第4話 妹《まい》と言う名前の女の子が存在した証
「はいはーい、分ってますよ」
「私と、ぁっ、・・・あなたぁ、うぅ、ん、あなたの名前が付いたお星様よ」
「ま~い~、可愛いお顔がにやけてるよ」「錯覚よ、幻覚よ、幻影よ」「はいはい」
「にやけてなどいないわ。…そうね。兄子君、あなたぁ、こほん。あっ、あなたの言う通りかもしれないわ。二つの彗星を同時期に観察できる事なんて、そうある事ではないもの」
「それもそうだ。妹はこう言うの好きだからな」「なっ、何かしら」
「別にぃー」「私にも、好きな者はあるわ」
これから起こる天文ショーを妹と二人で見ようと、涼みがてら、椅子とテーブル、天体望遠鏡(アイスティーが追加にされてたな)、の用意をしていた。
・・・させられていた、・・・う~ん、やっぱりしていた、ちょっと休憩中。
日が沈んだ西の空には、長く尾を伸ばし、絶賛太陽に落下中のマイ・セトシ彗星αが、南南西の空にはもう直ぐ大気圏に突入する、マイ・セトシ彗星βが見える。
妹の言う通り、二つの彗星を同時に見れる機会などそうはない。
この彗星は、俺が去年の春ごろ発見した。
中学三年の終わりに、有効口径150ミリの反射望遠鏡とカメラを取り付けるアダプター、カメラを買って、未発見の星を探し、命名権を取得して妹の名前を残そうと思った。
妹がいた証を残そうと思った。
妹と言う愛しい女の子がいた事を、いつ別れが来るか分からないから。
そして運よく発見、彗星の命名権を得た。
「妹、新しい彗星に名前を付けて良いってさ」
「それで、兄子君はどんな名前を付けるのかしら」
「それなんだけど、妹の名前にしようかと思うんだ」
天文台の軌道計算の結果、この彗星はあまりにも太陽に接近する為、消滅すると言う事だった。
「消えてしまうのよね、・・・この彗星」「・・・うん、まぁ」
「兄子君の名前も付けてくれるなら、いいわ」
「あ~、分かった。じゃぁ、マイ・セトシ、彗星」
「ダメッ、ここは発見者の名前が先に来るべきよ、セトシ・マイ彗星」
「語感が良くない気が」「…そうね」
「え~、妹が言い出したのに」「仕方がないのよ、目がやらしいしぃ~」
「身体的特徴を揶揄するのは、良くないよ、妹ぃ~」
「そう。ねぇ、兄子君。私も普通の女の子、だから、皆が経験する事は、私も、・・・それから逝きたいと思うの、好きな人が出来て、お母さんになって」
「そうなるさ」「いいえ、兄子君の所為で出来なくなってしまったわ」
「そんな事はないっ、きっと何も起こらない」
「何を言っているの、普通の女の子は、お星様に自分の名前が付く事は無いわ」「確かに」
「あ、な、たぁ、うぅ、ん、あなたの所為で、私は普通ではなくなったわ、責任を取りなさい」
「いっ、いやぁ~、責任、どんな責任」「そっ、それは、…内緒よ」
「・・・悪い」「やっぱり、私の下着が無くなるは、兄子君ねっ」
「ちっ、違うよ、彗星、直ぐに無くなるやつで」まずいな、暫く合間を空けよう。
「いいの、有難う。記録にはちゃんと残るは、仲睦まじく並んで、マイ、セトシって」
「まぁ~、そうだな」
でも更にこの彗星は、木星の軌道付近を通った時、二つに割れた。
そして小さい方は軌道計算の結果、地球への衝突軌道である事が判明した。
しかし心配はない。
こちらは核が小さく地表に到達する事なく、大気中で燃え尽きるらしい。
そして今、妹の名前が付いた星がやって来るのを、心待ちにしているのだ。