第3-25話 水着と魔術師
アビスの身体を蒸発させた翌日。
あれから不思議とアビスの追撃は無かった。
イグニの一撃でアビスは消えたのか、それとも分が悪いと思って引いたのか。
どちらなのかは分からないが、とにかく“闇の極点”は引いた。
ちなみにだがイグニとミルの見解は一致して、アビスは死んでいないという結論を出した。相手は“極点”。よりにもよって、こことは別の世界に渡る魔法を見つけ【次元】と呼ばれる属性を新しく見出した探求者である。
身体が蒸発したところで死ぬはずがない。
「ま、そんなに暗い顔したって仕方ないからさ。楽しもうよ。イグニ君」
「そう、ですね。考えたって仕方ないですし」
「そうそう。私の妨害術式の1個を盗んだくらいであんなにやる気出されても困るんだよねぇ」
ミルは笑う。
“綻び”のミルは魔術の1つを暴露されたところで痛くも痒くもないのだろう。
「というわけで今日は泳ぐぞー!」
「え! 泳ぐんですかッ!?」
イグニはミルの言葉でテンションが一気に跳ね上がった。
「だって海に来たんだよ? 泳がないと海に来た意味がないじゃん!!」
「確かに……ッ!」
イグニはミルの正論に唸った。
「というわけで水着に着替えてロッジの入り口に集合! 今日はいっぱい遊ぼう!!」
「アイアイサー!!」
イグニはすさまじい勢いでロッジの2階に上がる。
2階に上がると、ユーリが既に着替えて待っていた。
下は……普通のパンツだが日焼け防止のために上に服を羽織っている。
そして、軟膏のようなものを塗っていた。
「何塗ってんの?」
「これ? 『サンモネ花』を溶かした液だよ。日焼け止めの効果があるんだ」
「日焼け止め……」
イグニの脳内には無かった発想に、少しびっくり。
(日焼け止めって女の子がやるんじゃないの……?)
というイグニの思考は間違いなのだが、あいにくと彼はそれに気が付けない。
しかし、テンションの上がりまくった彼は日焼け止めのことなど頭の外に追い出して5秒で水着に着替えおわった。
「わっ。イグニ、鍛えてるね」
「ああ、まあな」
イグニはユーリに身体を褒められて少しだけ上機嫌。
そう! イグニはいついかなる時でも裸になっても大丈夫なようにしっかりと身体を絞っているのだ……ッ!!
(じいちゃん……! 俺はじいちゃんの教え、守ってるぜ……!)
忘れもしない。
あれは『魔王領』にやってきたすぐのこと……。
――――――――――
『イグニよ。モテるためには何が必要だと思う?』
『え? えーっと……強さ?』
『うむ。それは要素の1つじゃ。じゃがの、イグニ。こんな言葉を聞いたことが無いか? 筋トレすればモテる……と』
『あ、ある! 俺もそれで一時期筋トレしてた!』
『うむ。あれは半分正解で半分間違いじゃ』
『そ、そうなの……?』
イグニは自分が信じてきた常識が崩れそうになって震えた。
『イグニ、少しだけ考えてみろ。お前が女をデートに誘ったとしよう』
『うん!』
『お前が服を脱ぐタイミングはどこじゃ?』
『え、ど、どこって……』
イグニはその頭で一生懸命考えた。
『な、無い……』
『この馬鹿ッ!』
バチン!!
『痛ッ! 理不尽!!』
『馬鹿たれ! 最後にあるじゃろうが!!』
『あ……ッ! ムフフな時……!!』
『そうじゃ! その時に始めて服を脱ぐ。さて、イグニ。ここでお前に問題じゃ』
『な、何……?』
『もうそこまで連れ込めているのに、身体を鍛える意味とは?』
『…………あ』
イグニはルクスの言っていることを理解した。
『そう、無い。デートをして最後まで持ち込めないのであれば、それはデートの途中に問題がある可能性が高い。……もちろん、よっぽど太っておったり、痩せておるのは別じゃがの』
『で、でもじいちゃん。筋トレすればモテるってのは……』
『じゃから半分正解で半分間違いなのじゃ』
『……?』
『良いかッ! 身体を鍛えるというのは『自分を律せる』という証ッ! 身体を鍛えた先にあるのは強固な自信!! こいつが大事なんじゃッ!!』
『じ、自信が……!』
『考えろ、イグニ! 『どうせ俺なんて……』が口癖の男と、『俺ならできる』が口癖の男! どっちがモテそうかと!!』
『…………!!!』
『自信の無い男はモテない! じゃが、根拠のない自信に溺れる男もモテない!! つまり、根拠に基づいて自分を信じられる男はモテる!!』
『……な、なるほど!!』
『しかもそれだけじゃない! 海に行ったときや、モンスターとの戦いで傷のついた身体を治療する時などで裸になった時に、太っているよりも鍛えている時の方がモテる!』
『じゃ、じゃあ筋トレした方が良いんじゃ……?』
『ドアホッ!!』
バチン!!!
『えぇ……』
『物事には優先順位というものがある! お前みたいななよっちぃ奴が筋トレして筋肉付けたところで意味ない! 変な自信つけて空回りしたあげくモテずに死ぬだけ!』
『し、死ぬ……』
『身体作りは一朝一夕でできるもんじゃないわい! 全ては日々の心がけからッ! 加えてお前に必要なものは強くなること! 身体づくりはその過程で勝手に終わるッ!!』
『……ッ! わ、分かったよ……!! じいちゃん!!』
『分かったなら強くなるぞッ! イグニ!!』
『もちろんだよ! じいちゃん!!』
――――――――――
そう! 『魔王領』での2年間で身体は完全に仕上がっている……!
生傷が絶えない生活だったが、じいちゃんの持ってきてくれたエリクサーを飲めば、全回復するので身体についた傷もそんなに多くない。
完璧! 完璧なのだ……ッ!!
「ごめんねー。遅くなっちゃって」
「そんなに待って……」
ないです、と続けようとしたイグニがちらりと後ろを振り向くと、そこに爆弾があった。
「やっほー」
ミル会長が着ていたのはビキニである。
そのスタイルの良さを前面に押し出した格好にイグニは秒で敗北した。
いや、勝とうと思うことすらもおこがましい。
男であるなら、巨乳に勝てないのは必然……!
水が高きから低きに流れる様に……!
呼吸をせねば死ぬように……!
太陽が東から登り、西に沈むように……!!
この世の理……! 絶対の真実……!!
「この格好、悪くないよな?」
「は、はい……!」
ミコちゃん先輩が着てきていたのはハイネックビキニと呼ばれるタイプの水着……! バストから鎖骨部分までを覆うタイプなのでミル会長よりも露出は少ない。少ないからなんだ! 関係ないぞ!!
そもそもミコちゃん先輩は前衛ということもあって身体を激しく動かすタイプ!
したがって、そのスタイルの良さがすごいのなんのって……。確かに生徒会どころかイグニの周りにいる女性の中でトップクラスのおっぱいである会長には勝てないが総合点ではミコちゃん先輩に軍配が上がるのではないだろうか。
上がったところでどうなるのかという話ではあるが。
「イグニー!」
その後ろから出てきたのは子供用の水着を着たサラ。
イグニに飛び込んできたので抱き上げる。
「おー! 似合ってるな、サラ」
「イリスに選んでもらったの」
「良かったな」
「うん!」
「ところでリリィは?」
イグニは妹のようにサラを抱き上げて、ミルとミコに尋ねる。
「リリィちゃん。イグニ君が呼んでるよ」
「ちょ、ちょっと。本当にこんな格好で大丈夫なんですか? 恥ずかしいんですけど」
「みんな着てるから大丈夫だって」
そう言ってミル会長に連れてこられたリリィが着ていたのはワンピースタイプと呼ばれる一番露出が少ないタイプ。
しかし、水着とは何を着るかが大事なのではない!
誰が着るかが大事なのだッ!!
露出が多いだけの格好を好むのは2流……!
いや、ド3流……!!
魔術の適性でいえば『none』に該当するようなクソ雑魚……!!
リリィは確かに幼児体形……!
それはエルフの20歳という、彼女らからすればまだまだ子供である年齢だからに他ならない……!!
しかし、大事なのは身体よりも精神ではないか?
水着を初めて着るリリィと、それを恥ずかしがるリリィの羞恥に溺れた顔……!!
たまらん……!!!
「じゃ、みんな揃ったところで海に行こうか」
「行きましょう!」
イグニのテンションは過去一高かった。
【作者からのお願い】
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