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57話 問題児二人

パシフィック校の訓練場。

カオリとアマネは、たった今模擬戦を終えた。

カオリの朱羅のエネルギーフィールドが尽き、そのまま大の字倒れ込んだ。


「はぁー、負けだ。悔しいが、天晴と言わざるを得ないな」


立っているもののアマネは息を切らしている。


「はぁはぁ。公式戦でないとはいえ、雪辱を果たせる日がくるとはね」


二人はドレスを脱ぐと、更衣室に戻った。汗を拭きながら、カオリが口を開く。


「感謝する。お前さん相手じゃなけりゃ、オレがぶつかっている壁は破れねぇだろうからな」


アマネは、タオルで首筋の汗を拭いながら答えた。


「曲がりなりにもチームメイトだからね。胸くらい貸すさ。ところで、強くなるためなら僕みたいにナツメ君に付き合ってもらうこともできたのに、なぜしないんだい?」


アマネの率直な問いを受け、しばしカオリは考え込んだ。そして、付き合ってもらった手前、理由を正直に話すことを決めた。


「まあ、付き合ってもらってるし正直に打ち明けるが、半分くらいのろけなのは勘弁しろよ。確かに、ナツメと模擬戦をすれば強くなれるってことくらい分かってる。でも、今のナツメには戦いの匂いのしない場所が必要なんだ」


「それが君だと」


「自惚れもあるがな。他の奴は器用に立ち回れるタイプじゃないし、オレがその役を引き受ければ問題ない。役得でもあるしな。でも、そうであるならあいつの目の届かないところで強くなる必要があったってわけだ」


アマネは、くすくすと笑う。


「相変わらず小賢しく立ち回ってるわけだ」


「お前なぁ」


「忘れたわけじゃないだろう?僕はアクトレスになる前の君を知ってる。昔はそんな芝居がかったキャラじゃなかった。それを知ってる人に対してその演技は恥ずかしくないのかい?」


カオリは、肩をすくめた。


「もう板についちまってなんとも思わねぇよ。それとも、元のように話して欲しいのか?」


「でも、ナツメ君には素のしゃべり方で接するんだろう?」


カオリの目が見開かれる。


「ナツメのやつ、しゃべりやがったのか!?」


少し焦るカオリを見て、アマネは可笑しそうに笑った。


「カマをかけただけさ。恋は盲目だね」


「いい性格してやがる」


恥ずかしさからカオリはワシワシと頭を掻いた。


「ところで、ナツメ君から聞いたんだけど、君から僕に言いたいことがあるんだって?」


「は……?あ、あいつ!!」


言われてポカンとした顔をしたカオリだったが、心当たりが思いつくと顔を真っ赤にして震えた。


「あまり怒らないでやって欲しい。ナツメ君のその言葉がなければこの模擬戦を引き受けるつもりはなかったし」


「さっきチームメイトとして胸を貸すのは当然みたいな顔してたじゃねぇか!?」


「気が向けばね」


ツッコミを入れるカオリにアマネは飄々と返す。カオリは頭が痛くなりそうで、目頭を揉み込んだ。


「それじゃあ、勝者の権利として聞かせてもらおうか」


「そんな後付けの要求聞くと思ってんのか?」


「君は言いたいことがある。僕は聞いてみたい。win-winだろう?」


大きくため息をついて天を仰ぐカオリ。ベンチに座ってる彼女を見下ろして、アマネはニヤニヤ笑っていた。


「なんだい、口をパクパクさせて」


「笑うなって言おうとしたけど、どんな前置きしたところでお前は絶対に笑うって思っただけだ」


「随分僕のことを理解してくれてるんだね」


「うるせぇ」


消え入るような声で返すカオリを見て、アマネはこのやり取りを心底楽しく感じていた。かつてはコンプレックスを感じていた相手だが、今は対等に接することができる。


いい加減からかうのは止めて、静かにカオリの言葉を待つ。

カオリは、深呼吸をして、小さな声で呟いた。


「オレと……友達になってくれねぇか?」


小学生が言うように恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに言うカオリを見て、吹き出すのを堪えるアマネ。一呼吸置いて、静かな声で返した。


「僕は、『君』の言葉で聞きたいな」


「お、お前」


カオリはたじろいだが、深呼吸をしてアマネを真剣な表情で見つめる。


「私と、友達になってくださいませんか?」


美少女が瞳を潤ませてこちらを見上げながら、自信なさそうな声で懇願してくる。いやぁ、いいものをみたな、とアマネは満足に思った。


「あの、なにを満足そうにしているんですか?別に罰ゲームをしたつもりはないのですが」


「いや、失敬。あまりに眼福だったもので」


カオリはため息で応える。


「せっかくだから、理由をきかせて欲しいな」


「誰かと仲良くなりたいという気持ちに理由が必要ですか?」


静かに答えるカオリを見て、アマネは一瞬呼吸をするのを忘れた。


「君にとって僕はそれに足りうる相手だと?」


「他にどのように説明の仕様があるんですか?」


「なるほど。ちなみにいつから?」


「なんでそんなに質問ばかりなさるんですか?」


「大事なことなんだよ」


アマネの真剣な口調からからかわれているわけではないのを察して、カオリは仕方なく応じる。


「パシフィックで再会して、再び剣を交えたその日から」


その答えを聞いて、今度はアマネが天を仰いだ。


「それはまた、僕たちは随分長いことすれ違ってたんだね」


カオリは無言でその言葉を受け止めた。

アマネは、静かに尋ねる。


「君は敏いから僕の生い立ちとか、考え方がそれとなく分かるはずだ。君から見て、僕たちは対等な友人になれるかな?」


「今の貴方は私の本質まで見透かす余裕があるように思えます。現に先ほどもあんなにからかい倒したではありませんか」


「それを言われると弱いな」


「何を恐れているんですか?」


「わかっているだろう。僕は普通の育ちじゃないんだよ」


アマネは、諜報に関する自身の家系を思い躊躇っていた。


「私たちのコミュニティに普通の人なんていませんが、皆対等ですよ?」


「それもそうなんだが」


「貴方にとっても、あの場所が居場所になるなら嬉しいです」


カオリが微笑みかけ、そこでアマネはようやく決心がついた。


「殺し文句だね」


「ここまで打ち明けておいて後には退けませんから」


「わかってるよ。ここまで根掘り葉掘り話したんだ。断るなんてしないさ」


カオリは無言のままアマネを見つめる。アマネはそれが意趣返しだとすぐに察した。


「君と僕はこれから友達だ。よろしく」


「ええ、よろしくお願いいたします」


二人は握手を交わす。知り合ってから5年経つが、こんな風に友好的に触れ合ったのは初めてのことだった。自然と年相応な少女らしい笑みが二人からこぼれる。


(こんなことになるなんて想像もしなかった。君に関わってからの人生は本当に面白いよ。ナツメ君)


人並みの幸せを噛みしめながら、アマネは満ち足りた気持ちでそう思った。


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