第9話 刺《さ》し塞《ふた》ぎたまへ
いつの間にか自分が熱くなっていた。どんだけバカなんだ俺は。
顔から熱が引く、と同時に勝手な思い込みで大事な人を傷つけた事に対して、猛烈な嫌悪感。
妹が両手で顔を覆い、そのまま顔を横に背ける。
横顔は耳たぶが真っ赤かで、「…ちがうの」と、か細い声で言う。
逃げ出すわけにも、かと言って続けるわけにも。
とんでもない勘違いをしている、そうに違いない。
「はぁ~~~、耳たぶが真っ赤かだ。・・・恥ずかしい、・・・当たり前か」
情けないし、突っ走っていたのが、途轍もなく恥ずかしい。
にも拘らず、脳とは関係なく、亀さんは超元気。「あーもう」
俺は視野を妹の顔から背け、下へ下へと下げて行った。
・・・妹は、めちゃくちゃ恥ずかしい事があると、耳たぶが真っ赤かになる。
「・・・そう言う事なのか」焦った所為で、場所が『…ちがうの』なのか。
体勢を整え直す。
広げた妹の両足を俺のももに乗せて、右手を妹の左肩の辺りに、髪の毛に気を付けないと、これで体重は支えられる。
ここが肝心だ。左手で亀さんを二枚貝の辺りに誘導、ゆっくりと押し当てて。
「はぁっ」妹がビックとする。二枚貝が変形した、これは・・・子安貝。
亀さんの頭にぺたぺたとへばり付いて来る。
俺の脳に、初めての感覚が突き抜ける。・・・、・・・、・・・無理っ。
「・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」
体を起こし、少し離れると、子安貝が二枚貝に戻った。二枚貝を恐る恐る見る。
亀さんが思いっきり吐き出したものが二枚貝にべっとり付いている。
そしてゆっくり流れ落ちている。
汚す、と言う言葉がぴったりだ。又も嫌悪感、何してんだ、俺っ。
「なが身の成り余れる処をもちて、あが身の成り合はざる処に刺し塞ぎたまへ」
妹のこの言葉、いや、待て待て待て、冷静になれ冷静になれ冷静になれぇーっ、今ならまだ、妹に嫌われるかもしれないが。
「なが身はいかにか成れる」
亀さんは、亀さんは、・・・どうしてこんなに元気なんだ、脈打ってる。
「あとなと、みとのまぐはひせむ」
・・・再チャレンジ、妹が『まぐはひ』って言っている。
「なが身の成り余れる処をもちて、あが身の成り合はざる処に刺し塞ぎたまへ」
「妹」右手を妹の左肩の辺りに、髪の毛を引っ張らない様に。
左手で亀さんを二枚貝に誘導して、ゆっくりと押し当てて。
二枚貝が又、子安貝に変形する。
亀さんが吐き出したものの所為で滑る。
亀さんの頭にまた、ぺたぺたとへばり付いて来た。
お~この感触、思考がとぶ。・・・こんどは大丈夫だっ。
「妹、俺」ゆっくりと、・・・上に伸し掛かる。
「はっぅ、うぅーーーーーーー」
妹が顔を覆っていた手を、ぱっと枕に移し、ぎゅ~っと握る。
苦しいのかな、痛いのかな、大丈夫かな、頭では思っていても止められない。
眉間に皺が寄り、目は閉じているが、眼球が細かく動いている。
唇は真横に結び、顎が少し上に上がる。
亀さんに圧力が掛かるのを感じる。それとは違う感覚も感じる。
もう止められない、止まらない、止める気もない、脳を別の臓器が支配して行く。