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9.統括司令官、笑う



「さて。次はやっぱり肩に手を回す、とかですかねニコラウスお兄様」

「社交ダンスなら、正面から見合って背に手を回すが正しいのでは?我が妹クリスティーナ」


 今日もニコラウス様との悪のりは絶好調に加速している。


「今日は、午後から会議だから手短にな」


 そんな2人の様子をもはや、当たり前のように司令官が見ながら呟いた。


 ついこの前、髪を触る、手に触れる、腕を掴んで隣を歩く、などのノルマをクリアした司令官は、接触回数が増えるにつれて、なんだか会話する回数が増えていた。


「そうですね、少し資料も確認しないといけませんしね」


 今日は真横にくっついて、片手で肩を抱きながら、仕事をするということになった。



 いざ、司令官の真横にぴったりくっついて座り私はやっと気付いた。そういえば、あんまりこの距離感で異性と一緒にいたことってなかったかも、と。


 ついに、私ですら初めての体験ゾーンに突入したことに若干焦りが出始めた。でも、兄達や同期のディルクとレオンとも鍛練中は割りと近いし。


 いや、でも、彼らと司令官の接触意味がまるで違うし。そういえば、私、朝の鍛練後、汗ちゃんと拭いたっけ?すごく汗くさかったらどうしよう。


 そうこうしてるうちに、司令官の腕がふわりと私の肩に触れた。

 刹那、私の肩がビクンと跳ねた。


「······大丈夫か?」


 珍しく司令官が私の心配をした。


「だ、大丈夫でぇす」


 ヘラヘラとごまかしながら笑う私は、明らかに不審だった。


「財務部と軽く打ち合わせて来ます。ギルベルト、任務サボらないようにしてくださいね」

「サボらないよ」


 司令官はふっと笑いながら答え、ニコラウス様がドアを閉めて出ていった。



 私は、司令官の顔をガン見していた。


 あれ、いま笑った?

 笑ったよね?


 王城勤務になってもうすぐ4ヶ月になるが、司令官の笑った顔を私は初めて見たのだ。


「どうした?」


 あまりにもじっと見つめていたら、司令官が聞いてきた。


「いや、笑ったお顔、初めて拝見したなあ、と」

「そうか?」


 また、クスリと司令官は笑った。


 ······うっわ······!


 その破壊力は凄まじかった。本来美形である司令官が見せたその笑顔ったら。

 すっとした鼻梁のしたで、美しい唇が弧を描き、優しげな眼差しでこちらを見たのだ。キラキラとしたブルーグリーンの瞳に金の長い睫毛が影を落とし、長いプラチナブロンドが日に透けて輝いていた。


 この人、こんな美しい人だったんだな。


 そう思うと、これまで対女性への苦手意識だけでずいぶん勿体ないことをしてたんだなと思った。


「あの、アイレンベルク司令官」

「ギルベルト、だよ」

「?」

「名前で呼び合うんだろ?ニコラウスとも名前で呼んでる」


 ニコラウス様の名前を出されて、気付いた。司令官からは私の名前を呼んでもらったのに私は司令官のお名前を呼んでいなかった。


「俺の名前、呼んで」


 またふわりと笑う司令官の顔を見た瞬間、顔の温度が一気に跳ね上がった。



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