5話 Reunion
「ニューオーダー」決勝を翌日に控え、学園の講堂では出場チームの紹介を兼ねた式典が執り行われていた。チーム「エクリプス」の三人――ナツメ、エリ、シェリーは、壇上の最前列に並び、会場の熱気に包まれていた。ナツメはいつも通り涼やかな表情で、シェリーは不敵な笑みを浮かべて、エリは周囲の視線に慣れない様子でわずかに緊張していた。予選を全勝で突破した彼らには、すでに多くの期待と注目が集まっている。
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式典が終わり、選手たちが講堂を後にしようとしたその時、優勝候補の筆頭と目されるチーム、「アストラル」の三人がエクリプスの前に立ちはだかるように現れた。その中央に立つのは、パシフィック校の今期主席、リリア・ドレイク。小柄な体躯とは裏腹に、そこには確かな存在感が宿っていた。
リリアはナツメの姿を認めると、その赤毛のツインテールを揺らし、駆け寄るように親しげな笑みを浮かべた。
「ナツメ!やっぱり君も決勝まで来たんだね!嬉しいよ!」
その声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。ナツメもまた、穏やかな表情でリリアに応じる。その様子に、エリとシェリーは驚きを隠せない。
「久しぶりだな、リリア。活躍はよく耳にしているよ」
「ははっ、ありがとう。学園に入学してから、君が同じ学年にいるって知って、ずっと会いたかったんだ。でも、忙しくてなかなか機会がなくてさ」
リリアは少し残念そうに肩をすくめた。そして、真剣な眼差しでナツメを見つめる。
「ねえ、ナツメ。この戦いに決着がついたら僕たち『アストラル』に入らない?悪くない話だと思うんだけど」
突然の勧誘に、エリは息を呑んだ。学年のトッププレイヤーが、ナツメをスカウトしている。シェリーは興味深そうに、その成り行きを見守っていた。
ナツメは静かに首を横に振った。
「気持ちは嬉しいが、それはできない。私は自分でチームを発足させた手前、それを裏切るわけにはいかない」
ナツメはちらりとエリとシェリーに視線を向けた。エリは彼の言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。
リリアはナツメの言葉に、わずかに眉を下げた。だが、すぐに持ち前の勝気な表情に戻る。
「……残念」
リリアはすでに断られることを予想していたのか、あっさりと引き下がった。そして、その瞳に闘志を宿らせてナツメを見上げた。
「でも、決勝では容赦しないから。全力で君に勝つ!」
その言葉には、ナツメへの高い評価と、強い意志が込められていた。
エリは、そのやり取りを間近で見ていて、心底驚愕していた。主席であるリリアが、ナツメと面識があることにも驚いたが、それ以上に、誰もが絶対的な強者と認めるリリアが、ナツメに対してまるで挑戦者のようなスタンスでいることに、大きな違和感を覚えたのだ。あのリリアが、ナツメに「全力で勝ちを狙う」と宣言するほどの相手とは……。
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式典からの帰り道。エリは、隣を歩くナツメに意を決して尋ねた。
「あの、ナツメさん……リリアさんとは、以前から面識があったんですか?」
ナツメは一瞬、黙考した。隠すのも不自然だと思い、口を開いた。
「ああ、アメリカにいた頃、非公式の模擬戦をしたり、一緒に訓練をしたことがある」
エリは、その言葉にますますナツメへの興味を掻き立てられた。やはり、学園では語られていない経歴があるのだ。
その時、横からシェリーが鋭い声で口を挟んだ。
「ほう。あの口ぶりからすると、その模擬戦とやらでは、貴様が勝った、ということか?」
シェリーの指摘は、核心を突いていた。ナツメはごまかせるものではないと察し、諦めたようにため息をついた。
「……ああ、そうだ」
簡潔な答えだったが、シェリーはそれで納得したようで、それ以上追及することはなかった。
しかし、エリは、また一つナツメの謎めいた経歴が明らかになったことに興味を掻き立てられていた。絶対強者リリアをも凌駕する実力を持つナツメ。その経歴が、なぜ学園では隠されているのか。エリは、ナツメの抱える秘密に、ますます興味を惹かれていくのを自覚した。