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同級生

 死んでいた。高校2年生の夏休み。


 思うことは、なにもなかった。

 あいつと会ったのは中学2年生の時だった。お世辞抜きで、可愛かった。俺が出会っている中で1番。

 学年で1番可愛いと言われている女も芋っぽくしか見えなくて、興味がなかった。そんな時、校外学習の班で同じになったのがあいつだった。


「よろしく。」


 俺は周りの目から見れば顔がいいようで、どこの女も、学年一可愛いと言われる女も俺の目に留まりたいという期待の眼差しを向けながら話しかけられ、男からは嫉妬の眼差しを向けられながら話しかけられていた。

 それが、何の期待も嫉妬も含まれない眼差しが向けられた時、他の人とは違うんだという期待と、なぜこの顔に惚れないんだという屈辱を勝手に受けた。


 そいつは俺と違っていて、老若男女誰からも好かれていた。俺はそいつの人付き合い方を見て盗んで、自分のものにした。

 俺はあいつと同じようになれたと思い、満足した。そうしてできた俺の金魚の糞に、ちらと聞いた情報によると、あいつは小2の時、母親が夜逃げをしたようだった。


 俺はその話を聞いた頃にはもうあいつへの興味は一切なくなっていて、中学最後の一年は順風満帆に過ごした。




 高校に入学し、またあいつと同じクラスになった。あいつは高校に入学して馴染みの友人と離れてしまっても、いつも人に囲まれていた。俺もすぐに金魚の糞が出来上がると思っていたが、高校の奴らはすぐに俺に期待と嫉妬

の眼差しを向け、嫌煙された。

 なぜ俺とあいつは同じように人と接しているのに、俺はこんなに惨めな思いをしていなくちゃならないんだと憤りを覚え、俺はあいつの根も葉もない噂を広め、その噂はすぐに、あいつを羨ましがって妬んでいる奴らによって拡散された。

 最初はあいつを庇っている奴もいたが、噂の内容がどんどんエスカレートしていくうちに庇う者はいなくなり、あいつだけが孤立している状態に気づいた当時の担任は、自分の学級に騒動があると認めたくないのか、これ以上仕事が増えるのが嫌だったのか、見てみぬふりをした。

 担任が見て見ぬ振りをしていると気づいたクラスメイトは、そうして陰であいつに対していじめが始まった。


 そうしてあいつというクラスの代表がほぼ潰れたところで体育祭の時に俺がまとめ役になり、クラスみんなからの人気を得た。


 あるとき俺が早くに登校するとあいつがいて、あいつが俺に言ってきた。


「噂を広めたのはあなたでしょう。」


 その時に向けられた眼差しは、クラスの奴らから向けられるどれとも違って、懐かしさを覚えた。


 その言葉に同意をしたら、そいつは自分の席に座って携帯電話を見ていたため、俺はこの早くもつまらなくなってしまった高校生活を面白くするために、あいつにカマをかけてみる。


「言ってやろうか。お前の父親、浮気されて女に逃げられたんだって?」


 それを聞くとあいつは椅子を倒す勢いで立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んできた。


「違うから。どんな思いでお母さんは…」


 そう言ってやっと、あいつは俺に他の奴らが俺に向けてくるような憎しみの眼差しを向けてきた。

 俺は学校という場所でやっと楽しくなれたような気がした。




 俺はその日から朝早くに登校し、あいつと話すようになった。


 今思えば、顔にも性格にもちっとも俺という存在になびかないあいつに興味を持ち始め、惚れ始めていたんだと思う。あいつは中学の時よりも大人っぽくなり、可愛らしいよりかは美人になっていた。


「あなたのその性格クラス中に知らしめてやりたいわ。」


 ある時あいつはこう言ってきた。

 俺をあいつのようにクラスの中で孤立させたいらしい。そうさせたい気持ちは分からなくもないが俺となっては困るので、脅すことにした。あいつは父親と母親のことについて言うと過剰に反応するため面白かった。


「そうしたら、今のお前の状況、お前の父さんに伝えてやるよ。」


 そう言うとあいつは怒ったのか、しばらく口を聞いてくれなかった。




 ずるずるよく分からない関係が続いていき、高校2年生になる時にクラスが離れてしまうとつまらない高校生活に逆戻りすると思い、担任にあいつと同じクラスになれるように、俺があいつのことを好きなんだと嘘をついて、話をしておいた。そのノリで学年主任にも同じ話をしておいた。

 嘘と言っても、担任と学年主任に言った時には、多分それは本当になっていたんだと思う。ただ、心も片隅で思っていて、自覚をしようとしていなかっただけで。


 高校2年の始業式にはあいつと同じクラスになれて内心めっちゃ喜んだが、クラスに早く登校する奴らが増えたため、帰りに話すようになった。

 するとあいつの自宅も分かり、あいつとはずるずると体の関係を持つようになった。


「もうやめましょうよ、こんなの。」


 夏休みの直前、終業式が終わった後、あいつの家でそう言われた。


「何なのこの関係。受け入れてしまった私にも非はあるけど、これは良くないわよ。あと半年で受験シーズンよ。終わりにしましょう。」


 強く頭を殴られたような気分だった。俺は咄嗟に言葉を放った。


「じゃあ死ね。終わらせたいなら死ね。この夏休み中に、死んでなかったらお前の父親に学校のことも、

関係を持ったことも全部話してやるわ。」


 あいつは強い怒りと憎しみの形相で俺を睨んできて、俺を家から追い出した。


「さっさと出てって!」


 これがあいつと俺が話した最後の会話だった。


 夏休み中のセミナーで顔を合わせるが、俺があいつの方を向いていても顔も視線も向けてくれなかった。

 冗談のつもりだったが、あいつには冗談だと思われなかったらしい。


 夏休みが始まって14日、担任からあいつが死んだと連絡があった。


 俺はあいつが冗談混じりだとわかっているだろと思っていたが、そんなことはなかった。俺はあいつのことをわかっていたつもりでいたが、何一つわからなかったらしい。




♢♢♢




 あいつの親が告別式にクラスメイトを参列の依頼をしたらしい。俺はあいつのクラスメイトで良かったとつくづく思う。


 式場に向かう途中、他のクラスメイトもいたので、声をかけて一緒に向かう。


「それにしても、なんで夏休みなんだ?いじめも夏休みの間はされなくて安心だろ!」


「ばか!そんなこと言わないの、これから本人の葬式なんだよ罰当たりだよ、ねぇ?」


 ノンデリ男に注意をしたが否定をしなかった女が俺に同意を求めてきた。俺はあいつとはこいつら以上に関わりがあったと思っているので、否定も肯定もせず、笑って誤魔化しておく。


「お前ら歩くペース遅すぎな?先行っちまうぞ。」


 そう言って、同意を求めてきた女の肩を組んで、少し早いペースで歩き出した。

 女は黄色い悲鳴をあげ、俺と先に歩いて行った。




 式場に着くと、あいつの両親と挨拶をした。

 あいつは両親のいいとこ取りをして生まれてきたんだと思った。

 母親は可愛らしい顔立ちで、父親はやつれているけどあいつが死んでないいつもの調子だったら絶対ハンサムイケメンだ。あいつはそれを足して二で割ったような雰囲気だった。


 式を終え、あいつらと同じテンションで帰路につくことはできなくて、適当なことを言って先に帰らせた。

 あいつの面影を求めて遺影をじっと眺めていると、人が近づいてくる。


「君、娘を殺しただろう。」


 父親だった。1番あいつのことを大事に思っているだろう。あいつを産んだ母親よりも。

 そんな父親に、確信をつかれた。絶対にわかるはずがないのに、あいつの親なんだから、やっぱり一味違うよなと面白くなり、口を開く。


「そうだね。」


 そういうと、あいつの母親に叩かれた。ひどい顔だ。


「あなたね!!!」


 俺は、頭がぼうっとして、何も考えられなくて、何の感情も、言葉も湧いてこなくて、脳がスリープモードに入ったかのようだった。


「やめなさい。汚いものに触るんじゃないよ。」


 あいつの親が何かを話しているようだが、何とも反応できない。ただ、何となく体の拘束がとれたようなので、何となくお礼を言ってみる。


「ありがとうございます。」


「ここで話すのはよくないだろう。うちに来なさい。」


 誰かに引きずられているようだが、体が思うように動かなくて抵抗できない。


 俺は、あいつがいないと何もすることができない。生きていけない。




 俺は、あいつの両親に連れ去れれた。

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