第5話 火球
視線を動かすと妹が視界に入った。
妹の服は、白地に小さな花柄が幾つもある袖のないワンピース
で丈が短い、いや~、かなり短い。加えてうっすらと、青系統の下着が窺える。
「兄子君、どうにも形容しがたい表情になっているわ、それになぜか身の危険を感じるの」
「あ~、そうだね。俺、そのての事よく言われる。これも個性だ、しかたないよ。あっ、そう言えば父さんから妹宛に、エアメールが届いてたみたいだけど、今度はどこから」
「南半球にいるみたいだわ」
「父さんも母さんも、病弱の娘を残して、よく世界中を旅していられるよな。どうしてこうなった」
「ママがペンギンを見たいのだそうよ」
「まったく、俺が中二の頃までは、父さんも母さんもあんなに一生懸命頑張って働いていたのに。俺も少しでも助けになればと思ってFXを始めたが、一生分の運を使ったと思うほどの大儲け、中三の終りには二百億越えだもんな。この家の着工が始まって、『兄子、父さんと母さんは旅に出てくるから、妹のことしっかり看ててくれ』、と言われた時は、今まで苦労して来たんだし、いいかな~と思って見送ったが、全然帰ってくる気配がない。しかも思う存分、金を使ってるみたいだし」
「わっ、私は、兄子君がいれば、だっ、大丈夫だから。目、目がいやらしいのは何とか我慢できるもの」
「俺はこの眼で、妹の事をじーーーっと見ているよ」
妹が一歩俺に近づいて、左腕を思いっきり伸ばし、さっき持って来た椅子の背を掴み、一歩下がり自身の方に引き寄せ、俺と妹の間に配置した。
「なぁ~妹、俺にばかり注意を向けていると、魔物に憑り付かれるかもしれないぞ。昔の人が逢魔時とか言ってた時刻だし、そろそろマイ・セトシ彗星βが大気圏に突入する時間だろ、なっ」
「そうね。だったら兄子君がこっちに来て、私がそちらに行くわ」
つまり、自分の部屋に逃げ込める体勢を整えたいと。
「すれ違いざまに触らないでね、ねっ、絶対よ」「わっかりました」
「両手を上げとけばいい」「出来ればその手で目も隠してほしいわ」「ダメ。歩けないから」
妹は壁に背を向け、一歩づつ西へ移動し、俺は両手を上にあげ、妹の前を通って東側へ移動する。
「妹」「何かしら」ほぉーーー、立派に育ってる。「・・・何でもない」
アイスティー以外は準備が終わり、俺も妹もそれぞれ椅子に腰かけ、南南西の空を見上げ、その時を待った。
数分後、日の光は既になく、見上げていた暗い青色の空にあったマイ・セトシ彗星βが火球となり、落ちて来た。
俺達のいる方へ向かって来るかの様に。
「ぉぉぉおおお」「兄子君、こっちに向かって来るわっ」
火球は途中で細かく砕け、発生から燃え尽きるまで十数秒。
消滅したかと思った瞬間、光の球が軌道を修正し、まさにアッと言う間に、妹を襲い包み込んだ。