朱い、朱い空
『第三次降下実験、開始』
下半分が真っ黒なモニターを凝視する。
きっと歴史に残る瞬間だ。
見ているからといって、やること、できることはないが、それでも見逃すわけにはいかないだろう。
『投下開始』
モニター上部、白い「隔膜」から探査機が剥がれるように投下され、落ちる。
探査機は下の黒い画面へ吸い込まれるように、いやまさしく、下半分を覆い尽くす、真っ黒な星に吸い込まれて、落ちていく。
『逆噴射、点火』
一瞬、探査機の一部が光り、減速、停止、やがて浮上するが、すぐに下方へ加速する。
『風力上昇』
また落下速度が減速し、今度は加速することなく、いつまでも一定の速度で下方へ降下した。
『境界面接触まで、5、4……』
映像が拡大される。
白い探査機は、それぞれのパーツが見えるほど鮮明に移り、同時に下部の黒い星との位置関係もわかる。
まだ、10秒は接触しないだろうが……あと1分も残ってはいないだろう。
徐々に、徐々に、黒い面へ近づいていく。
『逆噴射の──』
『3』
映像が、探査機が黒く、見えなくなっていく。
まだ見えている部分も景色が歪んで、もう形はわからない。
『──推力切り替え…』
『2』
探査機が、完全に真っ黒に飲まれた。
だが、まだ横から見えなくなっただけだ。
光速でなら、逆噴射で真上へ脱出できる。
『…』
『1』
だが、まだだ。
この実験は、内部への探査が目的。
理論上は実現した超光速で、光すらも脱出不能な領域へ入ってから、光以上の速度で脱出するしかない。
あくまで試験、入るのは一瞬だけで良いが……
『開
『ゼ
一瞬で、視界が切り替わる。
誰かが勝手に映像を変えたのかと思ったが、即座に空気が部屋のものではないと気付いた。
風の匂いがせず、漠然と何か、肉でも魚でも樹木でもない、何かが燃えているような、そんな匂いがした。
次いで、音。
パチパチパチ、バチバチバチと、常にどこからか音がする。
踏みしめる大地は、土の感触。
決して、金属や石畳など、人工の床ではない。
無意識に、唇を舐める。
自分の体は変わらず、しかし砂塵は全く未知のものだ。
見上げる空に七つの太陽はなく、たった一つの血よりエラー画面より何より赤い、真っ赤な太陽が、沈まず登りもしない天頂で、空と共に、真っ赤に焼けていた。
今までいた星々とは、全く違う空。
一瞬あの実験のせいか、と思ったが、黒い穴については、内部はともかく、吸い込まれる範囲は完全に解明されている。
条件は接触。
当然、画面で見ているだけだったのに、あの中に踏み込むはずがない。
つまり、これは全く別の現象。
未知の秘境、という可能性もあるかもしれないが、そもそも装置もない瞬間移動、黒い穴の中でもなければあり得ない焼け空、ついでに地上に見えた、見逃すはずもない文明……と、考えれば……
「ここは、全く別の異世界か」
・超光速
・元の世界では七つの太陽だった
・太陽が一つの世界
・夕焼け・朝焼けでないにも関わらず、空は赤い。
・元の世界では、黒い穴の中でもなければ、赤い空はあり得ない




