18 ムーア様の恩返し〜守護の御守り
はて、贈り物をされるようなことはあったかな? と首を傾げていると、ムーア様のポケットから出てきたのは……お守り?
小さな花の模様が細かく入った装飾のタリスマン。これもまた首から下げて服の下にしまっておけそうな形です。
「本日のように、我々ではカバーできない部分がある事がよく分かりました。私の祈りがこめられているお守りです。少しお待たせしましたが、加護は目一杯こもっています。気休め程度かもしれませんが、お持ちください」
「まぁ、ありがとうございます。ムーア様のタリスマンならきっと私を守ってくれますわ」
「そうだと嬉しいです、君は不思議な人だ。我々は互いを知ってはいましたが、まさか惚れ薬などというものがあって……それで奇しくも集まった私たちと、ヴィンセント嬢が……全てが偶然とは思えません。神の導きのもとにあるように思います」
お祖父様の導きで未来から巻き戻ってやり直してます、とはとても言えない。
ここまでなりふり構わずアリアナ嬢に害されているのに、私が無事+人目がある所では謝ってくるのコンボで周囲の人も決定的には詰められない。
あ、と思い出して私はミュカ様にいただいた瓶に詰めた薬剤を取り出した。
「今日、お手洗いに閉じ込められた時に頭から被せられた薬です。人の皮膚が爛れる薬だそうですので……」
直には触らないように、と言う前にバズ殿下が苦々しい顔でハンカチを使って瓶を取り上げていった。
ムーア様にルークス様まで苦い顔をしている。一体どうしたのだろう、私は直に触ってませんよ。
「閉じ込められた話は聞いたが……これは初耳だぞ」
「ミュカ殿も知っていたなら早く教えてくれ。私たちの対応も変えていかなければならない」
バズ殿下とルークス様のお言葉にミュカ様が申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「すまない、ニア様は強力な力で守られているからとすっかり失念していた……」
何やら彼らの間でさらなる作戦会議が始まりそうだ。私はグレアム様を起こしに行きたいので、空気を読まずに、あの、と切り出した。
「グレアム様を起こしに行きたいのですが……」
「なら私がついていく。物理的な攻撃を加えられた時ならば私が一番反応できる」
ルークス様が進み出てくれた。一人行動はさっきの今ではちょっと怖い。だから喜んでお願いする。
「……私たちもついていきませんか?」
「そうだね、ニア嬢を守るのが今は先決だ」
「話し合うよりも行動する方がいいでしょうね」
と、結局皆さんと一緒に向かうことに……、美形がぞろぞろとついてくる中保健室に向かいましたが、放課後なだけあってあまり人目につかなくてよかった。
具合が悪い人のところに大人数で押し掛けるものでもないので、保健室前で待っていてもらうことにして、私は中に入ろうとした。
「何で無事なのよぉぉお!」
突然の叫び声にビックリして扉を開ける手が止まり、私の動きも思考も止まってしまう。
叫びながらナイフを持って私に突進してきたのは、アリアナ嬢だった。