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25話 君という希望

回想なので、リリアの口調や一人称が本編とは変わっています。

合同訓練を取り付けるのは難しくはなかった。イノベイターとしては、ドレイク社という軍需産業の大手とコネクションができることは願ってもいないことだ。一方、ドレイク社のハイドラ開発チームからしても、うだつが上がらないテストアクトレスが何とかなる可能性が少しでもあるのなら、ナツメの指導を拒否する理由などなかった。


リリアが伸び悩んでいる原因はすぐにわかった。それは、語るのもためらわれるほどの杜撰な指導の賜物だった。

彼女の姉、アリアを指導していた教官は、その成功体験から、そのままのやり方でリリアを指導してしまったのだ。一度合同作戦でアリアと轡を並べたことがあるナツメは、二人の性格や才能の差がわかっていた。自分にわかることが、指導者に理解できなかったことは謎ではあったが、あのチームのリリアへの無関心な態度から、彼らがリリアのためになることはないのは誰の目から見ても明らかだった。


--------------------


ナツメは、まずドレスを用いない基礎訓練を重視した。リリアは身体能力が優れている方ではないし、実戦では体力的な余裕がものをいうからだ。リリアもその理屈には納得し、音を上げずに懸命についてきた。


そして、座学。これは、実戦データを振り返って各機の行動意図を紐解くことから始めた。戦うことに本質的に向いてないリリアには、まず思考の模倣から入ってもらうことにした。


そして、広義の意味の戦略を身に着けるのも大事だ。リリアはまだ子どもと言って差し支えない年齢なので、多くを求めることには無理がある。切り捨てる部分を判断できるようにすることは重要だ。


ナツメは、リリアに問いかけた。


「リリア、ここに銃があったとして、私に向かって引き金を引けるか?」


「そんなの無理だよ」


リリアは即座に答えた。


「では、私が君に銃口を向けているとしたら?」


「……それでも無理だと思う」


リリアは顔を伏せて答えた。


「これで分かったろう?君は真っ当な神経と倫理観の持ち主だ。実戦にはまるで向いてない」


リリアは唇を噛みしめる。


「そんなの分かってるよ。なにが言いたいの?」


「だが、模擬戦ならどうだ?」


「私はテスターなんだから、模擬戦では結果を出さないと」


「そうだ。だが、君は模擬戦で余計なことを考えて結果を追求しなかった」


「何を根拠にそう言うのさ!」


リリアが反抗すると、ナツメは淡々と告げた。


「実際に戦った時に、多くの戸惑いとためらいを感じた。それらを相手やバックアップしてくれるチームに悟られるようでは、勝てないし、信頼もされない」


リリアは「ぐぅ」と声を詰まらせた。


「大事なのは、何をしないか、だ。得意じゃないことを悠長に練習できるほど、戦いの場は甘くない」


「僕は何をしたらいいの?」


「君の得意なことは?」


「コア共振率くらい?」


ナツメは首を横に振った。


「それは有利な要素だが、得意なこととは言わない。機体制御はできるか?射撃と格闘は、どちらが得意だ?」


「機体制御なら人並みにはできるよ。難しいマニューバだってこなせる。格闘は無理だから、射撃でなんとかできるようにしたいなぁ」


「そういった方針を一つ一つ固めていくんだ。君の人生に責任を持てるのは、君だけだ」


ナツメの言葉に、リリアは決意を新たにした。


「う、うん。わかった」




いかに各方面に利益があるとはいえ、それほど長い時間リリアに付きっ切りになることはできない。合同訓練も、一か月という期間が限界だった。それでも、それはリリアが私と打ち解け、そして装者(アクトレス)として成長するには十分な時間だった。


しかし、リリアが私に心を許した故に生じる問題もあった。


子どものように抱きついて、安らいだ表情を見せるリリアを見ながら、ナツメは思う。リリアの精神は安定してきたが、同時に私への依存も出てきた。これからのことを考えると、彼女自身の自立に舵を切ることは必須だろう。


いよいよ合同訓練の終わりが見えてきた。リリアは、目に見えて不安そうな様子だ。


「リリア、自信を持ってほしい。君は一流のテスターになる素質を持っているし、その才能はもう開花し始めている」


ナツメの言葉に、リリアは顔を上げた。


「本当!?ナツメにそう言ってもらえると、心強いよ」


「そこで、訓練の締めくくりにもう一度演習を行って、その成果を示そうと思う」


「ナツメと再戦するんだね」


リリアは少し緊張した様子こそあるが、装者(アクトレス)として最低限の心構えはできたように見えた。


「その上で、目標というよりは課題を提示しようと思う」


リリアは、真剣な眼差しでナツメの言葉を待った。


「私に、勝利してもらいたい」


「そんなの、無理だ!」


ナツメは、静かに言った。


「ああ、今回で結果を出すことは難しいだろう。私はリリアの手の内を全て知っている。リリアには、次に我々が戦った時に、勝利するための糸口をこの演習で掴んでもらいたい」


「次があるってこと?」


リリアの瞳に、光が宿った。


「ああ。我々が装者(アクトレス)として最前線を走り続けているなら、そう遠くないうちに、再び道が交わるだろう」


「そう、だね。わたしが選んだ道は、そういう道だ」


その時、リリアの胸に、目標という名の希望の火が灯った。ナツメはその様子を見て、確かな手ごたえを感じた。


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演習は、ドレイク社の開発チームに大きな反響を生んだ。リリアの動きは、一か月前とは比べ物にならないほど鮮やかで、二人の装者(アクトレス)が接戦をしていることは誰の目から見ても明らかだった。

軍配はナツメに上がったが、この一か月でナツメから教わったことのみでナツメに食らいついてみせたことは、リリアの評価を大きく上げた。


演習後、ナツメとリリアは固く握手を交わした。


「次戦う時が楽しみだ」


「うん、必ず約束を果たすよ」


それを聞いたナツメは、心の底から微笑む。


「そうだ。もう一つ、誓いを立てておこうと思うんだ」


リリアは、まっすぐナツメの瞳を見つめた。


「誓い?」


「そう。ナツメはわたしを助けてくれた。だから、今度はわたしがナツメを助けるよ」


自信を持って、太陽のような笑顔でそう語るリリア。その姿に、ナツメは驚き、目を丸くした。


「そうか。その日を、待っているよ」


儚げに微笑むナツメ。リリアは、予想外の反応を受けて驚いた。ナツメの反応は、まるで、今も助けが必要なようで、リリアはハッとした。


そして何より、心情をさらけ出したようなナツメの表情は、あまりに美しく、リリアはただただその顔に見惚れていた。

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