第16話 改めて覚悟を決めたんだよ
夜明けとともに始まったムース苔集めで平原はにわかに活気づいて、冒険者だけでなく見習い騎士たちもせっせとムース苔を集めてくれていた。騎士たちは平原の各所に散らばり、安全確認に精を出している。
レオは平原の拠点に建てられた櫓の上で、周辺の森を監視していた。隣にはルイがいて、きょろきょろと辺りを見回している。ちなみに万が一にもルイが落ちないようにルイの腰にロープを巻いて、レオのベルトにつなげてある。
ロザリーは集められたムース苔に匂い封じの魔法をかけていた。そうでもしないと鼻の利くキノコモグラが大量の大好物を求めてうっかり出て来かねないからだ。
ムース苔は、まるでムースのようにふわふわしていて、淡い黄色の不思議な苔だ。魔法薬の材料にもなるにはなるらしいが、薬効が低いので採取対象になることはあまりないらしい。そのため、森には多くのムース苔が自生していると報告が来て、一安心したものだ。
キノコモグラは昨夜も少しばかり移動はしているようだが、まだ目立った動きはなく、進路を変えた様子もない。ロザリーの愛用ロッドから冒険者ギルドで貸してくれた初心者用の木製のロッドに変更されたが、その役目は変わらない。
そのロッドの周りで、ポンタがしきりに地面の匂いを嗅ぎながら、時折、穴を掘ったり吠えたりしている。
「元気だな、ポンタは」
「やるきまんまん」
「確かに」
「おてつだいすると、おにくもらえるとおもってるみたい」
「ははっ、よほど気に入ったんだなぁ」
「……オレもおてつだいしたら、またたべれる?」
隠し切れぬ期待のこもった眼差しにレオは笑ってうなずく。
「もちろん。皆で宴会しような」
「うん! オレもがんばる!」
嬉しそうに頷いて、ルイは再び平原に顔を向けた。どうやら彼なりにレオの真似をして監視をしていたらしいと今頃になって気づく。その姿がなんだか無性に可愛くて、頭をわしゃわしゃ撫でたくなるが、びっくりしてしまうだろうかとその気持ちを誤魔化すように咳ばらいを一つした。
「おーい、レオ!」
下から呼ぶ声に顔を向ければ、バージとその隣りに顔と名前だけは知っているエンドの町のエンド騎士団の団長が立っていた。
「どうかしたかー?」
「苔集めに出発する時、門のとこで顔合わせはしたが、忙しくてちゃんとした紹介はしていなかっただろう?」
バージの言葉に「なるほど」と頷いて、レオはルイを抱き上げる、
「一度、下に降りるぞ。掴まってろよ」
うん、と頷いてルイがレオの首にしがみついてきた。レオもルイを抱えなおして櫓の手すりに足を駆けて下へと飛ぶ。
バージと団長の前に降り立てば、バージが「猫みたいだな」と笑った。
「猫は俺たちの親戚だからな」
レオもカラカラと笑いながら立ち上がる。
「では改めて、レオ、騎士団長のギュンターだ。ギュンター。冒険者のレオだ」
「どうも」
「よろしく頼む」
レオが差し出した手をギュンターが握り返し、握手を交わす。硬い手の平は、剣を握る者らしい堅実さを感じられた。
ギュンターは、バージと同年代くらいで、レオと変わりないくらいに背が高く、筋骨隆々だ。ただ整った顔はなんだかいかめしい表情を浮かべていて、右頬に大きな傷跡もあり、少々、威圧感がある。ルイが身構えているのが伝わって来る。
ギュンターの緑の双眸がルイに向けられた。
「ギュンター殿、この子はルイです」
「……事情は聞いている」
出発の際も静かに周囲を見守っている人だとは思っていたが、どうもギュンターは表情も言葉数も少ない人のようだった。
「こ、こんにちは」
ルイがいささか強張った声で、なんとか挨拶をする。ギュンターは、一度、瞬きをすると「こんにちは」とこれまでよりずっと穏やかな声で返してくれた。
返事をしてもらえたことが嬉しかったのか、ルイが少し照れた様子でレオの肩に顔を埋めた。可愛い仕草にレオは、くつくつと笑いながらその背をぽんぽんと撫でた。
「レオ」
ギュンターに呼ばれて顔を向ける。
「これから騎士団でも協力できることはなんでも協力する。エンドの町を護るのは騎士団の役目の一つだ。魔物は君たち冒険者の力を借りなければならないが、それ以外のことなら任せてくれ」
レオはこれまでの旅で、様々な「長」に出会った。
だからギュンターのような地位にいる人間が、レオのような冒険者に衒いもなくこんな言葉を口にして、頭を下げられるのがどれだけ稀有なことかを知っている。バージだってそうだけれど、この町は本当に良い町なのだろうとレオは、より責任感を持って、討伐に挑まねばならない。
「ああ。俺も冒険者としてのこれまでの経験を生かして、出来るだけのことはするつもりだ。何かあったら支援を頼む」
うむ、とギュンターは深々と頷いてくれた。
「じゃあ、話がまとまったところで、俺たちも巡回に戻るよ」
バージが言った。
「おう。また何かあったら、合図を出してくれ。俺とルイは櫓の上にいるからな」
「分かった。では、またあとで」
バージがルイに手を振るとギュンターも手を振ってくれた。最近、人に手を振るのが楽しくて仕方ないルイは、嬉しそうに両手を二人に振り返した。ギュンターが何度も振り返って手を振ってくれるので、顔に似合わず子どもが好きなようだ、とレオは小さく笑った。
それから、夜遅くまで苔集めは続けられ、夜明け頃に目標としていた量がようやく集まった。
夜になるとキノコモグラの活動は活発になり、何度も地鳴りが響き渡った。平原の真下にいるため、平原にいると強い揺れも感じるほどだった。
「皆、ご苦労だった!」
「苔集めに参加したものは、出勤を調整してあるから、良く休め!」
バージとギュンターが冒険者と見習い騎士たちにそれぞれ声をかける。参加者たちは各々返事をして、乗合馬車に乗り込んで町へと戻っていった。
レオは「ありがとなー」と彼らに声をかけて見送り、櫓のそばに建てられたテントへと足を向ける。
中を覗けば、休憩がてら魔術書(大きさからしてケイトリン・レイの本ではなさそうだ)を読み込むロザリーの傍らで、彼女にぴたりとくっつくようにしてルイがポンタを抱えて、眠っていた。
「……よく寝てるな」
「ふふっ、疲れたのよ。昨夜は遅くまで頑張っていたしね」
ロザリーが優しくルイの髪を撫でた。
ルイを見つめる彼女の眼差しの、なんと優しいことだろう。
レオはその場にしゃがみこみ、ルイに布団をかけなおす。
「……な、ロザリー」
「なぁに?」
「…………ルイの、こと、なんだが」
「うん」
「……冒険者稼業ってのは、成功すれば実入りはいいが危険だし、下手すりゃ死ぬし……」
「そうね」
「根無し草みてぇなもんだから、あっちへこっちへふらふらして定住しねぇし」
「確かに」
「……詳しいことは知らねえけど、親に虐待されて育っただろうルイには、もっとちゃんとした家庭や場所で幸せになってほしいってのは嘘じゃねえ」
「うん」
「……でも」
「でも?」
紫色の瞳はただただ優しく結論から遠回りする言葉を並べるレオを見つめている。
「ルイを幸せにしてやりたい。他の誰かじゃなくて、俺、が」
「あら、『俺が』じゃなくて『俺とロザリーで』って言ってくれなきゃだめよ」
パタンと膝の上の魔導書が閉じられて、細い手が伸ばされる。それに応えるべくレオはルイを起こさないように気をつけながら、彼女のそばへ寄る。
そうすれば細い手は優しくレオの頬に触れた。
「ルイって不思議な子。初めて会ったはずなのに、初めてな気がしないの」
頬に触れていた手がルイのほうへ移動する。
「再会した日、私が言ったこと覚えてる?」
「どこの女に産ませたのかってやつか?」
「それもだけど、こんなかわいい子、私が産みたかったって」
「そういえば言ってたな……」
ロザリーはルイの頭を撫でながら先を続ける。
「……あのあと、ひとりでお風呂に入っている時にね冷静になって、なに言ってんだろ、って思ったのよ。好きな人が子ども連れてたら修羅場だし、隠し子だったらなおさらでしょ? でも、理由は説明できないんだけど、あの時、本当に心から、私が産みたかったって思ったの。大好きなレオの子だと思ったからかしらと考えたりもしたんだけど、やっぱり今も、私が産んであげたかったって、思ってるの」
「……まだルイと出会って、そんなに日も経ってないのに?」
「ええ」
軽い返事とは裏腹に、母親の記憶にろくなものがないレオでさえ、彼女の紫色の眼差しが宿すその愛が、まるで母親のようだと感じた。
レオは、一度息を吐き出して、辺りに耳を澄ませる。テントの周囲には誰もいない、少し離れたところでバージはアベルと話をしているのが聞こえる。
「レオ?」
「……防音魔法、頼めるか」
「え、ええ。……『風よ遮断せよ』」
ロザリーが戸惑いながらもロッドを取り出して、防音魔法をテント全体にかけてくれた。これで入り口に立っていても、中の話し声はたとえ聴覚に優れる兎系や梟系の獣人族であっても聞こえない。
レオはお礼を言って、自分のポーチからあるものを取り出した。
「これは……布、じゃなくて、服?」
「ああ。俺がルイを保護した時に、ルイが着てたもんだ」
洗濯をしたわけではないので、汚れたままの服をロザリーが広げる。
「見たことのない形ね……。形状からしてこっちが上で、こっちが下?」
「多分な。俺じゃ着られねえけど、ロザリーなら着られそうだな。多分、こっちでもよくある話だが、大人用のをルイは着せられたんだと思う」
貧しい家庭では、すぐに着られなくなる子ども用の服を揃えることができないため、大は小を兼ねるということで大人用を着せることはままある。レオも母といた子ども時代は母のお下がりを着せられていた。
だが、問題はそこではないのだ。
レオはルイが深く眠っていることを確認してから口を開く。
「ここ、見てくれ」
レオは服を裏返し、脇の縫い目に縫い付けられた白い小さなそれを指さす。
「……大分、薄れているけれど見たことのない文字ね」
「だろ? ズボンのほうにもあるんだ。こっちは割とはっきりしてる」
同じように服の内側に縫い付けられているそれをロザリーに見せる。
表と裏、両方に何かが書いてあり、裏には文字がずらりと並んでいるが、表には文字もあるにはあるが、絵のようなものもいくつか並んでいる。
「魔法は感じないから、呪符とかではなさそうだけど……」
ロザリーが眉を寄せる。
「ルイは読めるの?」
その問いにレオは首を横に振る。
「親に文字を教わってなかったらしい。んだが、親はこの文字が読めるって言ってたから、ルイの国の文字なんだとは思う」
「なるほど。ぱっと見だけで、数種類の文字が使われているようだけど……」
ロザリーが唇をすぼめ、眉間に皺を寄せる。
「……ルイと森を出て、平原に向かってるとき、ルイが森に来る前のことを教えてくれたんだ。父親に怒られて、ポンタと一緒に雪が積もる真冬のベランダに出されていたらしい。雪が降っていて外が寒かったと」
「まあ、そいつを代わりに氷漬けにしてやらなきゃ」
真顔で告げるロザリーに「それは今度な」と返し、先を続ける。
「怒られた理由を教えてくれたんだが……なんだったかな、てれびのりもこん? とかいうものを踏んで怒られたらしい」
「てれび? りもこん?」
「んで、ほかにもでんしゃとかくるまとか、あと、すまほ? とか、あぷりとか……くるまは乗り物らしいことだけは分かってるんだが、あとはさっぱりだ」
ロザリーが未知の文字が並ぶ白い小さな布に視線を落とし、再び顔を上げた。
「そもそも今はこの国もその周辺も雪なんてひとひらだって……ルイは、どこから来たの?」
「分からねえ、んだがよ、本人も夢かもとは言ってたが、真冬のベランダから、一度、床が光ってるとこに移動したんだと。そこには大人がいっぱいいて、男が怒鳴ってて、その男が何かを叫んだあと、森に行きついたらしい」
「光る床って、魔法陣ってことかしら」
「な? そう思うよな? ……それにルイがその光る床に『召喚』されて、森の中に『転移』させられたなら、季節感がねぇのも納得だろ?」
「レオ、召喚って、何を言っているのよ……」
ロザリーの頬が引きつる。
「聖者と聖獣が召喚されたのは話しただろ? 金の鉄槌がその護衛パーティーに選ばれたって話をしたときに」
こくり、とロザリーが頷く。
「昔、親父が言ってたんだ。聖者ないし聖女を召喚するのは、数百年に一度しかできないが、その一度は三回なんだって」
「どういうこと?」
「三回、召喚することができるらしい」
「レオのお父様って、養護院の院長よね。それでエルフ族の……」
「遥か昔にゃ、どっかの国の神官だったって近所のばあさんが言ってた。俺は親父の正確な年齢は知らねぇが、本人の話しぶりからして、八百年は生きてる」
「嘘でしょ?」
「それが分かんねぇんだ。俺の親父、めちゃくちゃ適当だし、適当すぎて貧乏なんだが……んだが、お前やルディにまだ出会う前に行った国で、聖女の伝記があって、そこに載ってたんだよな、親父」
「嘘でしょ?!」
「嘘じゃねえよ、姿絵の挿絵までドンピシャだし、その絵、そもそも家に飾ってあったんだ。親父曰く『ヤンチャしてた頃の仲間との記念品です』とかなんとかほざいてたんだが……俺も若かったから気のせいにしたんだ」
「しちゃだめでしょ、そこは!」
胸倉を掴まれがくがくと揺らされるが、若かりし頃のレオは気のせいにしたかったのだからしょうがない。
「ねえ、じゃあ、ルイは異世界から来たってこと?」
「……可能性は否めないだろ? 俺たちの知らない文字に、見たことのない服、それに光る床とか、ポンタだって見たことのない種類の犬だし……」
ロザリーがぐっと押し黙る。胸倉を掴んでいた手が離れていく。
「そうだけど……でも異世界から呼び出しておいて、なんで……」
「それは分かんねえけど、見た目からしてボロボロのガリガリで、ポンタも聖獣っつーには小さいし、そもそも聖者としての能力がなかったんじゃないか? ギルドカードを作るときに鑑定はしてもらったみたいだが、聖魔法のスキルとかもなかったし、ポンタに至っては見ての通りだし」
ロザリーの視線がルイの腕の中、お腹を丸出しにして、舌まで出して寝ているポンタに向けられた。威厳のいの字もない寝姿だ。
「で、でも、三か月か二カ月前には、聖者様と聖獣様は召喚されているのよ? レオがルイと出会ったのなんて、つい最近じゃない。時間が合わないわ」
「そこはなんか不思議な力が働いたとかなんとか……だって、あれだろ? よく分かんねえけど、異世界から呼ばれるんだろ? 不思議の一つ二つくっついてそうじゃねぇか」
「曖昧過ぎるけど、レオの言う通り、そもそもが異世界から呼び出されているなら、私たちの知る魔法理論は適用されないかもしれないし……」
うんうんとロザリーが唸りながら悩みだす。
「……ルイが、異世界の子どもだったら、やっぱり、困るか」
おずおずと問いかけるとロザリーは、頷いた。
「困るわ。……だって」
「だって?」
「だって、異世界人って特別な存在で歴史を振り返れば大概が国に保護されてるでしょ? 万が一、国とかにバレてルイが攫われたら、私、うっかりその国を滅ぼしちゃうかもしれないじゃない。それは困るわ。私、ルイとレオと一緒にいたいし、将来的にはレオとの子どもだって産みたいし、国際指名手配されて国に追われるなんてまっぴらよ」
ロザリーの心配がレオの想像の斜め上どころの話じゃなかったのでレオは返事に困った。
国を滅ぼすなんて馬鹿な、と思うかもしれないが、行動力の化身、ロザリーならやりかねないと十年の付き合いがあるレオは知っているのだ。仲違いして別れてしまったが、ルディだってこの場にいたら、ロザリーならやる、と断言してくれただろう。
「でも、とりあえず、ここまでは仮定の話よね? ルイとポンタが、そうだと決まったわけじゃないわ」
「ああ、そうだな」
「なら、今は深く考えないことにしましょ。とにかくモグラちゃんを倒すのが先決だもの」
「……ルイ、連れて行っていいんだな?」
「もちろん。そもそも貴方がどっかの孤児院やら養護院に置いて行っても、今度は私が私の子として手続きして連れてくつもりだったもの。言ったでしょ? 私が拾ったら私が判断するって」
「初めて聞いたんだが」
「あら、内緒にしておかないと意味ないじゃない」
ふふっとロザリーは悪戯に笑った。
きっとレオは一生、ロザリーには勝てないのだろうと悟る。とはいえロザリーの可愛い尻に敷かれるなら大歓迎だ。アホなことを考えているのがバレたのか、ロザリーに睨まれて咳ばらいを一つして誤魔化す。
「……ルイがな、毎日、聞いてくるんだよ。明日は一緒か?って。俺はその度、明日は一緒だって言うんだ。でも、そうじゃなくて、本当は、ずっと一緒だって言ってやりたいんだって、思うようになって」
「きっと喜ぶわ。でも、そういう大事なことはやっぱりモグラちゃんを倒して、ゆっくり話しましょうよ。急ぐ旅ではないんだし」
「分かった。でも、ルイがあまりに不安がるようなら言ってもいいか」
「ええ。ただし、ちゃんと私も一緒にって伝えてね」
「俺とロザリーと家族になろう?」
「合格」
おいでと手招きされたので近づけば額にキスをしてくれた。レオも彼女の鼻さきにキスを返す。そのまま唇にキスをしようとしたところで、邪魔な声が聞こえて来る。
「おーい、レオー?」
バージの呼ぶ声がテントの外から聞こえて来る。中に入れないようにもしているから、少し戸惑っているのが伝わって来る。
「時間切れだ。またあとでな」
むぅと唇を尖らせたロザリーに一瞬だけの軽いキスをして立ち上がり、行って来る、と告げればロザリーが魔法を解いてくれ、レオは外へと出る。
「ああ、良かった。テントに入れなかったから何事かと……」
バージがほっとした様子で眉を下げた。
「すまん、すまん。ちょっとな。それよりどうした?」
「俺たちは一度、町に帰らなければならないんだが、レオたちはどうする?」
「まだルイが寝てるから、こっちにいるよ。モグラも動く気配はねえし、監視は残すんだろ?」
「ああ。騎士団の手練れとアベルたちが残ってくれる」
「なら、ルイが起きたら一度、町へ戻る。さっさと片をつけてぇから、決戦は今夜だ」
「そうなるだろうと思って準備はしている。町へ戻ったら打ち合わせをしよう」
「了解」
「じゃあ、俺は一度戻るな」
そう言ってバージは踵を返し、順番万端で待っている馬のほうへと歩いて行った。
レオは「気をつけてなぁ」とその背を見送り、空を見上げる。
夜がだんだんと退いて、朝陽が空をロザリーの瞳と同じ紫色に染めている。
「……俺も仮眠するか」
体調は万全にして挑みたい。レオは、近くにいた騎士に「仮眠もらうな」と声をかけてテントの中へと戻るのだった。




