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42話 ザ・キングステスタメント開幕

英国ロンドン郊外に設けられた観戦用の特設会場は、熱狂と興奮の渦中にあった。ナツメ・コードウェルは、立会人としての務めを果たすため、クルセイダーに身を包み、壇上に立った。


会場を埋め尽くす観客席、そして上空に群がるメディアのカメラの無数のフラッシュが、その場にいるすべての人物を照らし出す。ナツメはその強烈な光と、自身に向けられる無数の視線に、改めて性別を公表した後の自身の立場を実感した。


(――注目度が、想像以上だ)


開会宣言を終え、ナツメは立会人用の控室に戻ると、すでに英国入りしていたシオリと合流した。シオリは通信機器を操作しながら、疲れた様子も見せず微笑む。


「無事に大役が終わってよかったね、ナツメくん。私は今日から君の護衛だよ」


「護衛、ですか……」


シオリのその言葉は、ナツメが予期していた不穏な気配を裏付けていた。ナツメは、チームの晴れ舞台を何としても守り抜くという決意を、改めて胸に深く刻み込んだ。大切な人を巻き込んだ以上、これから始まるのはいままでのような競技ではない。慣れ親しんだ実戦だ。


------------------

【予選リーグ】


シェリー、アマネたちの合同チームは、ナツメとの訓練の成果もあり、予選リーグを危なげなく突破していく。ライトニングパッケージのエリとアストラルの2人が制空権を握り、地上ではカオリやアマネたちの連携によって、理不尽なまでの戦果を上げていた。


そして、トーナメントの進行とともに、一つの機体がその圧倒的な存在感を放ち始めた。


------------------

【準決勝】


それは前年度優勝者、クロエ・リシャール率いるフランスチーム「レ・サンク」だった。中でも、クロエが操る空戦ドレス「デュランダル」は、欧州最強の称号「聖騎士エクウェス・サンクトゥス」の名に相応しい圧倒的な強さを見せつけていた。


クロエ・リシャール――彼女のコア共振率は99%。シェリーにとっては、かつて越えられなかった壁であった。


昨年度優勝者であるため予選には参加していなかったものの、準決勝でのデュランダルの戦闘は、もはや試合と呼べるものではなかった。相手の機体が射程圏内に入った瞬間、スカイブルーのデュランダルは一瞬で加速。その動きは、視認することすら困難な完璧な軌道を描く。


そして、デュランダルの右手に握られた光の剣――攻性エネルギーフィールドで形成された割断剣が、鋭く一閃する。


キィィィン!


閃光とともに振るわれる斬撃が、敵機の武装を砂糖細工のように砕き、撃墜判定を量産する。デュランダルは一切の反撃を許さず、敵機が身じろぎする間に、決着していた。


その戦闘は、どこか浮世離れした様相だった。まるでアニメのヒーローがやられ役を一蹴しているかのように。他の機体が泥臭く競い合う中、デュランダルは鎧袖一触で次々と敵チームを沈黙させていく。欧州最強との呼び声が高い、聖騎士エクウェス・サンクトゥスの実力をもってすれば当然の結果であった。


シェリーは、その戦闘をモニター越しに見つめ、掌が僅かに汗ばむのを感じた。


クロエ・リシャール――かつて越えられなかった壁。シェリーは、彼女に勝てずにパシフィック校に転校した。


その悔しさが、今も胸に残っている。


(今度こそ……)


変わらぬ強さを維持しているクロエ。しかし、シェリーは自身の成長を信じていた。自身はこのために欧州に戻って来たのだと血を滾らせていた。


------------------

【準決勝終了後/VIPルーム】


クロエ・リシャールは、シェリーたちの準決勝の勝利を見届けた後、不敵な笑みを浮かべた。


傍らには、レ・サンクのメンバーたちが控えている。道化じみたメイクをした副官のクラン・クラン、そして冷静沈着な狙撃手のエルザ・ヴォルフ。前年度優勝チームの精鋭たちだ。


「ブロウニング卿。腕を上げたことは認めよう」


クロエはシェリーの成長を認めつつも、未だ自分にはあと一歩及ばないと感じていた。それは、彼女のコア共振率 99%――人類の限界に近い、絶対的な才能が、無意識に抱かせる優越感だった。加えて言えばシェリーは優秀な兵士ではあるが、騎士と言うにはあまりに華がない。


しかし、クロエの冷静な分析は、シェリー以外の脅威を見逃さなかった。


「一方で、百華猟乱ティラノス蒼穹竜姫セレスティアルといった二つ名を持つ強豪がいる。彼女たちは、戦況をひっくり返しかねない潜在能力を持っている。警戒が必要だ」


クラン・クランは、飄々とした調子で椅子に揺れる。


「おっかない人たちですネェ。ブロウニング卿は本気で優勝――ナイツ・オブ・ナイツの称号を獲りにきているようですヨ」


エルザ・ヴォルフは、冷静に分析を述べる。


「粒ぞろいではあるが、即席のチームだ。ここまでは順調でも、我々レ・サンク相手にどこまで連携ができるかは疑問だな」


クランは軽やかに笑い、椅子の上で回転する。


「あたくしとしては、データがないが故に、どんな風に出てくるのかわからないのが一番嫌なのですガ」


クロエは肩をすくめた。


「道化らしくもないことを言う。どんな相手が来ようと、実力でねじ伏せるまでだ」


「まあ、ナツメ・コードウェルとやりあえと言われるよりはマシですがネ」


クランの呟きに、クロエはわずかに首を傾げた。


「? 所詮男性が操るドレスだろう? どれだけ強く見積もっても百華猟乱ティラノス蒼穹竜姫セレスティアルのほうが手強いだろう」


クランは、クロエの言葉に答えず、ただ椅子を揺らした。その表情は、普段の道化のような笑顔の下に、僅かな戦慄を隠しているように見えた。


(あたくしは知っている。裏の世界で「ケラウノス」と呼ばれていたあの機体の恐ろしさを。神の雷霆のように、一瞬で敵を葬る苛烈な戦闘スタイルを……)


しかし、その恐怖を口にすることはできない。クロエは、ナツメの本当の実力を知らない。それでいい。


「いえ……。今回戦うわけではありませんし、聞き流してくだサイ」


クランはそれ以上追及せず、また椅子を揺らし始めた。


------------------

【決勝戦・当日】


運命の決勝戦。会場の熱気は最高潮に達し、舞台中央には合同チームとレ・サンクの機体が向かい合っていた。


ナツメは立会人として壇上に立つ。照明が眩しい。


その瞬間、ナツメは肌を粟立たせるような奇妙な感覚に襲われた。誰かに見られているような、あるいは、鋭利な刃物を突きつけられているような感覚。


(来るか……)


この戦いが、ただのコンペティションでは終わらないことを悟ったナツメは、鯉口を切るがごとく意識を戦闘用に切り替えた。


舞台中央。決勝戦の開始を告げるアナウンスが、会場に響き渡ろうとしていた。

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