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【Web版】極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~【漫画3巻発売中!】  作者: シクラメン
第3章

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第3-27話 魔法使い

「楽しかったね、合宿」

「そだな」


 ツインのベッドに横になってイグニとユーリは喋る。

 寝る前の習慣は、合宿に来たとて変わらないのだ。


「明日にはもう帰るんだね」

「それで、また学校だ」

「ヴァリア先輩、泳ぎが上手だったね」

「水着を着たくなかっただけなんだろうな」


 おっぱいいっぱいの海水浴も終わり。

 明日にはロルモッド魔術学校に帰還である。


「イグニも泳ぐの上手だったね」

「頑張ったからな」

「おじいさんとの特訓?」

「そう」

「そっかぁ。イグニのおじいさんは厳しい人なんだね」

「厳しいっていうか……。まあ、厳しいところもあったって感じかな」

「うん。それは、何となく分かる。イグニを見てたら」

「そうか?」


 ちょっとだけ喜ぶイグニ。


「おじいさんは優しい人なんだろうなってのはね」


 ガリガリ、と廊下の方から音が聞こえてきた。


「優しい……。うーん、優しいか……?」


 それにはちょっと懐疑的になるイグニ。


「優しいんじゃないの? だって、イグニの面倒を2年間も見てくれたんでしょ?」

「まあ、そう言われればそうなんだが……」


 ガリガリと、再び何かを掻くような音が部屋の中に届く。


「ネズミかな?」

「こんな場所に?」

「いるんじゃない? このあたりにモンスターがいないなら、もっと動物で溢れてそうだけど」

「そうなの?」

「ボクも分かんない」


 イグニとユーリが互いに視線を合わせた瞬間、ドン! と扉が叩かれた。


「……イグニ」

「サラ?」


 それは、サラの声だった。


「……腕輪が、おかしいの」

「腕輪が?」


 サラの腕輪は一昨日新調したばかりの新品だ。そんなにすぐに壊れたとは思えない。

 アリシアだって水で壊れるようなものじゃないと言っていたし。


「ちょい待ってろ。扉を開けるから」

「うん」


 イグニはベッドから降りて扉を開くと、呼吸をするのも難しいほどの魔力が流れ込んできた。


「……ッ! ユーリ! 窓開けてくれ!」

「う、うん!」


 ユーリは呼吸を止めながら、窓を開く。

 イグニはサラを抱きかかえて、窓から飛び降りた。


「サラ、腕輪がこうなったのはいつからだ!?」

「……分かんない。眠ってて、目が覚めたら……こんなことになってたの」

「ミル会長と、ミコちゃん先輩は……?」

「……眠ってた」

「ユーリ。生徒会メンバーの状況を確認してきてくれ! 酸欠で倒れてる可能性がある!」

「分かった!」


 サラからあふれ出している魔力は汚染を伴っていない通常の魔力。おそらく、腕輪の効果で浄化されているのだろう。今のままなら大丈夫だが、腕輪が壊れるとここら一帯が『魔王領』になってしまう可能性がある。


 イグニはサラの頭を優しくなでた。


「サラ、5分待てる? すぐに戻ってくるから」

「う、うん」


 イグニは『装焔機動アクセル・ブート』で空に浮かび上がると、ユーリが開けた窓から中に入ると、得意の早着替えで寝間着からロルモッド魔術学校の制服に着替えた。


 腕輪に関してはアリシアを頼るのが早い。

 そのアリシアに寝間着で会いに行くわけにも行かないので着替えたというわけだ。


 イグニは着替え終わるや否や、占い部が夜間に使っているミーティング室を訪れた。

 2回ノックをするが、誰も反応しない。


「……開けます」


 イグニが1言詫びを入れて扉を開けると、そこからも行き場を無くした莫大な魔力があふれ出た。


「……ッ!?」


 中で倒れているのは『占い部』の部員たち。端の方で呼吸困難に耐えかねる様に壁を削っている跡もあった。


 イグニたちの部屋に聞こえて来た音はここからである。


「アリシア! イリス!!」


 イグニは部屋の中の窓を片っ端から開けて回りながら、友人の姿を探した。

 アリシアはその大きな帽子が目立つのですぐに見つけられた。


 とっさに手首に手をまわして脈を確認しつつ、口元に耳を近づけて呼吸しているかのチェック。


「……良かった。生きてる」


 イグニは2人の生存を確認すると、アリシアの身体をゆすった。


「アリシア。起きれるか?」


 イグニはアリシアに尋ねたが、彼女は「……ん」と返事をするだけで目覚める気配がない。


「……っ。いったん、サラのところに戻らないと」


 イグニはそう呟いて、開けた窓からサラの位置を確認すると、サラの腕輪から黒いもやが溢れだして形を成していく途中だった。


 サラは何が起こっているのか分からず、ただ震えるようにそれを見ているだけ。


「サラッ!」


 イグニは窓枠を蹴って跳躍。

 だが、イグニがサラに近づくよりも先に黒いもやが人型と化した。


「よォ。久しぶりだな」

「アビスッ!」


 アビスはそのまま、サラの身体を掴むと海に向かって飛ぶ。

 それをイグニは『装焔機動アクセル・ブート』で追いかけた。


「サラ……で、良いんだっけか」


 サラを掴んだまま、空を飛ぶアビス。


「離して……!!」

「騒ぐな。あいつを殺すぞ」


 嫌がるサラに対して、アビスはイグニを殺すと脅しをかけて黙らせる。


「なァ、サラ。人間に紛れて送る生活は楽しかったか?」

「…………」


 アビスが言い出したことに理解が及ばず、黙りこくるサラ。


「気が付いてンだろ。自分が周りとは違うってこと」

「……同じ人は、いない」

「そういう話がしてェわけじゃねえ。いい加減に()()()。お前は、普通に暮らせない」

「……暮らせるもん」

「暮らせねえよ。これが、現実だ」


 そういってアビスは、サラの腕輪を手で握りつぶした。

 ミシリ、と音を立てて腕輪が粉々になって砕け散った。


 次の瞬間、莫大な魔力がサラの身体からあふれ出し世界を汚染していく。


「アビスッ! お前ッ!!」


 爆発的な速度で肉薄するイグニは、サラへの誤射を恐れて魔術を使わない。

 いや、アビスは最初からそれを狙っている。


 大気が変質し、海が汚泥の色に変わっていく。

 大地が大地を犯し、全てが人の住めない領域に変化していく。


「これが、お前だ。サラ」


 アビスは空中で静止すると、眼下に広がる世界をサラに見せつけた。


「見ろよ。あれだけ綺麗だった世界を、()()()()()()()だけで全部壊すのが、お前だ」

「……ちがう…………」


 汚染されていく世界を見ながら、サラは震える声で小さく呟いた。


「認めろ。これが現実だ」


 世界の全てが書き換えられていく中、アビスは1つの奇跡まほうを使った。


「お前がいるせいで、人類はまともに暮らせない。お前の腕についてた魔導具は、それを誤魔化すものでしかねェ」

「……ちがう、もん」


 魚が高濃度の魔力に耐え切れず、海中で死んで白い腹を見せて浮かび上がってくる。


 1つ、1つと浮かび上がる。


「なァ、もう気が付いてんだろ。()()()()()


 サラの喉から「ひゅぅ」と、かすれたような呼気が漏れた。


「……イグニ」

「アビス! その娘を離せッ!」


 サラがイグニを頼るように視線を向ける。


「返せってか? 『魔王の娘』を?」


 『魔王』という言葉がサラの脳内に反響した瞬間、彼女の身体が酷く震え始めた。


「違う……。パパは……パパは、螳医m縺?→縺励◆縺?縺」


 サラの独白が海の音に混ざっていく。


「ふぅん? それが、これか」


 アビスが壊れていく世界を見せる。


「……うぅ」


 サラの身体が激しく震えだして、自分自身を守るように抱きしめた。


「この惨状を見れば分かンだろ。お前は、人類の敵なんだよ。サラ」

「アビス! お前は……お前は、どこまで腐ってるッ!」


 イグニの咆哮。

 だが、アビスの顔には笑みが張り付いたまま。


縺斐薙縺輔(ごめんなさい)……」


 誰に聞かせるわけでもない謝罪が、サラの喉からこぼれる。

 それに反応するように、さらにサラの身体から魔力が溢れた。


逕溘繧後縺阪(生まれてきて)……縺斐薙縺輔(ごめんなさい)……」

「それで良いンだよ。サラ」


 アビスの身体から紡がれる精緻せいちな術式が海に穴をあけていく。


「お前ッ!」


 イグニが飛び出す。


「ヒャハハッ! 俺を止めたいなら来いよッ! ロルモッドの!!」


 そして、アビスは海にあいた漆黒の穴へと身体を任せた。

 

 イグニはそれを知っている。

 次元に穴を開け異世界へとつながる魔法きせき。『渡りの奇跡』だ。


 イグニは自分の身体を支えている『ファイアボール』を全部消して、穴へと飛び込む。


 眼下にはサラを掴んだままのアビス。

 サラは自分を守るかのように丸まったきり、何も応えない。ただ溢れる涙がサラから離れて、宙に煌めく。


 対するイグニの中にあるのは怒りである。


 アビスに対する怒り。

 執拗にサラを狙うアビスに対する怒り。

 サラを傷つけるような言葉を吐くアビスに対する怒り。


 そして、自分自身への怒り。

 たった1人の女の子を守り切れない自分自身への怒りである。


「サラ。聞いてくれ」


 落ちながらイグニはサラに語り掛ける。


「確かにサラの魔力は凄い」

「そう。だから、普通には暮らせない」

「違うッ!」


 イグニは短く吐き出す。

 サラの涙にあふれた瞳がイグニを見た。


「俺はサラがいたから、魔術を極めることができた!」

「極めた? お前が魔術を??」


 闇の中へと落ちながら、アビスが初めて顔に疑問を浮かべた。


「そうだッ! 良く聞け、アビスッ!!」


 次の瞬間、アビスの身体が闇の底へと足を付けた。

 遅れてイグニも着地する。


「俺は使()だ」


 アビスの眼が驚愕に染まる。


 イグニの魔法は不完全だ。

 他の“極点”と同じように、単体で完結していない。


 己の中にある全ての魔力を魔法として昇華するために、魔法を使った後に待っているのは『魔力切れ』。眩暈と吐き気により立っていることはおろか、意識を保っていることすらも難しい状況に陥る。


 だが、それは全て『()()である。


 そう、側にサラがいるのであれば。


「『装焔イグニッション完全燃焼フルバースト』ッ!」


 イグニは己の体内にある全ての魔力を熾して、1つの火球ファイアボールを作り出す。


 それは、イグニの世界うちゅう

 彼だけの『小宇宙ファイアボール』。


 故に、彼の魔法は『創造の魔法(ビッグバン)』。

 

「……ひひッ。これは面白れェ。名乗れ、魔法使い」

「イグニだ」


 イグニの手元で、世界が煌めき続ける。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アビスがサラの腕輪に触れたの気になっていたんですが、サラちゃん超ピンチじゃないですか(´;ω;`) しかしそのおかげでイグニの本気の魔法が見られるなんて、皮肉ですね( ;∀;)
[良い点] イグニさん、やったって下さい! リトルレディを虐めるカスに創造主の鉄槌を
[気になる点] アビスゥウウウ!!お前ぇえええ!!よくもサラちゃんを泣かせやがったなァアアア!!?? [一言] イグニやってくれ(他力本願
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