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大都會

〈大根の苦み殘りて半ば冬 涙次〉



【ⅰ】


カンテラは、事務所の結界を張り直した。だうやら、ルシフェルは水晶玉で事務所の模様を常に見張つてゐるらしい。


「杵は今日オフかい?」-テオ「はい。何だかお仲間が撮つた映画観に行くつて」-「バイク出せないのか。結界の件、『方丈』に急ぎの用があつたのだが」-「バイクなら、フルくん呼びませうか?」-「頼む」結界を事務所の各部屋に張る為には、護摩壇の灰が必要だつた。それがないと、新たな結界が完成しない。



【ⅱ】


杵塚は、愛車の中の一台、ホンダE.VOに跨つて、彼の友人で弟子とも云へる日下部源士(くさかべ・みなを)のマンションの部屋へ向かつてゐた。何でも8ミリで映画、らしき物を撮つたので、それを観て感想が慾しいと云ふ事。


映画は、友逹のやつてゐる劇團「巨鯨海域」の、地方どさ回りを淡々と追つたものだつた。ストリップ小屋で舞踏集團「大駱駝艦」のパロディの、金粉ショウを演じる處が、フィルムのアナログな質感にマッチして、良かつた。客は杵塚一人の「試冩會」。日下部は杵塚に禮を云ふと、「インスタントですが」と珈琲を出してくれた。少し話をしてから、杵塚はマンションを辞した。杵塚、多忙である。これから楳ノ谷汀と會食の豫定が入つてゐた。



【ⅲ】


「さうやつて、新しい才能が杵くんの許から羽撃いて行くのね。素晴らしい事だわ」と楳ノ谷。「いや、才能と云ふ程の物では、ないよ。まだまだ未完成だ。ところで、俺何か約束したつけ? 申し譯ないが忘れてしまつた」-「? 約束なんか、特にはなかつたわ」-「何か忘れてゐる氣がする。氣にしないでね」-それが大ごとに繋がつて行く事は、杵塚、氣が付いてゐなかつた。



※※※※


〈何処迄も追ひかけて來る災難が私の詩歌を見張つてゐるよ 平手みき〉



【ⅳ】


翌日、楳ノ谷と後朝を迎へると、その足でカンテラの事務所に向かふ。何時もの事で、何も變はつちやゐない。だが、何事か忘れてゐるやうな豫感は續いてゐた。


(パパ、杵塚さんをわたしに近付けないで)君繪-(何だい? 奴を遠ざけたい理由でも?)-(杵塚さん、この儘ぢやわたしを攫つてしまふ)-(? 豫知能力? それは確かなの?)-(杵塚さん、昨日観たフィルムにサブリミナル効果があつた事、氣付いてないわ)



【ⅴ】


ルシフェルは、新たな結界の事、豫期してゐた。この儘では、幾ら「ニュータイプ【魔】」と云へども、カンテラの事務所には近付けなくなる。-で、日下部を誘惑して、「落とした」。サブリミナルの画像を用意したのも、ルシフェル。日下部は魔道に墜ちた。



【ⅵ】


杵塚はじろさんの手に依つて、捕縛された。「ど、だう云ふ『云ひ掛かり』ですか!?」-「云ひ掛かりなんかぢやないさ。この儘で行くと、杵、きみは君繪を魔界に連れて行く事に、加担する」-「え゙。僕が君繪ちやんを攫ふつて事ですか?」-「きみは、きみの仲間に誑かされてるんだ」


で、じろさん、昨日観た映画にサブリミナル効果のあるショットが多數含まれてゐた事を説明した。(忘れてゐた事つて、これだつたのか)-じろさん「捕縛は直に解く。日下部つて奴の事は、テオに調べて貰つたよ。バイクの後ろ、カンさん乘せてくれるな?」-「は、はい」



【ⅶ】


驚いた事に、日下部の住處についての記憶が、一切脱落してゐる。ルシフェルは用心深かつた。が、住處はテオの調べで直ぐに分かつた。


「申し譯ないが、日下部くんは斬るぞ」-「彼が魔道に墜ちたのなら、致し方ないです」

「げ、カンテラ!」-日下部は、半覺醒狀態の儘、カンテラに斬られた。「しええええええいつ!!」



【ⅷ】


「まさか、この僕が、サブリミナルに取つ捕まつたなんて」-「それよりも、彼の菩提を弔つてやつてくれ。淋しかつたんだな。自分の才能をルシフェルに褒められ、それが嬉しかつたんだらうよ。大都會の、一つの犠牲者だよ。彼は」-


結局、「映画葬」と云ふ事で、大勢の仲間逹が集まつて、葬儀は盛大に行はれた。身寄りのない日下部、仲間が家族の替はりだつた。明らかにはにかんでゐる遺影は、彼の氣質を良く物語つてゐた。献花が後を絶たない。友人代表として、杵塚がスピーチをした。「彼を斬つたのはカンテラさんだ。だがカンさんを恨まないでくれ。皆も、ルシフェルの誘惑に『落とされ』ないよう、氣を付けて慾しい」



【ⅸ】



※※※※


〈焼き林檎氣が利いてゐる喫茶店 涙次〉


皆の會合場處になつてゐる酒場で、内々の「お別れ會」が開かれた。仕事の代金は、映画仲間逹の醸金で賄つた。皆貧乏なので、大したカネにはならなかつたが。「いゝ奴だつたのに」-大聲で泣き喚く者もゐた。その晩は、修羅場だつたが、杵塚は最後迄付き合つた、と云ふ。お仕舞ひ。

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