


「吉田さんは、黒瀬タロウの計画を知っていた。そして、彼を殺した」


「なぜ?」


「黒瀬タロウの計画には、吉田さん自身も含まれていたからです」


私は、日記の最後のページを見せた。


そこには、こう書かれていた。


『最後に、裏切った女も殺す』


「吉田さんは、自分の命を守るために、黒瀬タロウを殺した。そして、他の四人も殺した」


「では、今回の殺人は?」


「吉田さんは、十年前の真実が暴かれることを恐れていた。だから、私たちが来ることを知って——」


私は、言葉を続けた。


「共犯者を用意した」


「共犯者?」


「はい。吉田さんは、一人では今回の殺人を実行できなかった。だから、誰かに協力を求めた」


「誰に?」


私は、一人を指差した。


「ユカリさん、あなたです」


ユカリの顔が、一瞬歪んだ。


だが、すぐに笑顔に戻った。


「何を言っているんですか? 私が、なぜ?」


「あなたは、自分が黒瀬タロウの娘だと言いました。でも、それは嘘です」


私は、証拠を見せた。


「黒瀬タロウに、娘はいませんでした。戸籍を調べました」


「では、あなたは誰なのか?」


「あなたは——吉田サチコの娘です」


ユカリの表情が、変わった。


冷たい、殺意に満ちた目。


「よく、分かりましたね」


ユカリが、微笑んだ。


「そう、私は吉田サチコの娘。そして、母を助けるために、この島に来ました」


「なぜ、こんなことを......」


「母を守るためです。十年前の真実が暴かれれば、母は逮捕される」


ユカリは、ナイフを取り出した。


「だから、皆さんには死んでもらいます」


田中と中村が、後ずさった。


だが、私は動かなかった。


「ユカリさん、もう終わりです」


「終わり?」


「はい。吉田さんは、既に死んでいます。あなた一人では、私たち全員を殺せない」


ユカリは、笑った。


「誰が、一人だと言いました?」


その瞬間——


田中が、私の首に腕を回した。


「田中さん!?」


「すまない、篠原さん。私も、共犯者なんだ」


私は、裏切られたショックで言葉が出なかった。


「なぜ......」


「金だよ。ユカリから、大金をもらった」


田中は、冷たく言った。


「心理学者なんて、儲からない。だから、この仕事を引き受けた」


中村が、泣きながら言った。


「やめて! もう、これ以上殺さないで!」


だが、ユカリと田中は聞かなかった。


「さあ、最後の仕事だ」


ユカリが、ナイフを構えた。


その時——


外から、サイレンの音が聞こえた。


「警察だ!」


中村が、叫んだ。


ユカリと田中の顔が、青ざめた。


「まさか......」


私は、微笑んだ。


「私、昨夜、密かに無線機を修理しました。そして、警察に連絡しました」


ユカリが、激昂した。


「嘘!」


彼女は、私に向かってナイフを振り下ろした。


だが——


その瞬間、ドアが蹴破られ、警察官たちが突入してきた。


「動くな!」


ユカリと田中は、その場で拘束された。


私は、安堵の涙を流した。


「終わった......」


中村が、私を抱きしめた。


「ありがとう、篠原さん......」


数時間後、私たちは船で島を離れた。


警察の取り調べで、すべてが明らかになった。


十年前、吉田サチコは黒瀬タロウとその計画対象者四人を殺害。


そして今回、娘のユカリと共犯者の田中を使って、真実を隠蔽しようとした。


だが、失敗した。


船のデッキに立ち、私は島を見つめた。


黒瀬島——十年間、暗い秘密を抱えていた島。


今、ようやく真実が明らかになった。


「篠原さん」


中村が、隣に来た。


「これで、本当に終わりですね」


「ええ......」


私は、深く息を吐いた。


「でも、多くの犠牲が出てしまった」


佐々木、高橋、山本——三人の命が失われた。


吉田サチコも、娘を庇おうとして崖から転落した。彼女の死は事故か自殺か、分からない。


「あなたが、無線機を修理していなければ、私たちも殺されていました」


中村が、感謝の言葉を述べた。


「いえ、私も必死でした」


実は、私が無線機を修理できたのは偶然だった。


昨夜、一人で高橋の事務所に忍び込み、壊された無線機を調べた。そして、配線を繋ぎ直すことで、何とか動かすことができた。


警察に連絡した時、私は震えていた。


もし失敗していたら——


「でも、成功したんです」中村が微笑んだ。「あなたは、英雄です」


私は、首を横に振った。


「英雄なんかじゃありません。ただ、生き延びたかっただけです」


船は、本土に向かって進んでいた。


黒瀬島が、どんどん小さくなっていく。


あの島には、もう二度と行きたくない。


だが、同時に思った。


人間の闇は、深い。


愛する者を守るために、吉田サチコは殺人を犯した。


そして娘のユカリも、母を守るために殺人を犯した。


愛が、人を狂わせる。


恐怖が、人を殺人者に変える。


「篠原さん、これから何をされますか?」


中村が尋ねた。


「この事件のこと、本にしますか?」


私は、少し考えた。


「分かりません。まだ、整理がついていなくて」


「でも、真実は記録すべきです」


「そうですね......」


私は、手帳を取り出した。


そこには、事件の記録が詳細に書かれていた。


犠牲者の名前、事件の経緯、そして犯人の動機——


これを本にすれば、大きな話題になるだろう。


だが、同時に——


死者を冒涜することにもなる。


「時間をかけて、考えます」


私は、手帳を閉じた。


船が、本土の港に着いた。


そこには、多くの報道陣が待っていた。


「篠原さん! 事件について、聞かせてください!」


「犯人は、本当に被害者遺族だったんですか!?」


フラッシュが、私たちを照らした。


私は、何も答えず、警察の車に乗り込んだ。


数週間後、私は東京のアパートに戻っていた。


事件は、連日報道された。


「黒瀬島連続殺人事件の真相が明らかに」


「十年前の未解決事件も、同一犯の犯行」


テレビも新聞も、この事件を取り上げた。


だが、私は取材を一切受けなかった。


ただ、静かに過ごしたかった。


ある日、一通の手紙が届いた。


差出人は、拘置所にいるユカリだった。


開封すると、そこには——


『篠原さん、あなたを恨んでいません。むしろ、感謝しています』


意外な内容だった。


『母は、十年間、罪の重さに苦しんでいました。毎晩、悪夢を見て、泣いていました』


『私は、母を楽にしてあげたかった。だから、すべてを終わらせようとしました』


『でも、あなたが真実を明らかにしてくれた。これで、母も楽になれると思います』


『ありがとうございました』


私は、手紙を読み終えて、涙が出そうになった。


ユカリは、歪んだ愛情で母を守ろうとした。


だが、結局、それが母を苦しめた。


人間は、複雑だ。


善と悪、愛と憎しみ——


すべてが、混ざり合っている。


私は、手紙を机の引き出しにしまった。


そして、パソコンに向かった。


新しいファイルを開き、タイトルを入力した。


『孤島の十三日間——黒瀬島連続殺人事件の真相』


私は、書き始めた。


事件の記録を。


犠牲者たちの物語を。


そして、人間の闇と光を。


これが、私にできることだ。


真実を記録し、後世に伝える。


同じ悲劇が、二度と起きないように。


数ヶ月後、本は出版された。


大きな反響があった。


賛否両論——


「真実を明らかにした勇気ある作品」


「死者を冒涜している」


様々な意見があった。


だが、私は後悔していなかった。


これが、私の選んだ道だから。


ある日、中村から電話があった。


「篠原さん、本読みました」


「どうでしたか?」


「素晴らしかったです。あの恐怖が、よみがえりました」


中村は、少し笑った。


「でも、もう二度と、あんな経験はしたくないですね」


「私もです」


「ところで、新しい仕事のオファーがあるんですが」


「何ですか?」


「別の未解決事件の調査です。興味ありますか?」


私は、少し考えた。


黒瀬島の悪夢——


あれを、もう一度経験したいか?


答えは、ノーだ。


だが——


未解決事件には、苦しんでいる人がいる。


真実を知りたがっている人がいる。


「話だけでも、聞かせてください」


私は、答えた。


中村が、嬉しそうに言った。


「ありがとうございます! じゃあ、来週会いましょう」


電話を切った後、私は窓の外を見た。


東京の街——


明るく、賑やかで、生命に満ちている。


黒瀬島とは、正反対だ。


だが、この街にも——


闇は存在する。


未解決事件、隠された真実、苦しんでいる人々——


私は、それらと向き合っていく。


恐怖を感じながらも。


危険を承知で。


なぜなら——


それが、私の使命だと思うから。


真実を追い求める者として。


記録者として。


私は、再びパソコンに向かった。


次の物語を、書き始めるために。


人間の闇と光の物語を。


そして、真実の物語を。


黒瀬島の悪夢は、終わった。


だが、私の戦いは——


まだ、続く。




エピローグ


それから三年が経った。


私は、いくつかの未解決事件を調査し、本を出版した。


どれも、話題になった。


そして、私は「真実の追求者」として知られるようになった。


だが、心の中では——


いつも黒瀬島のことを思い出す。


佐々木の笑顔。


高橋の優しさ。


山本の厳格さ。


彼らは、もういない。


だが、私の記憶の中で生き続けている。


ある日、私は黒瀬島を再び訪れた。


あれから三年、島はどうなっているのか。


船で島に着くと——


驚いたことに、島は復興していた。


新しい家が建ち、若い家族が移住してきていた。


「あなたは......篠原さん?」


一人の若い女性が、声をかけてきた。


「はい」


「本、読みました。あの事件のこと、知っています」


女性は、微笑んだ。


「でも、私たちは未来を見ています。過去にとらわれず、この島を再生させたいんです」


私は、感動した。


人は、過去を乗り越えることができる。


悲劇を糧に、新しい未来を作ることができる。


「頑張ってください」


私は、女性に言った。


「この島が、幸せな場所になることを願っています」


「ありがとうございます」


私は、かつての海風荘の跡地を訪れた。


そこは、今は公園になっていた。


子供たちが、笑いながら遊んでいる。


あの恐怖の舞台が、今は笑顔の場所になっている。


時間は、すべてを変える。


傷は、癒える。


そして、人々は前に進む。


私は、公園のベンチに座った。


海を見つめながら、考えた。


真実を追い求めることの意味。


記録を残すことの価値。


そして——


生きることの尊さ。


黒瀬島は、私に多くのことを教えてくれた。


恐怖、勇気、そして人間の本質を。


私は、これからも書き続ける。


真実を追い求め、記録し、伝える。


それが、私の人生だ。


海風が、優しく吹いていた。


私は、目を閉じた。


そして、心の中で呟いた。


「安らかに眠ってください。佐々木さん、高橋さん、山本さん」


「あなたたちのことは、忘れません」


風が、答えるように吹いた。


まるで、彼らが「ありがとう」と言っているようだった。


私は、立ち上がった。


そして、船に向かって歩き出した。


新しい物語が、私を待っている。


新しい真実が、明らかにされるのを待っている。


私は、それを追い求める。


恐怖を乗り越えて。


危険を承知で。


なぜなら——


それが、私の選んだ道だから。


真実の追求者として。


そして、生存者として。


黒瀬島の十三日間は、私の人生を変えた。


あの恐怖を、私は決して忘れない。


だが、同時に——


あの経験が、私を強くした。


私は、前を向いて歩き続ける。


真実を求めて。


光を求めて。


そして——


生きるために。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

読者の皆様には、感謝いたします。

ラプ太郎先生の次回作にも乞うご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ