031 かぜクラス改装工事
【B-32宙域 救難艦運用研究所訓練宙域 管制ステーション】
先の戦闘から1ヶ月、王国軍は順調に戦力増強を続けていた。 三神領の企業にも各種製造依頼が来ており、大規模な増産体制を取っていたが、実は王軍の依頼で製造しているのは極一部で、殆どの機材物資をこの訓練宙域にある三神の秘密基地に運び込んでいた。
この秘密基地は、表向き自動化整備補給基地となっており、開発運用のテストケースとして王宮の認可を受けた事業である事から、業者の出入りや物資を搭載した輸送船の出入りがあっても怪しまれない。
その日は、普段見かける事が少ない大型の輸送船が4隻も纏まってやってきた。
管制ステーションの管制室から眺めていたロアは、「これだけ大きい宇宙船が4隻も並んでくると凄い迫力だな・・・ 早速行くか。」 シャトルに乗るため、格納庫に向かった。
【同上訓練宙域 自動化整備補給基地 三神秘密ドック】
そこには、輸送船から降ろされた戦艦が4隻並んでいた。
15年前に三神海軍を退役した『あまつかぜ』、『あさかぜ』、『たちかぜ』、『さわかぜ』が、宇宙戦艦として蘇ったのだ。
ロアは早速、唯一有人宇宙戦艦に改装されている『あまつかぜ』に乗り込んで、艦橋に向かった。
「音声インターフェイス起動。 ・・・私が認識できるか?」
「はいロア様、幾分成長なされていますが識別可能範囲です。」
「そうか・・・ 又話せて嬉しいよ。 今後、この艦は私の乗艦になる。 よろしく頼む。」(12年前、かぜクラス6隻が退役した時、2番艦から6番艦の5隻は直ぐにモスボール化され保管状態になったが、1番艦の『あまつかぜ』だけは、訓練シュミレーションので敵艦隊役をする為、5年ほど岸壁に横付けし、陸上電源で艦橋やCICといったコア部のみ作動していた。 子供の頃のロアにとって、『あまつかぜ』は秘密の遊び場であり、話相手であった。)
ドックハウスの会議室に移ったロアは、集まっている三神関連企業の担当者と艤装について話し合っていた。
「さて、あの4隻は宇宙船として最小限の改装を終えているが、今後の艤装工事について意見が欲しい。 私の考えた計画書には、既に目を通していると思うが、問題点はないだろうか?」
参加者の一人が、「正直、最初は驚きましたが、今は早く造ってみたくてたまりません。 素晴らしい計画です。」
「そ、そうか・・・ 他に意見は・・・ 無しか。 では、『あまつかぜ』と『あさかぜ』に敵狙撃艦を 『たちかぜ』、『さわかぜ』には敵戦艦を使用して作業を開始して下さい。」
ーーー かぜクラス改装工事案 ーーー
各艦の艦底部に敵狙撃艦又は戦艦を上下逆さにして接合、更に左右には重巡クラスを接続する。 追加接続する艦については、コアを搭載せず、接続元の艦のコアで有線コントロールを行う。 一見すると質量が増加して加速力が低下しそうに見えるが、追加接続する敵艦の推進器は、三神の合弁会社が開発した新型の高性能タイプに換装される為、高加速力を維持している。
鹵獲した敵狙撃艦が3隻あるのに、2隻しか改装に使わないのは、1隻は調査分析の為、分解しているからである。
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【コスカ海軍基地 合同司令部 長官執務室】
宇宙から戻ったロアは、幕僚長を部屋に呼び出していた。
「若様、改装戦艦はいかがでしたかな。」
「うむ。 あれは良いな。 モスボール状態のかぜクラスの残り2隻も改装に回してくれ。 有人、無人1隻ずつ頼む。」
「気に入ったようですな・・・ 分かりました。 手配しておきます。」
「ああ、それと・・・ かぜクラスを退役させた時に使用停止にしていた識別信号を復活させといてくれ。」
幕僚長が少し考えてから「若様、識別信号を復活させるのはいいですが、あれは海軍の水上艦艇の物です。 宇宙戦艦になった今となっては・・・」
ロアは、「 ・・・私は最初、改装した戦艦を秘密裏に運用するつもりでいた。 が、これが中々難しい。 下手に海賊船に間違われても困るしな。
そこで、海軍の艦隊を増やすことにした。 これなら海軍長官である私の権限で可能だからな。 取り敢えず、かぜクラス6隻は、第1特務艦隊、第101戦隊として編成する。
別に、海軍の艦隊が宇宙に行く事を禁止する規則も無いしな。 やったもん勝ちだ。」
「 ・・・若様・・・ 」 呆れた目をした幕僚長が、頭を振りながら部屋を出て行くのだった。