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25.ガーデンパーティー


 

 翌日、私はガーデンパーティに参加すべく準備を整えた。今日はオーベルマイヤー伯爵家ではなく、我が家で支度をすると事前にフィーネ様に伝えてあったため、エスコートのみニコラウス様がすることになっている。


 伯爵家の馬車で迎えに来てくれたニコラウス様は私を見るなり「は?」と呟いた。




「これはどういうことですか、クリスティーナ」

「夜会以外の服装は指定頂いておりませんので」

「男装するとは聞いていません」

「オスカーとお呼びください☆ニコラウス先輩」


 私は今日、軽薄な女好き下級貴族オスカーとして扮装し、ニコラウス様と馬車で見つめあっていた。


「問題ありません。元ネタは私の次兄です。軽薄なバカで私とまあまあ顔と髪型が似てます。世間的に話題に上がっても兄のせいにすれば万事解決です」

 そう、オスカーとは我が実兄の本名だ。


「軽薄なバ······君は自分の兄が可哀想とは思わないのか?」


「私だってニコラウス様みたいなお兄様であれば妹として慕います。しかしながら、ニコラウス様は兄を見てないからそんなことが言えるのです。会場に着いたら私は兄になりきります。その姿を見て兄の人間性をご判断ください」


 妹の演技を見て判断される兄に憐憫の情をかけるニコラウス様と共に、私は公爵邸へと向かった。




 公爵邸では色とりどりの花が咲き誇り、青い空と白いテーブルクロスが映え、沢山の可愛らしいお菓子がどのテーブルにも配置されていた。

 さすが公爵邸の庭師と家人、木々の配置から、花の手入れ、テーブルセッティングまで抜かりない。


 そんな中、可愛らしいドレスに身を包んだの女性達に囲まれたギルベルト様を木陰のテーブルで見つけた。


「あ、ギルベルト様いましたよ!」


 私とニコラウス様はすかさず実況見分に入る。

 だがどうも様子がおかしい。

 昨日は不機嫌そうではあったが女性達に睨みを効かせることはなかったのに、どうも今日は不穏な空気を纏っている。


「なんだか様子がおかしいですね」

「ああ、俺が様子見てくる」


 ニコラウス様は、ギルベルト様のほうへ向かい、私はハラハラしながらその様子を見つめていた。


 ニコラウス様が輪に加わると、今度はニコラウス様のほうにも詰め寄る女性達。焦るように、何かを話すニコラウス様。

 会話が聞こえないので、私は低木に隠れながら声が聞こえる範囲内に移動する。

 何を喋っているか私は耳をすませた。




「本当に素敵ですね!我が家にも是非お越しくださいまし、ギルベルト様。絶品のタルトをご用意いたしますわ」


「あらあら、貴女のお宅はタルトの生地すら買えないんじゃなくって?ギルベルト様、我が家の領地には広大なフルーツ畑がございますの。是非ご賞味頂きたいですわ」


「貴女は畑でも耕してらっしゃい。ギルベルト様あ、是非私と王都のカフェにご一緒致しませんこと?本当に美味しそうなケーキが豊富にありますの」



 おおぅ。これは········

 女同士のバトルが勃発していた。

 みんなギルベルト様の感心を引こうと躍起になっている。

 そういえば今日のガーデンパーティは子爵以下の下位貴族と豪商の娘達が対象だっけ。

 みんな上位貴族のギルベルト様に取り入ろうと躍起になっている。昨日の比ではない。

 しかもよりにもよって甘いもの嫌いなギルベルト様に甘いものの話題を振るなんて。


 女性達が喧々諤々騒いでいると、ギルベルト様の目から一瞬光が消え、不穏な空気が強くなる。


 まずい、と思ったその瞬間、会場中に殺意が満ち、ギルベルト様の眼光が鋭く光った。


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