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はねにえ博物館

作者: ときのん

たまたま2人きりで博物館に来た話

2月11日の祝日。ヨウと火華は町外れの博物館ー呼贄(よびにえ)剥製館ーに向かっていた。


「まさかヨウさんと2人きりで出かける日が来るなんて……」

「悪かったね俺で。ラズは誘わなかったのかい?」

「誘ったよ!用事があるから無理だってさ。こんな事なら年末引き篭っていれば良かった……」


火華は年末のことを思い出してげんなりとした顔をする。家電量販店でたまたまやっていたガラポン抽選。気まぐれで回したらこの博物館のペアチケというなんか……他になかったんか!?って感じのなんとも言えないものが当たってしまった。

暫く仕舞っていたのだが、よく見たら期限付き。仕方なくラズでも誘って行こうかなと思っていたら、ラズは他の友達と出かける予定があるとか……


「どうした急に落ち込んで」

「いや……ラズくんには友達沢山いるけど私にはラズくん以外の友達って子居ないなって…」

「ラズがいるならいいでしょ」

「まぁそうだね」


そうこうしているうちに目の前に重々しい大きな黒っぽい建物が見えてきた。博物館というより羊羹のような見た目だが、館長の趣味とかだろうか?


「えーと…呼贄剥製館……ここで合ってるね。酷い名前の剥製館」

「火華ちゃん。普通に失礼なこと言ってるよ」


悪趣味で酷い変な名前だろ。なんだ呼贄って。口には出さずにそう思いながら受付にチケットを渡して中に入る。カップル専用のなんたらかんたらが〜とか言われたが受付の話をフル無視してヨウに任せて火華は中に入った。

そもそもカップルでわざわざこんな所に来るのは頭おかしいだろ。


通路脇のマップの書かれたパンフレットを手に取りつつ中に入るとショーケースだったり、○○の生物と書かれた専用の小さなスペースなんかが一定間隔で並んでいた。クマなんかの大きな生物からキツネやリスなんかの小さな生き物まで大量の生物が並んでいる。祝日の休みだというのにがらんとした館内は何処となく不気味だ。

凄いなぁと平凡な感想をヨウと交わしながら館内を練り歩く。海外の鳥類というコーナーの一角で火華の足が止まる。目線の先にはケツァールという鳥の剥製。赤い腹に青緑色の羽根の生えたそれは火華の髪に生えるそれと一致する。


「実物見るのは初めてだけど……綺麗な鳥なんだねキミ」

「これ火華ちゃんのと同じ羽根?」

「一応そうだね。手入れサボってるから私のはこんな綺麗じゃないけど」


ボサっと羽毛の立つ羽根を撫でながら火華が言う。もう少し丁寧に手入れするかと呟く火華は少しだけ悲しそうな顔で剥製を眺め、またマップに視線を落としてその場を後にした。

南米エリア?のような場所を抜け、南極やら魚やらのエリアを探索し、今度はよく見る日本の風景のような森林の場所に入る。ここにはパンダやクマのような大型の肉食獣の他に、草食獣の剥製が置かれている。勿論シカなんかも。


「見て〜あれヨウさん」

「まぁ鹿だけどさ……」

「ヨウさんって何鹿なんだろうね?エダツノレイヨウとか?」

「何故わざわざ別名の方で聞くの?合ってるけどさ」


正解した〜とキャッキャとはしゃぐ火華を他所にヨウは剥製を眺める。勿論自分と目の前の鹿は何ら関係ないのだが、眺めていると何処となく居心地の悪さを感じた。

さっき火華が悲しそうな顔をしていたのはこんな気分だったのかなと思いつつ、そのまま一周して博物館を後にした。


帰り道、火華が意外と楽しかったね〜と口を開く。のんびりと受け答えをしながら歩いていると、ふと火華がカバンの中を漁り始める。


「えーと……あ、あったあった。はい。早いけどバレンタインデーの贈り物ね」


火華はカバンから取りだした袋をヨウに押し付けるように渡す。


「自作マロングラッセと市販のバームクーヘン。一応個包装にしてあるからバームクーヘンにマロングラッセがめり込んでるとかそういう事は無い……はず」

「なんか変な組み合わせだね」

「気にしないで。あ、あとこれあげるわねマシュマロ」


火華はマシュマロをヨウの口にねじ込む。


「……はい。バレンタインデーの贈り物はこれだけね。当日はなんにもないから」

「有難くいただくよ」


ヨウは袋を自分のカバンにしまい込み、火華はそれを満足そうに見てからコホンと咳払いをしてそれじゃあまた明日と言って去っていった。

ヨウもまたねと言って2月の寒空の下を走って帰って行ったのだった。

















帰り道。火華はなんとなく博物館…剥製館の事を調べてみる。剥製は本来、学者の研究なんかに使う物だそうだ。となれば、将来的にはあそこに私の剥製が並ぶ日が来るのかもしれない。

なんと言っても羽人は羽人であって、科学者や研究者からしたら喉から手が出るほど欲しい貴重な人型生物だから。とそんなことを考えつつ、馬鹿なこと考えてるなぁと笑いながら目を伏せる。

白い息が口から吐き出され空に溶ける。何時からか降り始めた雪が覆い被るように火華の姿を消した。

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