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53話 臨界者vs臨界者

なんでもない、そんな日になるはずだったその日の未明、けたたましいアラートがパシフィック校に鳴り響いた。寮の廊下には生徒たちの慌ただしい足音が響き、多くの生徒が戸惑う中、一部の戦場慣れした生徒は最速で行動を起こす。ナツメやシェリーも当然その中に含まれていた。


エリはすぐに出られるように準備を整えることはできたが、どうしていいか戸惑っていた。そんな中、扉に激しいノックの音が響く。


「エリ、起きているか!? シェリーだ!」


「は、はい! すぐ開けます」


扉を開けると、息を切らしたシェリーが血相を変えてエリについてくるように言った。


「なにが起きているんですか?」


「わからん。だが、悠長に情報収集をしていては間に合わぬこともある。今はドレスの元まで行くのが優先事項だ」


二人は廊下を駆けながら会話を続ける。


「わ、わかりました。ナツメさんは大丈夫でしょうか?」


「ナツメがこの時点でやられる事態であるなら我々も諦めた方がいいだろうな。まあ、ナツメのことだから優先事項を済ませたら我らと同じように格納庫に合流するだろう」


「もう、冗談キツイですよ。その、優先事項ってなんのことですか?」


「合流すればわかるだろう。汝ほどの者が分からぬとは、余程気が動転していると見える」


「う、それは仕方ないでしょう」


からかわれたことで緊張が緩和され、だんだんと思考が冴え渡ってくることを自覚する。



エクリプスの格納庫に到着すると、ちょうどカティアを抱きかかえたナツメが到着した。場違いなことに少し羨ましいと思ってしまったのは、仲間の顔を見て安心したからだろうか。


「2人はすぐに出撃準備を。カティア、おそらく一番危険なのは君だ。こうなるんだったら君が乗ることができるドレスを手配しておくべきだった」


ナツメは悔しそうに拳を握りしめる。


「いえ、それは結果論です。流石に目立ち過ぎますし、個人の力でドレスを用意するという無理を通すのは悪手かと」


カティアが儚げに微笑むと、ナツメはさらに強く拳を握りしめた。

そこにドレスを着込んだアマネとカオリも到着する。ナツメもクルセイダーを装着した。


「ただ事じゃねぇ気配がビンビンしやがるな」


「右に同じく」


心強い仲間の顔ぶれに安心したのも束の間、戦い慣れた2人の戦士の勘からくる危機感に、エリは唾を飲んだ。

エリはデバイスを使って状況の整理を始めた。画面に次々と情報が表示される。


「無人機による攻撃がパシフィック校に仕掛けられているようです。鉄血同盟ブラックスミスの仕業と見て間違いないですね。ナツメさん?」


「不自然だ」


ナツメの表情が険しくなる。


鉄血同盟ブラックスミスの理念としてはアクトレス養成施設を襲うことは自然なように見えますが、そういうことではないんですね」


エリが状況を共有するとナツメは渋面を作った。エリとしてはナツメがなにに引っ掛かったのか非常に興味がある。


「なぜこの場所、このタイミングなんだ」


「貴方とわたしがいる。それ以上の説明が必要ですか?」


カティアは深刻な現実を淡々と突き付けた。


「その場合、最悪の展開になるな」


ナツメの言葉に、格納庫の空気が張り詰める。

エリは2人の会話に違和感を覚えた。鉄血同盟ブラックスミスの目的がドレス社会の転覆である以上、ナツメや臨界者のカティアを殊更特別視する必要はないはずだ。しかし、二人の反応は明らかに「個人を狙った襲撃」を想定している。


「まさか……!?」


エリの表情が強張る。


「にわかには信じ難いことですが、聖女協会パンドラも一枚噛んでいるのでしょうね。協調か、不干渉か、定かではありませんが」


カティアの冷静な分析に、全員が息を呑んだ。


「無人機なら全生徒で対応すればなんとかなると踏んだんだがな。やつらが来るなら話は変わってくるな」


カオリは闘志をみなぎらせながら呟く。普段は飄々としているカオリが覚悟を固める姿を見て、ナツメは珍しいと思った。また、愛する人の力に頼らないといけない状況は歯がゆいが、カオリレベルの実力がなければ、臨界者を前に徒に命を散らすだけなので無事を祈るしかない。


「そうであるなら対応に移りましょう」


エリが凛とした声で言った。


「わたしがストームパッケージで防衛線を築きます。他の皆さんは聖女協会に対応できるように用意しておいてください。特にナツメさんはカティアさんの護衛として力を温存してください」


「わかった。頼りにさせてもらう」


ナツメは素直にエリの指示に従った。エリの成長を実感し、胸が熱くなる。


『遅くなってごめん。無人機の迎撃はこっちでも引き受けるよ。そっちが危なくなったら駆けつけるから、みんなも無事でいて』


所属チームが異なるリリアは通信で会話に割って入った。あちらも準備が整ったようだ。


「ありがとう、リリア。そちらも気をつけて」


ナツメが短く応えると、それぞれが格納庫を出て戦場へと踏み出していく。夜明け前の薄闇の中、無数の光点が空を舞っていた。


--------------------


カオリはリリアを中心とした空戦ドレスが無人機を空中で迎撃し、エリを中心とした砲撃部隊が対空砲火をするのを眺めながら、戦場の流れを読むことに感覚を研ぎ澄ませていた。

仮想敵は天使のようなドレス「ヴァルキュリア」と阿修羅のようなドレス「アストライア」。朱羅が陸戦ドレスである以上、英国で戦ったアストライアがカオリの受け持ちとなる。カティアから機体名と弱点は聞いていたが、臨界者のドレスらしく弱点というものも非常に僅かなものだった。ヴァルキュリアに関しては羽根の影響圏20メートル以遠への攻撃力。アストライアに関しては相対的に飛行能力が乏しいことと、近接武装しか装備していないこと。どの情報もカオリと朱羅には有用足りえない。

それでも、先日の戦闘を経て自分の中で勝ち筋はイメージできている。そのための装備も開発してもらっていた。背負った板状のバックパックの重みを感じながら、カオリは呼吸を整える。


「!? きたっ!!」


読み通り、戦場で目立っているミラージュ:ストームパッケージめがけてアストライアが降下してくる。カオリはミラージュの背を駆け上がりながら、バックパックをパージし、スノーボードをするようにその板に乗ってアストライアに突撃を仕掛ける。

アストライアは襲撃を察知して、やむを得ず目標をミラージュから朱羅に切り替え長棍を振るう。衝撃と轟音が響く。


着地すると、へしゃげて彼方へと吹き飛んでいった板とは対照的に、無傷の朱羅が立っていた。その周りには6本の小太刀が地面に突き刺さっている。


「今日は白黒つけようぜ」


勢いよく挑発すると、場違いなほど穏やかな声が返ってきた。


「困ります。あなたにばかり構っていてはまた怒られてしまいます」


前回は一言も発しなかったので、それだけでも前進だとカオリはポジティブに受け取った。


「それに、前回の戦いで実力の差は分かったでしょう。無駄に命を散らせることもないでしょうに」


「もちろん忘れちゃいないさ。だから、今回は対策をさせてもらった」


カオリは得意そうに手を振るって地面に突き刺さった小太刀を見せた。


「そんなちっぽけな刃で何ができるというのですか」


「お前らと同じことさ」


カオリの不敵な笑みに、レアは僅かに眉をひそめた。

アストライアを操るレア・ベータは相手の発言を理解できなかった。故に、それ以上の会話の継続の意義を感じず、迅速に敵を処理することにした。

突進しながら手にした長棍を交差させて振るう。アストライアの手元を受け流して左手に避けたカオリに対して、アストライアの背部マニピュレータが襲い掛かる。


「!?」


そこでレアが見たのは、地面に刺さっていたはずの小太刀が独りでに動いてマニピュレータの関節に突き刺さっている光景だった。なにが起こったか理解できず唖然としていると、振り返りざまに手首の内側を斬られる。幸いバリアフィールドが受け止めてくれたが、装甲が薄い部分であったこともあり、かなりエネルギーを消耗した。

斬られなかった手で長棍を横なぎに振るったが、相手は軽やかに後退する。


「うん、問題なさそうだな」


満足そうに呟く相手を見て、レアは僅かに苛立ちを感じる。

レアは長棍の柄頭を連結させると竜巻のようにそれを振り回す。最後に体そのものも回転させると、暴風のごとく相手に襲い掛かった。これだけの慣性を乗せれば小細工なんてできないはずだ。


朱羅は倒れ込むように上体を地面に近づけてアストライアの足首を薙ぐ。あわや地面と擦れるかと思われたが、数本の小太刀の峰がそっとすくうように朱羅を支え、そのまま滑るように前進した。

またもアストライアの重装甲の隙間を縫って攻撃が通り、無視できないほどのエネルギー消費を強いられた。


(撤退推奨領域ですか。攻略の糸口もありませんし、仕方ありませんね)


距離が空いていることを幸いに、レアは地面を蹴って垂直に跳躍する。カオリはなにが起こるか察知して慌てて追いかける。小太刀を階段のように並べて天を翔るが、アストライアが長棍を投擲したことで回避せざるを得なくなる。


「ちっ!! ぬかったか」


舌打ちをしながら上空に消える敵機を睨むカオリ。


「すまない、一足遅かったか」


おそらく接敵を察知して最速で駆けつけただろうアマネが、上空でアストライアを見送る。


「それなりに手傷を負わせた。別の戦場に介入されなければ御の字だろうが……」


カオリの表情に僅かな不安が浮かぶ。


「祈るしかないね。それにしても、君。臨界者だったとは知らなかったよ」


手を用いずに6本の小太刀を操る芸当は、臨界者にしかできないことであるのは明白だった。


「なんでよりによってお前さんに見つかっちまうかね。仕留め損ねたから恰好もつかねぇ」


「いやいや。前回遅滞戦闘をするので精一杯だった相手を退かせたんだから大金星だろうに」


「ごちゃごちゃ言ってても仕方ねぇ。その称賛、素直に受け取っとくぜ。ほら、ぼさっとしてねぇで働いてこい」


「全く、君も飛行機能くらい積んでおけばいいのに。まあ、また奴が現れたら君に任せるよ」


二人は軽口を叩き合いながら、それぞれの持ち場へと戻っていった。夜明けが近づく空に、戦いの火花が散り続ける。



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