010 小型救難艦の設計完了
本日、ここまでになります。
宜しくお願いします。
【救難艦運用研究所 会議室】
「皆さん、前回の会議から10日、小型救難艦の基本設計が完了しました。 又、宇宙技術開発局のコンピューターシミュレーションによるテストの結果、問題なしとの回答を得ました。 そこで本日、所長の許可を得て『ななつ星重工』に試作艦の建造を依頼しました。」 鼻息も荒くドン開発課長が報告する。
ロアは、10日で新型艦の設計が出来たと聞いて、元の世界なら年単位の時間が掛かるだろうなと思い感心していた。
「今回の試作艦については、各種ブロックを搭載するモジュール艦となります。 運動能力試験などに使う必要最低限のブロックは新造しますが、居住ブロックや貨物ブロック等は民生品をそのまま流用しますので、1月以内に就役が可能との事です。」
さらに1月以内に建造が終わると聞いて感心を通り越して呆れていた。
ドン開発課長の話が終わり、今度は所長のアリスティア王女が口を開いた。
「皆さん、救難艦の設計お疲れ様でした。 国王より、試作艦の運用試験と並行して先行量産型の建造を始めるよう指示がありました。 必要経費は王宮の予備費から支出するとの事です。 ・・・しかし、何処で作ったら良いのか・・・」
「先行量産なんてたいした数ではないのですから、そのまま『ななつ星重工』に依頼すれば良いのでは?」会議の参加者から声が上がる。
「『ななつ星重工』からは、それだけ多いと建造ドックの空きが足りないので無理ですと断られてしまいました。」
「えっ・・・」 驚いたロアが思わずといった感じに聞いてしまう。 「普通なら、先行量産なんて10隻も作ればいい方だと思うのですが・・・ 国王陛下は何隻作れと?」
「2000隻です。」所長の言葉に会議室がざわつく。
「無理だろ・・・」思わず出てしまったであろう誰かの声が聞こえてくる。
「陛下が2000隻作れと言われるなら、それを成し遂げるのが臣下の努め、何とかしなければなりませんね・・・」 ロアはそう答え、考えを口にする。
「ブロック構造の宇宙船ですからね・・・ 建造ドックでの作業は、ブロックの組み立て、各機器の調整と検査・・・ 建造ドックが塞がっているから生産量を調整しているだけで、各ブロックの生産工場には余力があるはず・・・」
一旦、口を閉じて周りを見渡す。
「各企業には、ブロックの製造だけをお願いしましょう。 組立作業は、ここで行います。」
「「!?」」周りの人達が驚き騒めく。
「この研究所には、王国海軍基地だった頃の船舶用の修理ドックがあります。 宇宙船と海洋船舶の違いはありますが、大型クレーン等の組み立てに必要な設備は揃っています。 調整・検査機器も流用出来るでしょう。 流用出来ない分は借りるか、新たに調達すればいいでしょう。 これなら建造ドックを新たに作るより遥かに安く、早く用意出来ます。」
周りの騒めきが大きくなる中、ロアが更に意見を述べる。
「コスカの街には数多くの造船所があります。 宇宙船用ではありませんが、此方からの技術供与を行えば大量生産が可能と思われます。」 まあ普通なら、利権問題が絡んで実現不可能だろうけどな、幸いこの街の代官は私だし、依頼主は国王陛下だからゴリ押しで行けるだろ。 少し悪いことを考えているロアだった。
【同研究所 所長執務室】
お昼時となり会議が一時中断されると、ロアは所長から食事に誘われ、食後の緑茶を頂いていると
「大分調子が戻ったようですね。 ロア様」アリスティア王女が話しかけてくる。
「そうですね。 業務の引継ぎや義肢の再調整も終わり、やっと落ち着いてきた感じです・・・ しかし、体調不良については気が付かれないようにしていたつもりだったのですが・・・」 良く気が付きましたね。 とアリスティア王女に言うと、全然隠せていませんでしたよと笑われてしまう。
「今までは、気を遣ってそっとしておりましたが、これからはいっぱい働いて貰いますね。」
・・・不味いな、このままだと仕事が増えそうだ。 少し話を逸らすか・・・
「しかし、他人への気遣いが出来る様になるとは・・・ 殿下も成長しましたね。」 しみじみと言うと、「私を子供扱いしないで下さいね ホホホ」と全く目の笑っていない笑みを返される。
不味いと感じ取り、「会議の準備がありますので、退室させて頂きます。」 ロアは、慌てて執務室から逃げ出した。
【海運都市コスカ 三神公爵領海軍居住区 海軍長官用官舎】
疲れたな・・・ 今日の出来事を思い返しながらロアが眠りにつく。
午後からの会議は酷かったな・・・ 旧王国海軍の修理ドック関係は、ドン中佐に任せる事ができたものの、各企業への船体ブロックの発注や業務調整、コスカの各民間造船所への説明と業務協力依頼などが、全部私の担当になるとは・・・ こうも忙しいと前世の知識を活かした改革なんて、やっている暇が無いな・・・