1.プロローグ
さらりと流れるプラチナブロンドの長い髪が、私の肩に落ちる。
「ずっと一緒にいるって言ったよね?」
「あー······えっと、まあ、仕事という意味で······」
「言ったよね?!」
長い睫毛が影をつくり、その下で海のようなブルーグリーンの瞳が揺れていた。こんなにも美しい人なのに。
誰にも触れることを許さなかったこの軍人の心に、存在を留めてしまったのが、どうして自分だったのか。
張り付けられたように壁に右手を縫いとられ、視線を外そうにも至近距離まで顔を寄せられ、私は動けなくなった。
本当に、どうしたらいいんだろう。
私、クリスティーナ・プレトリウスが騎士団統括司令官執務室に呼ばれたのは、王都東部事務所に勤めて3年が経過する頃だった。
大戦により功績をあげたひいじい様が、国王様から与えられた男爵の称号も、そもそも武官の家系で脳筋の一族にはあまり意味もなく、朝から晩まで剣を持って走り回るこの家族には全くもって不要な肩書だった。
元々男系の血が濃い我が一族で、久しぶりに誕生した女が私で、令嬢としてどう育てていくか悩んだ父と母であったが、「ま、なんとかなるか」とすぐにその悩みを放棄し、兄達と同じ剣を振り回す子供の群れに投下した。
一応、女の子なんだからと心配した元子爵令嬢のおばあ様が、家庭教師やらをよんで淑女教育なるものを行ってくれたが、私は兄達と走り回っているほうが断然嬉しかった。
「クリスティーナ、お願いだから、せめて日焼け止めだけでもして」とメイドとおばあ様に懇願され、「お前は女の子なんだから、いつかおうちを出て男性の元に嫁がなきゃいけないんだよ」と泣かれ、致し方なしに一般教育として最低限を修めること、化粧はしなくてもいいから日焼け止めだけは塗ることを条件に兄達の稽古の輪にはいることを許された。
そして一般教育を修了した15の春、私は高らかに宣言したのだ。
「私、騎士団に入るわ!」
そろいもそろって、あんぐりと口を開けてバカみたいな顔してる。
まったく、恥ずかしい家族だなと私は思った。