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4.全戦全敗、阿鼻叫喚のお見合い



「と、いうことでですね」

「はあ」

「貴女にはしばらく統括司令官付になって頂きます」


 ニコニコと優しげに笑う補佐官に、私は気の抜けた返事しか出来なかった。


 目の前には、会話に参加せずそっぽを向いた司令官が頬杖をついていた。


 オーベルマイヤー補佐官曰く、御年25歳を迎えたアイレンベルク司令官であったが、実は7年以上前から令嬢方との見合いをしつつ、婚約者探しをしていたそうだ。


 ご実家は、お祖父様が王弟であり血筋正しき公爵家の第3子であるハイパーサラブレッドのアイレンベルク司令官であったが、男兄弟ばかりの中で育ち、思春期以降は脳筋だらけの騎士団で揉まれ、気がついたらびっくりするぐらい女性が苦手になっていたそうだ。


 しかも、この美貌でこのスペック、妙齢になってからは、沢山の見合い話があったにも関わらず、見合いの席では全く会話にならずに終わってしまうのだそう。むしろこの眼力の強さで逆に泣かせてしまうことがほとんどだった。


 確かに、司令官の言語は理解に苦しむ。


「まあ、先ほどのギルベルトのひっっどい会話を聞いてお分かりになったかと思いますが、女性の前ではあれが常です」

「はあ」

「これでは、いくら見合いをしようが惨敗は目に見えてますよね?」

「ですね」

「だから貴女にはギルベルトがとりあえず女性とコミュニケーションを出来るようになるための訓練をしてほしいんですよ」

「訓練」

「つまりは教官になってください」

「教官」


 依頼内容の表現が軍隊くさい。いや、実際軍部なのだから仕方ないのだか見合い云々の話に軍部ネタを絡ませる辺りが、すでにヤバい気がする。


「あのう」

「なんですか?」


 ニコニコと補佐官が答えてくれた。


「質問をいくつかいいですか?」

「なんでもどうぞ」


 ごちゃついた頭を整理するため、私は質問をした。


「まず婚約者についてですが、統括司令官は失礼ながらこれだけ見目麗しくあられるのですから、その、会話がなくても身体でアタック☆みたいな、強気な女性であれば案外まとまるのではないでしょうか?」


「ふむ。良いところに目をつけましたね。確かにその手のご令嬢も中にはいらっしゃいました。ですが」


 補佐官は静かに首を振った。


「元々女性が苦手なギルベルトに、そんなメンタル強め、ついでに化粧も香水も強めの女性が寄ったらどうなったと思います?」

「あ~······」

「そうです。あれ以来、ギルベルトの女性嫌いは悪化しました。夜会にいってもひたすら眉間に皺を寄せ、鬼のごとく女性を睨み付けるようになりました。特に香水の強めの女性への殺気は魔物を討伐できるレベルです」

「ははは······そうですか」

「あの······でも公爵家からの縁談なんて、女性側は普通断れないんじゃないんですか?権力使っても縁談の成立が出来なかったのでしょうか」

「ごもっともなご意見ですが」


 補佐官は悲しい顔をした。


「見合い会場は、公爵様が立ち会った初回から悲鳴と涙の嵐だったんです」

「討伐場所だったんですか?」

「魔物討伐のほうがまだ可愛いくらいの阿鼻叫喚です」

「··········」

「怖すぎて失語症になる方もいましたけどね」

「······そうですか」

「さすがにそんな状態の女性たちと輝かしい未来は語れませんから、女性が泣いた時点で基本的に公爵様のほうから断りをいれてます」


「······なるほど。あの、あとひとつだけ質問いいですか」

「どうぞ」

「教官になぜ私を抜擢したのですか?もっと優秀な女性団員もいたと思いますが」

「それはですね」


「ギルベルトの年齢前後5才の令嬢とはあらかた見合いが終了しているんです。今後の見合いとなれば、20才以下の令嬢がメインターゲットになります。ですから、教官も同じくらいの年齢層でなければ意味がありません。」

「なるほど」

「それに、貴女、香水つけてないでしょ?」

「香水どころか、化粧すらしてません。日焼け止めだけです。」

「だから、貴女に決めたんです」


 柔らかく笑う補佐官の横で、司令官が口を尖らせて少し頬を赤らめているのが見えた。


 こうして私は我が国の統括司令官の女性嫌いを治すべく、次の日から王城勤務をすることになった。



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