第17話 証《あかし》
「なんなんだよ」
二人とも10分ほどで降りてきて、俺の前のソファーに二人してクッションを抱き抱えて座った。
顔は赤いままだ。
「どうしたって言うのさ、妹まで一緒になって」「兄子君の所為よ」
どうしてもじもじしてるの。
「お主は昨日の事、全て記憶しておるじゃろう」
だからどうしてもじもじしてるの、ん、昨日。
俺は今朝、つんつんされて目が覚め、妹に瓜二つの亜妹(仮)を目の前にして感涙した。
何故か。昨日、妹が溶けて、真ん中に脳が浮かぶ、ゲル状の球体、カエルの卵の様になった、夢でないなら。
俺は愛おしい人が溶けてゆくのを、情けなくただただ泣き、見ている事しかできず、無力で矮小な己を再認識するしかなかった、夢でないなら。
意図的に触れない様にしていた短期記憶。
「じゃ、あれは夢じゃないのか」俺は両手で頭を抱え込んだ。
妹の服から露出した部分は全て赤く、両手で顔を隠している。
「お主等、反応が違うのじゃな。案ずるな、複製は無事完了しておる。制作過程で発生した損傷部位も、設計書の不備も、修復、修正された」
亜妹(仮)の肩を妹がぺっしと叩く。
「なぜじゃ、どうしてこんな事をするのじゃ、破れた膜もちゃんと修復されたのじゃぞ」
亜妹(仮)の肩を妹がまたぺっしと叩く。
「いい加減にせんか。その様な理不尽な事をされる覚えはないのじゃぁ」
「私にあんな事を」
「何を言う。お主も『あなにしや、えをとこを』とか言って、受け入れておったではないか」
「はっう」妹がクッションで顔を隠した。
「なっ、なんじゃ、何故その様に狼狽するのじゃ。お主の感情が流れ込んで来て、我等もこの場から消えて無くなりたくなるではないか。お主からは、生物としての情報を採取する為に、設計書の不備の修正と同時に、我等とリンク出来る様に、脳にはデバイスを追加した。しかし、我等もまだこの身に慣れておらぬ故、制御しきれていないのじゃ」
しかし、亜妹(仮)の話の内容で、どうしても確認したい事があった。
「なぁ、一つどうしても聞きたい事がある」「我等にか」
「そうだ。妹のDNAにはキズがあり、医者はその影響で高熱を出したり、免疫力が極端に下がったりするのではないか、と曖昧な事を言っていた。どんな重大疾患を発病するか予測できない。結局のところ対処療法しかないと。お前の言う事が本当なら、妹のDNAは正常になったって事か」
「まぁ、大旨その通りじゃ。我等としても欠損したまま複製しても、意味がないのでな」
ソファーから立ち、向かいの妹に近付く。
「また、目が怖いわ、近寄らないで」「どうして、いいだろう」
亜妹(仮)の言い分を信じると言う事は、昨日、妹は溶けた。
今の人類に、人を溶かして、遺伝子を修正し、再び復元する事など出来ない。
「しょーこ、あんのか」「何を示せば信じるのじゃ、表面的には分らんじゃろう」
何をもって証とするか。詳しい事は病院へ行って調べるのが一番だが、今すぐは無理だ。
「妹、何処か変わった所はないか。角が生えているとか。シッポが生えているとか。長くて尖った八重歯が生えてきたとか」
妹が通常運転に戻っている。
「目に見て判る変化は確かにないけれど、とても体が軽い感じがするわ」
「そっか、なら、父さんや母さん、俺の最大の望みが叶ったのか」
妹をハグしようと腕を伸ばしたら、亜妹(仮)に抱き着く様にして逃げた。
「嫌っ」どうして、何故うるうるしてるのさ、俺が何したて言うのさ。
・・・亜妹(仮)の話を信じるなら、・・・えっちもしたのか。