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コンビニの深夜

 三流小説家の吉村は、小説のアイデアで悩んでいた。いくら、頭を捻っても、面白いアイデアが思い浮かばないのだ。駄目だ。これ以上、考えても、時間の無駄になる。マンションの部屋の置き時計は、深夜の2時を過ぎていた。

 気分転換しよう。そう決めて、吉村は、部屋をあとにした。

 夜の住宅街は閑静だった。ひと一人歩いていない。何だか物騒な気もした。トボトボと歩いていくと、向こうの角に、コンビニが見えてきた。店の明かりで、辺りまで、明るくなっている。ちょっと、寄ってみるか?吉村は、上着のポケットに財布が入っているのを確かめてから、そのコンビニに向かった。

 店の前の駐車場に、一台の黒いタクシーが停まっている。乗客も運転手も乗っていない。空だ。運転手が、仕事を休憩して、コンビニで買い物でもしているのかな?と思いながら、店内に入った。

 店内は、思いの外、明るかった。様々な商品が、通路の両側に並んでいる。カップラーメン、ポテトチップス、コーラ、珈琲、調味料、生卵、その他、インスタント食品類。見ているだけでも、楽しい。しかし、客は、どうやら吉村ひとりだけらしい。さっきの運転手は、いないのか?どこかへ行ったのかな?

 まあ、いいや、と、吉村は、しばらく店内をブラついていたが、やがて、飲み物のコーナーで、ガラスの扉を開いて、小型のペットボトルのコーラを抜き出すと、そのまま、レジへ向かった。

 すると、頭を丸刈りにした若い店員が、レジで、みるからに暇そうに立っていた。吉村は、持っていたコーラと、煙草のマルボロを一箱買った。毎度ありがとうございますという、店員の声を背中に聴きながら、吉村は、店を出た。

 外は、深夜だ。コンビニの前は、明るいといっても、近くの通りを歩く人の姿もなく、闇の中である。吉村は、しばらく、ここで、休憩しようと思い、コンビニの窓のしたの壁に、しゃがみ込んで、壁にもたれた。そして、煙草の封を開けて、一本出すと、ポケットからオイルライターを出して、吸った。旨かった。深夜のコンビニで吸う煙草が新鮮な気分にさせた。しばらく、吉村は、ぼんやりしながら、煙草に気を取られていた。

 駐車場に、一台の小型車が乗りつけると、停まった。しばらくすると、中から、若いカップルらしい男女が降りてきて、忙しげにコンビニに揃って入っていった。ふたりの間が、カップルにしては、どこかよそよそしいのが、吉村には気になった。

 吉村は、コーラのふたを開けて、ひとくち飲んだ。爽やかだった。気分もよくなった。

 しばらくして、また車が停まった。白いバンだった。中から、ビックリするくらいに肥えた若い男が出てくると、これも、急ぐように、コンビニに入っていく。

 吉村は、一服、吸った。吸い殻をそばに置いてある灰皿スタンドに捨てる。そして、空を見上げた。星もなく、漆黒の闇夜であった。

 しばらくして、さっきの男女が出てきた。男は、手にレジ袋を下げて、怒っているようだ。顔色も赤い。そのあとを、女が、困ったような顔つきで追いかける。すると、男が、吐き捨てるような口調で、

「もう、お前、ウザいんだよ!どこかへ消えろよ!」

 そう叫ぶと、男は、ひとりで車に乗り込み、あっという間に、どこかへ消えていった。女は、ひとりで、駐車場に取り残された。

 ああ、あの女、フラれたな、と吉村は、ちょっと女に同情していた。女は、しばらく、その場に佇んでいたが、やがて、ため息をついて、プラプラとどこかへ歩いて去っていった。

 吉村は、また煙草を一本、抜くと火をつけて吸った。ふうと白い煙が上がって、立ち上っていく。

 さっきの肥えた男が出てきた。両手に、大きく膨らんだレジ袋を3つ持っている。中には、カップラーメンやスナック菓子で一杯だ。それを見て、あれだけの分量を、ひとりで喰えるんだろうか、と、吉村は感じた。そんなことも関係なく、肥えた男は、荷物を車に乗せて、去っていった。

 それからは、誰も来なくなった。やがて、店内から、さっきの店員が、手にバケツを下げて出てきた。彼は、吉村のところへ来ると、そばの灰皿スタンドの中身を、ポケットから出したポリ袋に捨てて、バケツの水を、灰皿の中にいれて、またバケツを下げて、店内へ戻っていった。

 やはり、タクシーの運転手は帰ってこない。何かの事件に巻き込まれたのか?そんなこともないだろうが、気にはなった。

吉村は、膝にかかった灰を払い落として、立ち上がった。さあ、そろそろ行くか?それでも、小説のアイデアは、いっこうに思い浮かばないのだ。よし、少し、足を伸ばして、真夜中の公園にでも行ってみるか?そう決めて、吉村は、暗闇の中へと姿を消していくのであった........................。

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