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22話 造られしモノ

今回、いよいよ敵の正体が明らかになります。

揺籃(クエイクドクレイドル)での激闘が終わり、パシフィック校に再び静寂が戻った頃、エクリプスのチームルームにカオリ・タチバナとアマネ・コウサカが訪れていた。


アマネは、部屋に入ってくるなり、ナツメを鋭い眼差しで射抜いた。

エリはパーマのかかった茶髪とミニスカートをはじめとしたギャルっぽいファッションをしたアマネの、内面と外見のギャップに改めて驚く。このファッションも策士としての偽装なのだろうか。


「ナツメ・コードウェル。あの襲撃してきたドレスとはどういう関係だ?」


ナツメは、アマネの問いに、普段からは想像もできないほど硬質な声で短く答えた。


「敵だ」


その声は、エリにとっても今まで聞いたことがないほど冷たく、感情が押し殺されているように感じられた。

カオリは、ナツメの言葉に得心がいったように頷いた。


「そうか。戦ったことがあったから、対処法を知っていたのか」


アマネは、さらに追及した。


「敵の正体は何だ?」


ナツメは、わずかに躊躇した後、真実を告げることを決めた。


「やつは『聖女協会(パンドラ)』の所属だ」

聖女協会(パンドラ)。聞いたこともない名前に、全員が困惑の表情を浮かべた。


聖女協会(パンドラ)は、人工的に臨界者を作り、それを販売する営利目的の宗教組織だ」


ナツメの説明に、一同は驚愕した。


「では、聖女協会(パンドラ)というのが、一連のテロ活動の裏にいると?」


エリが問うた。ナツメは、少し考えてから、首を横に振った。


「それは別件だ。無人機によるテロ活動は、『鉄血同盟(ブラックスミス)』の手口だ」


アマネは、眉をひそめた。


「なんだ、その鉄血同盟(ブラックスミス)というのは」


鉄血同盟(ブラックスミス)は、過激派の男性復権主義者だ。無人機を用いて、ドレス至上主義社会に反抗している存在だ」


ナツメの言葉に、エリは状況を整理した。


「なるほど。だから、ドレスを使って襲撃してきた本件とは性質が全く違う、と?」


「ああ」


ナツメは肯定した。アマネは、今度は根本的な疑問をぶつけた。


「臨界者とはなんだ?」


その問いに答えたのは、意外にもカオリだった。


「コア共振率が100%を超えた者、だろ?」


アマネは驚いた。カオリがその存在を知っていたことに。


「今回の敵がその人工臨界者だったということか。しかし、コア共振率が100%を超えると、何が起きるんだ?」


ナツメは、アマネの問いに、静かに答えた。


「あなたが今回体験した通りだ。ドレス固有の能力である機体の運動や質量、慣性制御を、機体のごく近くという縛りを超えて振るえるようになる」


アマネは、その言葉に、あの白銀の天使のドレスが放った、不可解な刃の羽根の仕組みに得心がいった。サイコキネシスのように動いていた羽根は、臨界者の能力の顕れだったのだ。


「それで、君はいったい何者なんだ?」


核心を突く質問が、アマネからナツメに投げかけられた。


「おい」


不機嫌そうなカオリの声に、アマネは思わず身を震わせた。カオリの問いかけは、アマネの質問が彼女の勘気に触れてしまったことを示していた。

カオリは、鋭い視線でアマネを睨む。


「ナツメがあの時弱点を教えてくれたのも、今質問に答えてくれているのも、善意からだ。別に黙って知らんぷりしてても、誰にもそれを咎める権利はねぇよ」


アマネはそこで、自分の失策を悟った。危機的状況にさらされて気が立っていたとはいえ、ナツメ・コードウェルによって命を助けられたことは事実だ。そして、今、彼が自分の疑問に真摯に答えようとしているのも、事件に巻き込まれた自分たちに対して、誠実であろうとする気持ちの現れだろう。それなのに、自分は好奇心に任せて、あまりにデリケートな部分に踏み込みすぎた。

カオリは、さらに重い言葉を続けた。


「それでお前さんは、その善意にどう報いる?」


重い言葉だった。アマネ自身は好奇心から軽はずみにナツメの正体を尋ねてしまったが、それはナツメが回答するにはあまりにリスクリターンが見合っていない質問だったし、何かしらの守秘義務や陰謀に触れてしまうことを思えば、アマネ自身にとっても危険な発言だった。


「すまない。失言だった。忘れてくれ」


冷や汗をかきながら、アマネは質問を取り消した。カオリはそれに対して鷹揚に頷いた。


「いい子だ」


ナツメは、このやり取りを複雑な表情で見ていた。


「他に聞きたいことがねぇなら、帰って休みな」


カオリが言った。アマネは、その言葉に質問を返した。


「君は?」


「残って話を続けるさ。オレにとっちゃ、またとないチャンスなんでね」


獰猛に笑うカオリに、アマネは短く返した。


「分かった。失礼する」


アマネは一礼し、部屋を退出した。

カオリは、改めてナツメの手を取って礼を言った。


「改めて礼を言わせてくれ。助言があのタイミングでなけりゃ、正直危なかった」


ナツメは、乙女のように儚げに答えた。


「無事でよかった」


二人の中性的な美男美女のロマンスを間近で見て、エリは危機感を覚えた。咳払いをして、二人の間に割って入る。


「それにしたって、今回のナツメさんは迂闊過ぎましたよ!」


何度も肝を冷やしたエリは、それくらいの文句を言う権利があると自認していた。


「すまない。今回はそれほどの相手だったんだ」


ナツメは、素直に謝罪した。


「強敵だったが、ちょいと大袈裟じゃねぇか?」


カオリが問いかけると、ナツメは首を振った。


「貴方と『陰雷』ほどのコンビでなければ、ミキサーに入れられた生肉みたいになるのが関の山ですよ」


その会話を聞いて、エリはギョッとした。ナツメの言葉の裏には、彼自身もあの天使にそれほどの脅威を感じているという現実があった。

シェリーは、ナツメの真剣な表情を見て、問うた。


「汝も、あのドレスと戦ったことがあるのだろう?」


ナツメは、視線を伏せた。


「仕留め損ねた」


その声には、悔恨と憤怒が滲んでいた。今まで見たことがないほどの攻撃性を示すナツメに、エリは違和感を覚えた。


「なぜ、そこまでこだわるんですか?」


エリの問いに、ナツメは顔を上げた。


「あれは、人に死を振りまくだけの生物だ。存在してはならない」


「どうしてそんな……」


エリが言葉を詰まらせると、ナツメは自嘲気味に答えた。


「同族嫌悪だ」


その言葉に、三人は息を呑んだ。ナツメも、あのアクトレスも、戦うために生み出された存在であることを指しているのだろう。


エリは、たまらずナツメに訴えかけた。


「たとえナツメさんが困難な運命を背負っていても、あんな人と一緒じゃないです!」


シェリーも、力強く言葉を続けた。


「そうだ。汝が誇り高き戦士であることを、我々は知っている」


カオリは、ナツメの肩に手を置き、まっすぐ彼を見つめた。


「お前さんは、オレが惚れた男なんだ。胸を張ってくれよ」


三者三様にナツメのことを励ます。その言葉は、ナツメの心を温かく包み込んだ。

少し取り乱していたことを自覚するナツメは、言われた言葉を含めて恥ずかしくなり、赤面した。


「ほんと可愛い人だよ」


愛おしそうに呟くカオリに対して、エリは不満そうにツッコミをいれた。


「なに、さもずっとチームにいたみたいに振る舞っているんですか!」


「それはそうと、ナツメはどうやってあの怪物と渡り合ったのだ?」


シェリーが、思いついたように尋ねた。


「ああ、まともにやったら絶対勝てないから、刃の嵐をぶち抜いて本体を殴り飛ばした」


ナツメはこともなげに言った。いくらクルセイダーの装甲が頑丈でも、一歩間違えたらミンチになるようなことを平然とやってのけるナツメに、流石のカオリも顔がひきつった。


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