12話 祝勝会
「シューティングスター」閉幕直後。熱狂冷めやらぬ会場の喧騒を背に、ナツメの控室には、エリとシェリーが祝福の言葉を伝えに来ていた。ナツメの優勝を労う穏やかな時間が流れる中、突如として扉が勢いよく開く。現れたのは、リリアを先頭に、アンとキャシーを引き連れたアストラルの面々だった。
「ナツメ、優勝おめでとう!」
リリアは満面の笑みで、躊躇なくナツメに歩み寄る。その勢いに、エリは思わず身を固くした。
「ありがとう、リリア」
ナツメが返すと、リリアは大きく頷いた。
「当然でしょう?それでね、僕から提案があるの。ナツメの優勝を記念して、祝勝会を開かない?もちろん、僕が主催するから!」
リリアは自信満々に言い放った。そんな状況でのリリアの提案に、周囲は困惑の表情を浮かべる。
「リリア、シューティングスターで負けたのは貴方ですよ……」
キャシーが呆れたような声で呟いた。リリアの図太さに呆れつつも、内心では「彼女らしい」と納得している様子だ。
「わーい!お祝いだー!リリアさん、最高っス!」
アンは何も考えずに大喜びでぴょんぴょん跳ねている。
「え、あの、リリアさんが主催で……?」
エリは困惑と呆れが入り混じった表情で、シェリーに助けを求めるような視線を送った。リリアの行動が全く理解できないらしい。
「ふむ……面白い」
シェリーは興味深そうに腕を組み、パーティに乗り気な様子を見せる。ナツメはリリアの提案に素直に喜びつつも、リリアへの親愛の情から借りを作るだけでは面白くない、と思った。
「それは光栄だね、リリア。ありがとう。でも、せっかくなら君たちアストラルがニューオーダーで優勝したことも、盛大に祝わせてほしいな。合同祝勝会というのはどうかな?」
ニューオーダーからシューティングスターまでの期間は非常に短く、どちらの大会も熾烈を極めた。この期間中に選手たちがのんきに祝勝会を開くことができないのは、誰の目から見ても明らかだった。ナツメの逆提案に、リリアは目を輝かせた。
「いいね!」
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数日後。学園のカフェテリアは、色とりどりの飾り付けが施され、華やかな祝勝会の会場となっていた。普段は活気ある食堂だが、この日は軽食やドリンクが並び、普段の訓練とは違うリラックスした雰囲気が漂っている。最初こそぎこちなかった両チームのメンバーだが、時間が経つにつれて徐々に打ち解けていった。
テーブルの片隅では、シェリーとキャシーがグラスを傾け、静かに言葉を交わしていた。普段は冷静沈着な二人も、この場では少しばかり肩の力が抜け、ドレスの調整や戦術論で打ち解けているようだった。
その間、フロアの中央では、リリアが上機嫌でナツメに話しかけていた。
「短い期間に二度も対決したし、次は合同訓練か共同作戦がいいんじゃない?もっと色々なナツメが見たいもの」
リリアは屈託のない笑顔でのんきに言う。ナツメは肩をすくめて軽口を叩いた。
「共同作戦が必要な事態は、あまり穏やかじゃないな」
二人の間に流れる独特の空気は、周囲、特にエリを少し戸惑わせた。ライバル同士でありながら、どこか親密なその距離感に、エリは複雑な表情で彼らを見つめる。
エリは意を決し、アンとキャシーの元へ向かった。
「あの……」
「あ!エリさんだー!ミラージュのセンサー、砂煙の向こうを正確に捉えるなんてすごいっスね!」
アンは目を輝かせ、エリのミラージュに興味津々で、ドレス談義で盛り上がろうとする。キャシーは、そんなアンを軽く窘めつつ、エリに向き直った。
「貴方も、随分と変わりましたね」
キャシーはエリの真面目さや、以前よりも堂々とした立ち振る舞いに成長を認め、少しばかりの尊敬の念を込めた言葉をかけた。エリは、リリアの天真爛漫さを含めて、アストラルメンバーが意外とフレンドリーであることに気づき、少し安心するのだった。
祝勝会は和やかな雰囲気のまま幕を閉じた。アストラルとエクリプス、両チームの間に、ライバルとしての意識は変わらないものの、互いを認め合うような空気が生まれていた。
しかし、この平和な日常の裏で、不穏な影が忍び寄っていた。
各々のデバイスにニュースを報じる速報が、通知音とともに届く。そこには、「東京湾南海上にある複数の施設が同時に占拠される」という文字が踊っていた。




