26.悪魔降臨
一瞬雷が落ちてきたような感覚に囚われた。
すぐに身体中の肌という肌にぶわっと鳥肌が広がる。暖かかったはずの空気が冷え、カタカタと歯がなる。気のせいか、あんなに晴れてた空に灰色の雲が広がりつつある。
そして、ギルベルト様を見た一人の令嬢が叫んだ。
「きゃあああああ!!!」
風がだんだん強くなるなか、プラチナブロンドの髪の下から現れたのは、悪魔だった。
どす黒いオーラを放ち、髪が逆立っているようにすら見える。
かつて私と初めてお会いしたときのギルベルト様の比ではない。マジで悪魔降臨、化け物登場感ハンパない。
「いやあああ!」
「うわあぁぁん!!」
女性達が泣き出した。マズイ。
いまここで動けるのは私だけだ!!
私は全速力で、ギルベルト様の元へ走る。真っ黒な闇のオーラを纏いし我が上司の肩をガッと掴んで大声で叫んだ。
「ギルベルト様!!」
重苦しい空気の中、鋭い眼光が私を捕らえた。その瞬間、ブルーグリーンの瞳に意志が戻ったのを見た。
「······クリス······ティー······」
「······大丈夫ですよ」
私はニコッと微笑んだ。
すぐに私は振り向き、令嬢方に向き直る。そして最大級のキラキラ演技モードのスイッチを入れた。
「やあ!可愛いお嬢さん達。そんなに大きな声を出したら、貴女達の美しい声が傷ついてしまうよ?」
女性達は、呆気にとられて私を見ている。
「ふふ、可愛らしい小鳥さんたちだね」
私は一番手前にいる令嬢の顎をくいっと上向きにし、吐息がかかるかかからないくらいの近さで甘く低めの声を出す。
「そんな顔をしないで。せっかく君と出逢えたに涙に濡れた君を見るなんて耐えられないよ。」
顎を捕まれた女性の頬がうっすら染まった。
「さあ、笑って、可愛い人。美味しいタルトなら僕と食べよう。ね?」
目にキラキラとした輝きを持った女性は、こくんと頷いた。
まだまだだ。次の獲物を捕らえる。
「ほら、君も、そんなところに座ったらせっかくのドレスが汚れてしまう」
尻もちをついてしまった令嬢に手を差し出す。
「お手を拝借しますよお嬢さん。君の領地のフルーツはさぞかし美味しんだろうね?」
「あ····あ····はい······」
女性が私の手をとり潤んだ瞳で見上げた。
「そうだろうね。だって君自信が甘くて蕩けそうだもの」
女性は「まあ」と言って、赤くなった顔を両の手で包んだ。
さて、残りの令嬢方は既に逃げたか。いや、あんなところにターゲット発見。
「そんなに震えないで、優しい人。怖い思いをさせてしまったね」
震えて立てない女性は、泣きながら私を見上げる。
「君を馬車までお連れする権利を僕にください。それと、貴女の美しい身体に触れてしまうけど、構わないかい?」
女性は笑んでこくんと頷いた。私は彼女をお姫様抱っこして立ち上がる。
「さあ、行こうか。せっかくだから、王都の美味しいカフェ、教えてくれるかな?どんなケーキがあるのかな?君より美味しそうなケーキなんて、見当たらないだろうけどね」
持ち前の体力で、颯爽と女性を馬車まで連れていく私を、2人の上司が無表情で見つめていたことを私は知らなかった。




