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4.魔族(中)

1.回想:女神像前


 何だかんだボス討伐ってむずいんだよね。

 別に無理に狩らなくてもよくない? 可哀想じゃん。人権ならぬボス権とかないのかな。確かに魔術はくれるけどさ、じゃあ大金持ちは殺していいのかって話になるじゃん。そこまでして魔術が欲しいかって話よ。そんなに欲しいなら自分で見つけろよ。ククルプスさんにも家庭があるんですよ!


 ボス討伐で得られる報酬魔術(リワーデッド)とは別に、世の中には開拓魔術(ディスカバリー)ってのもある。

 人間が自力で創り上げた魔術式を用いる魔術だ。代表作は『女神の祝福』。一般に魔術師というと、この開拓魔術師のことを指すことが多い。レヴィとかだな。


 迷宮産の鉱石やら薬草にはその迷宮の魔力が含まれている。それを特殊な紙やらインクやらに加工してどうにかするんだと。迷宮攻略が金になるのは主に魔術開拓のためだ。


 でもな〜。開拓魔術も開拓魔術で宝くじみたいなもんなんだぜ。開拓魔術師を名乗って研究してる奴らはさ、連日連夜適当に紙にインクを引いて、たまたま有用な魔術が生まれるのを待つんだ。丁寧に紙もインクも迷宮産のもので揃えてな。時代はやっぱり報酬魔術か??


 結局一番賢いのは資源採取よ。迷宮産の鉱石や薬草は酔狂な開拓魔術師が高値で買い取ってくれるからな。

 ゴールドラッシュで一番儲けたのは作業着を売り捌いた連中なんだぜ。夢を求めて金塊を掘りまくった奴じゃなくてな。


「……手酷くやられたなぁ」


 俺はボロボロになった【奇道怪鳥】の連中をポイポイと女神像の前に放り投げた。修復済みの綺麗な死体に生気が宿る。


「カ、ハッ……! し、死ぬ! 死んだ……! わ、わたし、生きてる……卵、たまご、持って、に、逃げ……死んでない……!? 息が、できる……」


 初めての反応はいつ見ても愉快だなぁ。


 あの高慢ちきだったアンバーが顔を真っ青にして喉元を押さえている。コレが見たかったからコイツを最初に蘇生したんだ。


 死体回収は手慣れたもんよ。なんせ俺が死体を作ることも多いからな。

 ポイポイっと。くそっ、にしても多すぎる。何人いんだよ。かったりぃな!

 最後の方の手つきは雑なんてもんじゃ無かったが、蘇生に影響はないので問題なし。


「……これが……女神の祝福……」

「どうだった?」


 不思議そうに自分の身体を見渡すバドウェイくんに笑いかける。

 バドウェイくんもアンバー同様顔を青ざめさせて、虚な瞳で俺を見た。


「どうだったって……凄まじい、としか。あと、死ぬのは思ったよりも、怖かった……」


 思いの外体調が悪そうな答えが返ってきたな。


「違ぇよ。次は勝てんのかって聞いてんだ」

「つ、次!? 次のことなんて、まだ考えられないよ……死ぬのは、怖い……もう二度と──」

「おいおい。何弱気になってんだよ。まだたったの一回死んだだけだろ」

「ひっ」


 俺はにっこりと笑った。

 バドウェイくんが後退る。何をそんなに怖がることがあるんだよ。なァ?


 いやさ、考えてもみろよ。ボス部屋はかなり入り組んだ所にあったよな? 実際ククルプスのボス部屋が発見されたなんて話は聞いてない。ゼブルート一の事情通であるこの俺がだ。つまり、俺たちが一番乗りなんだよ。こんな絶好の機会を逃す気か? ランク七の冒険者が? 俺ならそんなヘマは犯さない。

 それともアレか、俺がこの情報を【飼い犬】に持ち帰っても良いってのかよ。速攻攻略されちまうぜ。うちには戦闘特化の報酬魔術を二つ持ってる戦士や凄腕の魔術師がいる。『女神の祝福』を開発した──って言えばどんくらいヤベェか分かるだろ? ん?


 いやなに、脅してるワケじゃねぇんだよ。俺も冒険者の端くれさ。最低限のマナーは弁えてる。ボス部屋を見つけたクランにはファーストアタックの権利がある。だからバドウェイ君たちがやるって言うなら譲るのも吝かじゃない。


 でも諦めるって言うなら──俺は十分義理立てしたことになるよなァ??


「あ、諦めるとは、言ってないだろ……ただすぐには難しいってだけで……」

「ファーストアタックは終わったってことか?」

「ひっ。き、君は……僕たちを、使い潰すつもりなのか……? 自分は安全に、情報収集だけして……」


 俺はニカッと歯を見せて笑った。


 おいおい、人聞き悪いこと言うなよ。実際君らを蘇生させてやったのは俺だろ? 最悪一生霊体で過ごすことになったかもしれねぇんだぜ。


 俺は約束を守る男さ。

 バドウェイ君たちがもう無理です、諦めましたって言うまでは、ボス部屋の場所を公開しないって誓ってやるよ。何ならゾンビアタックのセオリーを教えてやる。一度はアドバイザーを引き受けた身だしな。


 で、やるのか? やらないのか?


「や、やる……やってやるさ、くそ……!」


 バドウェイ君は青白い顔のまま頷いてくれた。交渉成立だな。


 そんなやり取りを、赤毛の女がジトっとした目つきで睨んでいた。




2.回想:女神像前


「カ、ハッ……ま、また死んだ……うっ」


 最初はまず情報収集から始めるんだ。どんな魔術を使うのか分からないと戦いにもならねぇからな。で、今回は何か分かったか?


「……ヤツの魔術は……精神攻撃、だ……ヤツの咆哮を聞くと、身体の芯から、震え上がる……恐慌に陥るんだ……今なら分かる……」


 だろ? 死んでも良いことの一番の利点はソレだ。

 じゃあもう一回だな。


「ひっ。も、もう一回……!?」


 当たり前だろ。俺たちと違ってククルプスは不死じゃないんだ。時間をおいて自然治癒されたらせっかく与えたダメージが無駄になる。


 これがゾンビアタックの二つ目の長所。俺みたいな優秀な死体回収役が居て良かったなァ? これが凡百ならみすみすボスに回復されてたんだぜ。


「せ、せめて一日……休ませてくれ……」


 駄目だ。諦めるのか?


「……」


 そんなやり取りを、赤毛の女がジトっとした目つきで睨んでいた。




3.回想:女神像前


 今回の収穫は?


 へぇ。なるほど。ククルプスの命令に従いそうになった? 恐慌付与だけじゃないのか。本格的に精神操作の魔術だな。洗脳の類か。


 良かったな。多分コレはヤツの奥の手だぜ。追い詰めてる証拠だ。


 じゃあ次、行ってみよっか。疲れたって? そんなワケないだろ。肉体は完全に修復されてるんだから。錯覚だよ錯覚。


 そんなやり取りを、赤毛の女がジトっとした目つきで睨んでいた。




4.回想:女神像前


 今回の収穫は?


 うん、うん。じゃあ次だ。

 あん? 本当に削れてるのかって? 当たり前だろ。自分たちの腕を信じなよ。


 え? 明らかに傷が癒えている? 俺の回収が遅いんじゃないかだと?


「おいおい、人聞きが悪いなぁ。この俺を疑うのか?」

「そ、そうだよね……タイダラ君は、僕たちにこんなに良くしてくれているのに……」


 いやまあ嘘だけど。回収役が一人でゾンビアタックが成立するわけないだろ。

 俺が適当に言い含めると、完全に正気を失っているバドウェイくんは虚ろに頷いた。


 そんなやり取りを(以下略)




5.6.7.8..........101.ボス部屋にて


 もう何度目とも分からないゾンビアタックである。


 もはや何のために突撃しているのかすら定かではない。ルーチンワークのように足を動かす。思考が介在する余地が全くない。あるいは人間の完成系はコレなのではないかとすら思うほど、洗練された奴隷仕草だった。

 そうだよな。俺たちは結局定職に就いてあくせく働くしかないんだ。何のために働いてんのかってそりゃ金のためよ。行きたくねぇのに習慣で朝目が覚めて、気付けばスーツに革靴履いて。


 何の話をしてんだったかな。

 あれ、俺って何のために生きてるんだろ。


「キエエェェェ!!」


 あっ、これはバドウェイ君の叫び声ね。


 【奇道怪鳥】は本当にゾンビみたいになった。目に生気が感じられない。戦場では死兵が一番厄介って本当なんだなぁ。こんな奴らに襲われるククルプスが不憫でならない。


 俺の方とて無事では済んでいなかった。最初は適度に休んでいたんだが、途中からは俺も楽しくなっちまった。ほぼ不眠不休でゾンビアタックを続ける【奇道怪鳥】に触発された形だな。


 眠くなったら女神像の前まで行って自害する。それだけで身体は全快よ。まる一週間は寝ていない気がする。働き詰めだ。俺ってば優し過ぎない?? こんなに俺に尽くしてもらえるなんてバドウェイくんは幸せ者だよ。涙が出てくる。


 いや待て、何だ、コレ。

 涙じゃない。もっとどろりとしていて──コレは、血涙……?


『────────ッ』


 ララララ、ラー、ララー。

 何だ、この脳内に直接響いてくるような声はッ!


 俺はバッ、と頭上を見上げた。しまった。戦場に近付きすぎた! 


 そこに居たのは怪鳥だった。


 鷹の図体。梟の面。

 ククルプス。

 偽りの太陽を背景に翼を広げた姿はまるで神のようで──違う、俺の神は先生ただ一人──


『────────ッ』


「アガッ、ガアアアァッッ!!!!」


 怪鳥が吼える。咆哮する。

 ククルプスの魔術は精神操作──洗脳。


 気付いた時にはもう手遅れだった。





「……俺はなんて、愚かだったんだろう」


 ククルプス様に逆らうなんて。

 あまつさえ一週間にも渡って安眠を邪魔し続けてしまうなんてっ!


 晴れやかな気分だった。

 今なら空も飛べそうな気がする。いや、実際に飛べるんだ。ククルプス様は俺に道を記してくれた。太陽を背に逆光に照らされたあの御姿……アレを、誰にも汚させてはいけない。


「……バドウェイくん」

「ハッ」


 俺の呼びかけにすぐに応えてくれるのはバドウェイくんだ。


 彼も俺と似たような感情を抱いているようだ。

 やっと何か、抗いがたい戒めから解放されたみたいな。どうしようもない悪魔からようやく逃げられたみたいな、清々しい顔をしていた。


「とりあえず、一旦寝よっか。俺たち、頭がおかしくなってたみたい」

「そう、しましょう。我らが神の仰せのままに」


 こうして魔王軍が結成された。


ククルプスちゃん「風呂入って寝ろって言っただけなのに何故か神扱いして信者みたいになってる……怖い……」

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