にぃににバレンタインチョコをわたせるかな⋯
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【にぃに(兄)にバレンタインチョコを渡せるかな⋯】
わたしは、みなもとようこ(源陽子)5さい。
きょうは2月14日。なにかあるみたい。
「ママ〜、きょうってなんの日?」
「今日はバレンタインデーっていって、女の子が好きな男の子にチョコレートをプレゼントする日よ」
「すきなおとこのこ⋯」
「あら? 陽子ちゃん、好きな人がいるの?」
「⋯にぃに」
わたし、お顔があつくなっちゃった。
「あら! じゃあチョコレート、渡す?」
「⋯うん」
(真っ赤っ赤になっちゃって可愛いなぁ⋯)
わたし、ママとかいものに行って、チョコレートをかってもらったの。
ほんめいのチョコレートを⋯
きゃあっ! はずかしい⋯
「陽子ちゃん」
ママがよんでる⋯?
「なぁに?」
「ちょっとお化粧してみる?」
「う、うん⋯」
ママにおけしょうしてもらって、かわいいお洋服をきたの。
わたし、かわいくなったかなぁ⋯
「おや? 陽子、美人になったな! どうした?」
パパ⋯にぃににチョコわたすの⋯
陽子は、真っ赤になってうつむいている。
「バレンタインチョコを渡すのよ」
「そうか〜! パパには?」
パパは、嬉々として聞いた。
「あ⋯ぎりチョコ!」
「ぎ⋯義理かぁ⋯」
(子供って時々残酷だよなぁ⋯)
パパ⋯ちょっとさびしそう⋯だけど、ごめんね⋯ほんめいはひとりだけなの⋯
にぃに⋯いつかえってくるのかな⋯?
いまなん時? 3時はん⋯
むねがドキドキするよぉ⋯
お顔があついよぉ⋯
いまなん時? 3時32ふん⋯おそい⋯
「ママ〜! にぃには?」
「まだよ」
「いつかえってくるかなぁ⋯?」
「そうねぇ⋯もう少ししたら帰ってくると思うけど⋯」
「もうすこしってどのくらい?」
「4時くらいじゃないかなぁ⋯」
「4じ⋯」
「陽子、陽太(兄)が帰って来るまでパパと遊ぼうか?」
「うん⋯」
パパとしょうぎをさしたの⋯
「王手、飛車取り!」
「あっ⋯」
「珍しいなぁ⋯」
「う〜、うっかりしてたの⋯まっただめ?」
「しょうがないなぁ⋯待ったね」
「ありがと、パパ⋯」
でも、まったしてもらっても、あたまのなかは、にぃにでいっぱい⋯いつもはパパなんか赤子の手を捻るが如くで、ぜんぜん相手にならないのに⋯
「ただいまーっ!」
「にぃに!」
「あっ! 陽子!」
陽子は、ダッシュで自分の部屋に帰った。
「ありゃ? 父さん、将棋盤に一人で何してんの?」
「さっき陽子と指してたんだけどね、走って部屋に帰ってしまった」
「陽子が? 珍しいな、いつも帰ってくるとすぐ来るのに⋯」
陽太は、現在17歳の高校2年生で、背が180cmと高く、筋肉質の体付きをしていた。
とても面倒見が良く、休みの日に良く陽子と遊んでいた。
「どうしたんだ? 陽子、部屋に行ってみるか」
「待って、出てくるのを待ってあげて」
「母さん? 何で?」
「そのうち出てくるから、待っててあげて」
「? 分かったよ」
その頃、陽子は部屋の閉めたドアの内側で立ち尽くしていた。
にぃに、かえってきちゃった⋯いつもはすぐにむかえに行くのに⋯
逃げちゃった⋯
なんでだろ⋯
そこにいられなかったの⋯
お顔がほてって、むねがドキドキして⋯
はずかしいってこういう事?
でも⋯でも⋯! チョコはわたしたいもん!
ゆうきを出すんだわたし!
陽子は、テーブルに置いてあるチョコを見た。
よし⋯!
とるよ⋯!
陽子は、チョコを手に取った。
そして、部屋のドアをそっと少しだけ開けて、外を覗いた。
ろうかにだれもいない⋯
でも、にぃにの声はきこえる⋯
いくぞ⋯
陽子は、勢い良く部屋を飛び出し、陽太がいる居間へ向かった。
「にぃに!」
「お、陽子! ただいま!」
「お、おかえり⋯」
「あれ? 今日陽子、とても可愛いじゃん」
「⋯⋯!」
言われた瞬間、陽子は、湯沸かし器のように顔が真っ赤になった。
陽子は、一目散に部屋に帰った。
「あれ? 陽子⋯」
「罪な男だなぁ⋯陽太は」
「はぁ?」
「陽太、もう少し待っててくれる?」
「? 分かったよ」
だめ⋯にぃににわたすだけでもすごくドキドキするのに⋯かわいいとか言われたらそこにいれないよ⋯
でも⋯せっかく買ったんだもん!
わたさなきゃ⋯!
よし⋯!
いくよ⋯!
陽子は、再び勢い良くドアから飛び出した。
「にぃに!」
「陽子」
にぃに、いつものえがお⋯わたすんだ!わたし⋯
「に、にぃに⋯これ⋯」
「ん? 包み?」
「そ、そう⋯きゃっ!」
陽子は、敷居に躓いて転んだ。
「いたぃ⋯」
「よ、陽子! 大丈夫か!?」
「うん⋯あっ!」
陽子は、チョコの包みに目をやった。
すると、陽子の下敷きになって潰れていた。
「う⋯ぅ⋯うわぁ〜ん!」
陽子は大粒の涙を流して、自分の部屋に走っていった。
「よ、陽子!」
慌てて、陽太は駆け寄ろうとした。
「待って! 陽太! 私が行くからここで待ってて」
「え? なんで⋯?」
「陽太、母さんに任せるんだ」
「分かったよ」
陽子の母は、陽子の部屋に向かった。
「これは⋯?」
陽太は、包みを拾った。
「チョコレート⋯?」
「陽子は、これを陽太に渡したかったんだよ。今日は何の日?」
「バレンタインデーか」
「そう。陽子は陽太が大好きなんだよ」
「そうか⋯陽子は大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、母さんがついている。陽太は、陽子の気持ちを大事にしてやってほしい」
「分かった」
一方、部屋に閉じこもった陽子は⋯
に、にぃにに、あげるチョコレートつぶしちゃった⋯もう⋯どうしたらいいの?
「陽子」
陽子の部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「ママ⋯」
「陽子、入って良い?」
「ぅん⋯」
陽子は、か細い声で答えた。
陽子の母は、ドアを開けた。
「ママ⋯ママ⋯!」
陽子は、母に泣きながら抱きついた。
「陽子⋯」
母は、優しく陽子を抱きしめた。
陽子は、声を上げてわんわん泣き続け、やがて、泣き止んだ。
「ママ⋯チョコつぶしちゃった⋯」
「うん⋯悲しいね⋯」
「ぅ⋯」
また、陽子の瞳に涙が浮かんだ。
「でもね、陽子。にぃには喜ぶと思うよ」
「ほんと⋯?」
陽子は、顔を上げ、潤んだ瞳で母を見つめた。
「ええ。陽子のにぃには、いつも優しいでしょ?」
「うん⋯」
「絶対に、陽子を傷付ける事なんかしないよ」
「そうかな⋯?」
「そうよ。にぃにの事信じられない?」
「ううん! 信じられる⋯」
「大丈夫よ」
そう言って、母は陽子の頭を優しく撫でた。
「うん⋯」
「さ、もう一回化粧して、綺麗になりましょうか」
「うん、ありがとう!」
陽子は、もう一度化粧をしてもらった。
そして、鏡の前に立った。
「これがわたし⋯」
「そうよ。綺麗よ、陽子」
母は、微笑んで言った。
「えへ⋯」
陽子は、少し頬を赤く染めて照れくさそうに微笑んだ。
「じゃあ、にぃにのところに行きましょうか?」
「う、うん⋯」
ドキドキする⋯ママはだいじょうぶっていってたし、わたしもだいじょうぶって思うけど⋯どこか⋯こわいよ⋯
陽子は、母と手を繋いでうつむきながらも部屋を出た。
う〜、ろうかがながい気がするよぉ⋯
そして、陽太がいる居間に着いた。
「陽子、母さん」
にぃに! 笑ってる⋯やさしく⋯
「陽子、こっちにおいで」
陽太が優しく、陽子に語りかけた。
は、はずかしい⋯
「陽子、いってらっしゃい」
ママ⋯うん。
陽子は、恐る恐る陽太に近付いた。
「陽子、ありがとう」
陽太は、陽子に優しく語りかけた。
「にぃに⋯」
「チョコ、俺にくれるんだろう?」
「うん! でも⋯つぶれちゃった⋯」
「大丈夫だよ、チョコは潰れても、これをくれた気持ちが嬉しいから」
「にぃに!」
陽子の表情がパッと明るくなった。
瞳は少し潤んでいる。
「これ、美味しいよ。ありがとう、陽子」
陽太は、再び優しく語りかけた。
「にぃに⋯」
陽子は、頬を赤く染めてモジモジしている。
「陽子も食べてごらん」
「え? でも、これにぃににあげたチョコ⋯」
「美味しいチョコを一緒に食べたいんだよ、ほら」
陽太は、チョコをつまんで陽子の口に近づけた。
「あ〜ん」
「あ、あ〜ん⋯」
は、はずかしぃ⋯でも⋯うれしいし⋯おいしい⋯
「美味しいだろう?」
「うん!」
そのあと、にぃにといっしょにチョコをたべたの、おいしかったぁ。
「陽太、ホワイトデーでお返ししないとね」
「そうだね」
「ホワイトデーってなに?」
「バレンタインデーで女の子が男の子にチョコを上げたら、お返しをあげるのよ」
「じゃあ⋯にぃにがお返しをくれるの?」
「そうだよ」
「うれしい!」
「楽しみにしてて」
「うん!」
そのあとも、にぃにといっぱいおしゃべりしてたらねむくなってきちゃった。
「陽子、眠いんじゃないか?」
「うん⋯」
「もう9時だし、寝たら?」
「うん⋯そうする⋯おやすみ⋯にぃに⋯」
「おやすみ、陽子」
にぃにに⋯チョコをわたせた⋯zzz
陽子は、いつの間にか寝てしまった。
とても安らかで可愛らしい寝顔で眠っている。
長い物語に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
心より感謝申し上げます。
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