3 まずはグレアム様に塩対応でいきます
教室までついグレアム様にエスコートされてしまったが、私はこの人と婚約破棄したいのだ。これはいけない。
教室に着いたところですっと手を離すと、グレアム様がいぶかしそうな顔をした。え? 何か問題でも?
座席は自由に座っていいらしい。顔馴染みの令嬢たちを見つけたので、送ってもらったお礼を言ってそちらに合流しようとした。
「あ、ま、待ってくれニア。これ、よければ休憩時間にでも……」
「まぁ、クッキーですか。グレアム様のお宅のお菓子は本当に美味しいですよね。お友達といただ……」
「一人で! 一人で食べてくれ」
綺麗な袋に入ったクッキーは10枚はある。友達と2枚ずつ食べても充分な量だが、一人で食べろと?
私を太らせるつもりだろうか。そういえば、昔からグレアム様はこうして私にお菓子を渡しては2人で食べていたような気がする。むしろ、私が食べているのを見て、グレアム様は満足気にしていたような。
「でしたら、家に帰ってからいただきます。学友の前で一人だけいただくわけにはいきませんもの。ありがとうございます、では」
「ニア? まさか、ランチは……」
「? お友達と食べますけど?」
「そ、そうか……分かった、また帰りに……」
「いえ、帰りも別に。門に馬車が来ますからお気遣いなく。よい1日を」
なんでこの世の終わりのような顔をして見送られたのか分からない。将来浮気するのにな……、それに、クッキー。
友達と分けちゃダメ? なんで? ちょっとこれ、前は自然にグレアム様と行動してグレアム様の目の前で私一人で食べていたけど、怪しいのでは?
私は今、気持ちが冷めている。それを差し引いたとしても、婚約者であるグレアム様はまだ浮気をしていない。
むしろ私に対して熱烈なくらいだ。豹変するのが分かっているから何とも思わないけど。むしろしつこい。なんだあの男、ちゃんと友達付き合いもしろ。侯爵子息。
物騒な考えは頭の中だけで、私はにこやかに「ごきげんよう」と令嬢たちの輪に入っていった。
その後、楽しくやっていた私のところにランチの時も諦めずに声をかけにくるので丁重にお断りし、帰りも門まで送るというのを丁重にお断りし、丁重に塩対応でその日を終えた。身分差が無ければもっと塩対応なんだけど、どうしてもそこは無視できない。
グレアム様にはなんとしてもアリアナ嬢と出会って浮気してもらわなければ。その為には今からグレアム様に隙を作っておくしか無い。私有責の婚約破棄は、やっぱり嫌。アリアナ嬢がグレアム様を落として私に、ざまぁみろ、って顔をされた時に、どうぞ、と笑ってやりたいのだ。
思えば他人主軸な考え方をしていたな、と思う。グレアム様が、アリアナ嬢が、と。
私は私の考えと行動で動かなきゃ。
グレアム様は差し上げます、アリアナ嬢。浮気されるのが分かっていて婚約者と仲良くする気はありませんから。
だから早くざまぁしてくれないかな。なんで1年生からなんだろう、3年もあるのに。