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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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百の足

作者: 真夜中20時
掲載日:2025/10/29

背中に、虫の這うような感覚を覚えた。

無数の足が、今もなお絡みつくようだった。

冷たさだけが、現実だった。


反射的に体を起こし、息を整えながら階下へ向かう。


廊下の板は夜の冷気を吸い、ひどく冷たかった。

下着姿のまま、足の裏から熱が抜けていく。


できるだけ床に触れないよう、大股で足先を動かしながら急いだ。


手すりに触れる指先の冷たさに、思わず肩が小さく震えた。


階下に降りると、リビングに姉の姿が見えた。

正確には姉であったはずの死体である。


見渡すと、ほかにも死体が転がっている。

血は乾きかけていて、鈍く光を返していた。


鼓動が頭まで伝わった。

声を出すことができなかった。


ソファーに女がいた。

足を組み、片手で髪をいじりながら、ゆっくりとこちらを見た。


「起きたんだ。おはよう。」


その声を聞いた瞬間、思い出した。


この女は、俺が自分で家に連れてきた。

「誰にも見つからない夜」を味わいたいなんて、くだらない理由で。


けれど、なぜ姉が――


リビングの隅で倒れている。

そしてその背に、ナイフが刺さっている。


その声は、朝の挨拶のように穏やかで、怒りも焦りもない。

ただ静かに響くだけの平然さが、何より恐ろしく思えた。


俺は何も言えなかった。


目は女を捉えたまま、頭の中では()()()()()()という問いだけがぐるぐる回っていた。


女は立ち上がらず、まるでこの光景が日常の一部かのように、ゆっくり微笑んだ。


「どうしたの? そんな顔して。」


その笑みが、あまりにも自然で――逆に不気味だった。


たぶんその瞬間、俺は()()という言葉を思い出したのだと思う。


気づけば、手が勝手に動いていた。

姉の背に刺さっていたナイフを抜き、女に歩み寄る。


女はわずかに首を傾けた。

その仕草は、まるで「待っていた」とでも言うようだった。


俺は女を押し倒した。

馬乗りになって、何度も何度も刃を突き立てた。


血が跳ねるたびに、息が荒くなり、音もなく夜が崩れていった。


女はふっと笑みを消した瞬間、空気が一瞬だけ止まったような感じがした。


そして、もしかしたら起き上がるのではないかと思い、一分ほど見下ろしていた。


血の乾いた感触を指先で確かめると、そのまま手を洗いに行った。


短い廊下を進み、父の体をまたいで風呂場へ入る。


冷たく伸びた父の足の横を跨ぐと、胸の奥がぎゅっとなったが、

動作は無言で淡々としていた。


蛇口をひねると、水が生々しく流れ、赤が小さく流れて消えた。


水音が止まった瞬間、蛇口の金属面に映る自分の顔が、女のそれに見えた。


不気味に思い、急いで手洗い場から去った。


静寂が戻ったあと、俺はただ立ち尽くしていた。


まな板の上には、不安定な断面のリンゴが置かれていた。

鮮やかすぎる赤が、じわじわと黒くなっているような気がした。


ふと、喉の奥が重くなる。

昨夜の記憶を掴もうとしても、指の間からこぼれていく。


女の笑い声だけが耳の奥に残っている。


俺は、いつから眠っていたのだろう。


指先に、また虫の這うような感触がした。

呼んでくださり、ありがとうございました。

これが夢であるのならどれだけよかったことだろう。

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