35話 TRANSAM
カリフォルニア州の広大な砂浜。大勢の観客とメディア、そしてライバルチームが見守る中、アメリカ横断チームレース「トランザム」が今、スタートした。
チーム「エクリプス」の布陣は、EXクルセイダーが空を、ドレッドノートカスケードが陸を駆ける。EXクルセイダーはバックパックに大型の主翼とそこに追加のジェットエンジンを搭載している。さらに、巡行時は装甲に回すエネルギーを抑えて他の空戦ドレスのように飛行能力にドレスの出力を割くように設計されている。おかげで普段の砲弾のような軌道ではなく鳥のように滑らかに飛行していた。
ドレッドノートは補給拠点として、補給物資と予備パーツを積んだカスケードを牽引し、力強く大地を進む。エリはといえば、チェックポイントに備え、今はカスケードの上に身を潜め、体力を温存させていた。
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最初の障害は、スタート直後から現れた。
レースのルートの道路が、何者かによって次々と破壊されていたのだ。参加者たちは、悪路を行くことを強いられた。しかし、エリは冷静だった。
「ナツメさん、シェリー、マップデータから迂回路を算出しました。このルートが最速です」
エリは、的確な指示をナツメとシェリーに伝え、エクリプスは他のチームを1歩リードする。
チームは無事に最初のチェックポイントを通過し、砂漠地帯の入り口にある中継地点に到着した。単独で違う道を行ったおかげで初日の戦闘を避けられたのは幸いだった。
しかし、過酷なレースであるが故に、シェリーは疲労の色を隠せない。ドレスを着ているとはいえ、8時間以上も走行姿勢をとっていたので無理もない。エリがドレスのメンテナンスに勤しむ傍ら、ナツメがシェリーに食事を用意して、二人で彼女を支えた。
「すまない。代わってあげられるならいいんだが」
「見くびるなよ。やわな鍛え方はしていない。それに、この役目をすることこそ陸戦ドレス乗りの誉れだ。代われるとしても譲ってやるものか」
精一杯強がるシェリーに対してナツメは困ったように笑う。
「心強いよ。アイシングとマッサージを手伝わせてくれ」
「へ、変なところに触れたら怒るからな!」
「はいはい」
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2日目、レースは広大な砂漠地帯に突入した。日中の強烈な熱波が、ドレスの稼働と操者の体力を蝕んでいく。ナツメは自機が常にドレッドノートに影を作るように配慮した。その上で外付けの冷却装置も導入してシェリーが倒れないように工夫していた。幸いにして容量が大きく、余裕がある大型ドレスの方が着心地(居住性?)はいい。温度の調節機能も余裕をもって働いているようだった。一方で小型ドレスのエリは反射シートにくるまってやり過ごそうと躍起になっていた。
そんな中、砂漠の砂嵐に紛れて、ブラックスミスの無人機部隊が襲撃を仕掛けてきた。
ナツメはすぐさま単身で迎え撃ち、ドレッドノートを守る。エリは、ブラックスミスの無人機の動きを冷静に解析し、ナツメとシェリーに的確な指示を出した。
「ナツメさん、敵は3時方向からです!シェリー、敵機の予測ルートを送ります!」
エリの出した演算データが活躍し、カスケードに搭載されたミサイルが敵を多数撃破した。エクリプスは、どうにか窮地を凌ぐことができた。
激戦の末、チームはなんとか襲撃を退け、砂漠を抜けた先の中継地点に到着。エリがドレッドノートの整備に勤しむ傍ら、ナツメは、ブラックスミスの出現に、イノベイターの目的とは異なる、不穏な影を感じ始めていた。
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3日目、レースは険しい山岳地帯に突入した。テロリストの横やりがあってもコンペは続行される。アメリカの開拓者精神を体現したコンペが暴力に屈するなどあってはならないと判断されたためだ。確かに、これで中止になってしまってはドレスを排除したい鉄血同盟の思うつぼだろう。また、どの参加者もテロに屈するつもりはなく、気合十分の様子で臨んでいた。
急峻な山道を行く最中、突如エリがシェリーを制止した。
「道が不自然です。少し調べさせてください」
ミラージュのセンサーは、急ごしらえの地雷を的確に見抜き、ナツメとシェリーにデータを共有する。二人は、アサルトライフルとミサイルで地雷を爆破し、安全なルートを確保する。
他チームは後ろに追い付いていたが、事情を察して邪魔することなくエクリプスを利用することにしたようだ。
チームは無事に山岳地帯を抜け、中継地点に到着した。過酷なレースではあるが、3人は、確実に前へと進んでいる手ごたえを感じていた。
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4日目、ロッキー山脈を越え、レースは広大な大平原へと突入する。
この広大なフィールドで、高速機動を得意とするドレス同士のレースが本格的に始まる。ナツメのEXクルセイダーも、その航続距離の弱点を克服し、高速でライバルたちと競り合う。
他のライバルチームが、ナツメたちを追い抜くために仕掛けてくる。中でも、前年の優勝チームである「スチームパンク」の猛攻は凄まじい。
輸送機であるストレイキャトルは、スタート前に背部のトレーラーを切り離し、一気に前進していた。最終日であるためによほどの事情がない限りはどのチームも貨物コンテナを置き去りにしていた。
その一方、シェリーはカスケードを残したまま、タイミングを見計らっていた。
レースは、いよいよラストスパートに突入する。
多くのチームに抜かされた後、エリはカスケードのコンテナ内に隠されていたライトニングパッケージを装着し、他のチームに仕掛ける。シェリーも、カスケードを切り離し、全力でゴールを目指す。
エリは先頭集団に猛攻撃を仕掛けた。スチームパンク所属のハイドラが振り向いて、必死にレールガンを放つが、エリはライバルの後ろをとれるように、あえて出遅れていたため、余裕を持って回避した。ドッグファイトでは相手の後ろにつけている方がどうしたって有利だ。エリはレールガンを放ちながら啖呵を切る。
「相手がリリアさんでもなければ、ライトニングパッケージの敵じゃありません」
自信に満ちたエリの声が、ナツメとシェリーの耳に届く。
シェリーは、向かってくる敵だけを捌いて、前に、前に進む。ところが、スチームパンクのロードランナーが、執拗にシェリーに仕掛けてくる。
ロードランナーは陸上での高機動戦闘をコンセプトに開発されており、まさに今回のコンペティションにマッチしたドレスといえる。独自のホバークラフトはまるでスケートでもするように地面を滑っていく。武装もアサルトライフルにヒートブレードと高性能なものを取り揃えていた。
対するドレッドノートの武装の大部分は外してあるので、シェリーはランスとアンカーのみでそれを凌がなければならない。射撃に対しては被弾覚悟で突進して圧をかける。並走しながらの近接戦では圧倒的な槍捌きを披露して強敵相手でも一歩も退かない。
一方ナツメは、多数の空戦ドレスに囲まれていた。一刻も早くシェリーの元に駆けつけなければならないので、なんとかこの包囲を解く必要がある。
そこでナツメは追加武装を切り離すとそれをライフルで撃つことで爆散させ、派手な奇襲をかける。驚いた一団は、とっさに距離をとり、ナツメは全速でシェリーのもとに駆けつけることに成功した。
全速の突進を仕掛けるナツメだったが、ロードランナーは器用にジャンプしてそれを躱す。銃撃と近接武装を織り交ぜた凄まじい攻防が交わされた。昨年の優勝者であることが納得できるほどの技量と気迫がナツメにも伝わってきた。それでも、ナツメは自分たちの勝利を信じて疑わない。
エリは、ゴール手前でライトニングパッケージをパージ。狙撃体制を整えてロードランナーを狙い撃つ。脚部狙いの銃弾は躱されてしまったが、避ける動作のせいで失速してしまい、シェリーと距離が開く。
そして、その距離はエクリプスのゴールを妨げるにはあまりに致命的なものだった。
エクリプスの三人がゴールし、見事優勝する。ゴール前の観衆からは大きな歓声が上がった。
五日間にも及ぶ過酷なレースを乗り切って得た勝利は、三人にとっても格別なものだった。
「やったな」
「やりましたね」
「ああ、我々の勝利だ」
この後に控える難題を忘れて、ナツメは、チームメイトと喜びを分かち合った。




