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55.魔物討伐 4

 


 空が急に暗くなり、周囲の気温が一気に落ちた。

 体の芯を貫く電流とともに突然、真っ暗な闇の中に落とされたような不安感が襲う。背筋が凍り、カタカタと歯がなる。


 希望を求るように天を仰ぐが、訪れるのは絶望感。この世の終わり、闇の始まり、何処までも続く深い深い暗闇。



 私は、そぉっと目を開けた。この感じ、この空気。私は知ってる。間違いなくギルベルト様の魔力の暴走だ。


 でも、以前の空気感よりだいぶ重い。地を這うようなドロドロとしたオーラ。そこから微かに感じる息遣いは間違いなくギルベルト様のものなのに。

 周囲は全く音がしない。生きている者の気配が薄れる。深淵から、聴こえないはずの声を、私の心臓が拾った。


 心が痛い、イタイ、いたい。

 どうしてこんなに苦しいの。


 返して、カエシテ、かえして。

 慟哭が聞こえる。


 私はゆっくり顔をあげた。隣にいるイザーク様とヘンドリック様を見上げた。二人とも動かない。膝をつき、雪原を見つめて。目は見開いているのに、瞳に光がない。微かに体か震えているのがわかる。


 これはヤバい。

 頑張れ、私。

 負けるな、私。


 ぐんっと体を起こし、剣を杖にして立ち上がる。膝がガクガクしてるけど、ぐっと足に力を入れて踏みしめた。コートに染み込んだ赤黒い血がポタポタと垂れ、水分を吸って重かった。


「これくらい、何てことない!」


 自分を叱咤し、ウンゲテュームの元に走った。


「うぅ~、でっかい」


 間近で見るウンゲテュームは、本当に大きくて私は、恐る恐る剣で、しっぽを突っついた。


「あれ、普通に触れる?」


 さっきは、剣や銃を1メートル手前でバンバン弾いてたのに。それに全く動かない。


 私の野生の勘が、イケル!と親指を立てた。念のため、グローブをしての皮膚を守る。

 私は剣を一度鞘に収め、しっぽからウンゲテュームによじ登った。硬い皮膚はでこぼこで、昇るには楽だけど刃が届くか少し心配になった。

 大丈夫、マッドリザードも割と硬いけど、勢いをつければ私でも切り落とせた。それに、ここには彼らがいる。頭は悪いけど、私達三人が揃えば絶対何とかなるんだ。


 私は皮膚のでこぼこを足場にどんどん登り、頭の上に到着した。


「おぉー、絶景!」


 角に掴まり、周囲を見渡す。


 足元に目をやると、膝をついた大勢の騎士団員がただその場に佇んでいた。


「嘘でしょう······」


 誰一人として、動かない。その異様な雰囲気のなか、私は薄紫の髪をした二人の男に叫んだ。


「ダニエル兄さん!オスカー兄さん!いつまで寝てるのよ!!」


 私の声にゆっくりと顔をあげた二人は、うっすらであるが意識があるように見えた。


「顔を上げて!前を見て!!兄さん達の仕事は何?!」

「ク······クリスティーナ······?」


 ダニエル兄さんが呟いた。


「私一人じゃ出来ないの!いつものやつやるから、手伝ってよ!!」

「ふ······ふふ······あはは、さっすが俺の妹」


 二人の目は完全に光を取り戻していた。


「行けるわね?!バカ兄達!!今ならきっと刃がはいる!」

「任せろ!クリスティーナ!!」


 二人が剣を構える。



 おっと、その前に。

「ギルベルト様~!!ニコラウス様~!!」

 私は腹から特大の声を出した。


「指示出てませんけどー!プレトリウス三兄妹!ウンゲテューム倒しまーす!!」


 私はぶんぶんと手を振った。



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