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33話 君は僕に似ている

ナツメは、イノベイターが手配してくれた輸送機にクルセイダーを載せ、カリフォルニアへと向かった。味気ないが、どうせ一人旅なので、時間の無駄がない方が助かる。目的地であるラボに着くと、半日ほど休息した後に、すぐに換装プランのテストが始まった。


追加装備である長距離航行用パックは、ナツメの好みとは言えない、クルセイダーの俊敏性を損なうものだった。しかし、必要に応じてすぐにパージして元の仕様に戻れるというのは、実戦的で気に入った。


スムーズにテストが終わると、ナツメはお偉方に挨拶に伺った。この一年間の実績と、プロジェクトが大きく進捗したことにお褒めの言葉をいただく。

誰しもが、長年の悲願である「第2フェーズ」を心待ちにしているようだった。


彼らは、ナツメの人間関係の変化なども情報として掴んでいるだろうに、計画に支障がないなら見ないふりを決め込むらしい。昔から彼らはそうだ。ナツメが与えられた目標をクリアし、彼らの目的を妨げない限り、過度な干渉はしてこない。彼らからしても、ナツメは貴重な成功例。つまらない諍いで離反されるのは避けたいのだろう。


退室すると、廊下で一人の長い黒髪の日本人女性とすれ違った。ナツメはその場から動けずに、自分が出てきた部屋に入っていく女性を見つめ続けた。


以前から、遺伝上の両親については調べたことがあった。父親については全く分からなかったが、母親に関してはすぐに分かった。

東洋人の臨界者。そんな人物は二人といないし、なによりイノベイターという組織においてはあまりに目立つ。シオリ、名字を失ったその人物こそが、ナツメの母であった。


心臓はバクバクと音を立てる。ずっと会って話をしたいと願っていた。会っても拒絶されるかもしれないと、何度も想像した。それでも、諦めきれなかった。それが、あと少しで叶う。

ナツメは、決意を固めて、その場で彼女が出てくることを待った。上層部に接触を知られることなど、もはや構わなかった。


彼女が出てきた。

その人物は、自分を待っていたかのようにそこに立つナツメを見て、驚いている。ナツメは、驚かせてしまったことと、なんて話しかけたらいいか考えていなかったことで、言葉に詰まった。


「君、名前は?」


意外にも、震える声で話しかけてきたのは、あちらからだった。


「ナツメ。ナツメ・コードウェルです」


夢見心地で答えると、彼女の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

そこでナツメは、彼女もまた、こちらが何者かを知っていることを悟った。

そして、涙ぐむ彼女を見れば、自分が歓迎されていないという最悪のシナリオからは外れているようだった。


「ここでは落ち着いて話せないわ。19時にここに来て」


彼女はそう言って、名刺の裏に店の名前を書きつけ、ナツメに渡した。


「はい、必ず」


短く答えたナツメは、喜びを胸にその場を後にした。


--------------------


無人タクシーを使って、名刺に書かれたレストランに行くと、個室に通された。

そこには、自分の遺伝上の母とは思えないくらい若く見える女性が、ソワソワと落ち着かない状態でナツメを待っていた。


「その、アレルギーとか苦手なものはない?」


落ち着かない様子で聞く女性に対し、ナツメは笑顔で答える。


「はい、どちらもありません」


「コースにしちゃったけど、食べたいものがあったらなんでも頼んでいいからね」


その言葉を聞いて、親戚がいたらこういう感じなのだろうかと、ナツメはぼんやりと考える。

料理が届く前に、お互いに伝えたいことを伝えることにした。

そして、シオリは、震える声で語り始めた。


「ずっと気がかりだったの。あなたを、自分と同じ目に、いえ、自分よりひどい目に合わせたじゃないかって」


「同じ目?」


ナツメが問うと、シオリは顔を伏せた。


「私、両親がいなくてずっと一人だったから。あなたにも親がいない苦しみを味わわせてしまったんじゃないかって、後悔してて」


ナツメは、静かに答えた。


「育ててくれた人はいましたが、里心がつかないように定期的にたらい回しにされていました」


「そう、なのね。恨まれて当然のことをしたと思ってるわ」


「そんな、恨んでなんて……。ずっと会いたかったんです。拒絶されたらどうしようって思っても、会いたい気持ちを止められなくて」


「そうなの?……私たち、同じだったのね」


そこで初めて、シオリは笑った。不安な気持ちを抱えながら、会いたい気持ちは一緒だったと知ることができて、胸に温かいものがこみ上げた。



料理が届いてからは、和やかな雰囲気で会話が進む。

ナツメが、かけがえのない仲間ができて幸せだと伝えると、シオリはとても驚き、そして喜んでくれた。


まあ、恋人が二人もいることはさすがに伝えられなかったが。

そして、トランザムに出場することを伝えると、「応援してるね」と笑顔で言ってくれた。


別れ際。シオリは、ナツメの手を握り、真剣な眼差しで伝えた。


「力になれることがあったら頼ってほしい。私も、君の助けになれるように頑張るから」


その姿は、どこか儚さやアンニュイさが漂っていた初対面の時よりも、ハツラツとして見えた。



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