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【Web版】極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~【漫画3巻発売中!】  作者: シクラメン
幕後

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【幕後】ガルネッタの湯煙を:下

「友達!? なんでアンタなんかとイグニ様が友達になんなきゃいけないのよ!」


 ドラゴンが怖いのかイグニの後ろに控えながら、犬みたいにきゃんきゃんと吠えるイリス。

 場所が場所なので小物感が半端ないが、それすらも可愛いとイグニは考えながらガランドに向き直った。


「友達……? 人と竜が?」

『うむ。良いアイデアじゃろうて! 我はこう見えても人のことはよく知っておるんじゃ! あれじゃろう! 我と友になったら「魔王」とのやらの倒し方を教えてやるぞ!』

「…………」


 そこまで言ったガランドは子供のような体格で胸を張ったので、イグニとしては何も面白くない。しかし、この状況ではそもそも面白いとか面白くないかという話ではないのだ。


 イグニとイリスは思わず顔をあわせると小声で互いに話し合った。


《どっ、どういうことでしょうか……? 『魔王』はついこの間イグニ様が倒しましたよね……?》

《そのはずだけど……》


 忘れるはずもないあの『大戦』。

 終わるはずだった人類は、しかしたった一人の魔法使いの手によって救われたのだ。


《も、もしかしてですけど……。ガランドは『魔王』が倒されたことを知らない……?》

《……そもそもの話なんだが》


 ふと頭によぎった予感を持ってして、イグニはイリスに胸の内に浮かび上がってきた疑問をぶつけてみた。


《ガランドは2人目の『魔王』が出てきたことを知ってんのか……?》

《えっ!? いや、流石に……。あっ、で、でも竜なら知らないってことも……》


 竜は悠久の時を生きるが故に、時間間隔が人間のそれとは比べ物にならない。

それに、自由に空を飛べて好きなように移動できるから俗世にも興味を持っていないことが往々にしてよくある。


 だから、ガランドの言っている『魔王』というのが、最初の『魔王』を指しているという可能性だってあるのだ。


 だが、今はそこの話を掘っている場合ではないとイグニは判断。


「……いや、『魔王』の倒し方は良い。俺が倒した」

『ほう! やるではないか。しかし、惜しいことをしたな。もう少しで星を制覇するところであったのに』


 本題ではないのでイグニはガランドの言葉を流したのだが、そのままガランドが続けたことで理解してしまった。この竜、時代の流れが100年以上前で止まっている。もう少しで星を制覇しかけた『魔王』は初代の『魔王』だ。


『ふうむ。いや、しかし「魔王」を倒したのがお主であるというのなら、名を聞かせてもらおう』

「イグニだ」

『よくぞ名乗った。我はガランド。渇きの竜よ』

「ああ、それはよく知っている」

「さっさとガルネッタ領(うち)から出ていきなさいよ!」


 イグニの返答とイリスの叫びが重なる。


『出て行けとは変なことを言うものだ、人の子よ。ここは人の土地ではなかろう』

「私の土地よ!」

『しかし、周囲には誰も住んでおらぬではないか』

「た、確かに田舎だけど! 辺境すぎて誰も住んでないけど!! ガルネッタ領は良いところもあるの!!!」

『ふむ。人はより集まってレンガの中に住むのが好きなものかと思っていたのじゃが、こんな火山にも住みたがる者がおるのか。変わっておるの』

「こんなところには誰も住んでないけど……!!!」

『なら良いではないか』

「ぐぬぬ…………!」


 さらっと田舎を煽っていくガランドにイリスは何も言えなくなって黙り込んでしまった。それで良いのか。


 しかし、これではラチが明かないのでイグニは一度深呼吸するとモテの作法の15。――“自分の都合を押し付けない”、を思い返すと逆に尋ねてみることにした。


「……ガランドは何故、火山に来たんだ?」


 そう! 彼女がガルネッタ領(ここ)にやってきた理由が分かれば、それを満たすことで満足して立ち去ってくれるのではないか!


(……流石俺だ…………ッ!)


 ピクニック気分で火山までやってきて、『邪魔だったら魔法でぶっ飛ばそう……』とか考えていたやつとは思えないが、気取っていれば世の中なんとかなるのである。


『我が火山にきた理由など決まっておるではないか。若返りよ』

「……若返り?」

『うむ。知らぬのか? 溶岩に浸かれば若返るとよく言うではないか』

「聞いたことないわよ!」


 何も言い返せないまでに押し込められたイリスだったが、覇気を取り戻したのか威勢よくガランドに噛み付く。


「温泉に浸かれば若返るってよく言うけど」

「そうなのか?」


 温泉の効能をよく知らないイグニがイリスにそう聞くと、彼女は自信ありげに頷いた。


「はい! ガルネッタ領の温泉はすごい効能なんですよ! 一度入ったら肌がもちもちなって10歳若返るって言われてるんです」

『ほう! 我も入りたいものだ!』

「なんで竜が若返りたがるのよ! 十分、若いじゃない!」

『何をいう。これは()じゃ!』


 え、若作りって自分で言っちゃうの?

 と、イグニが混乱している間に、イリスとガランドが互いに言葉の応酬を繰り広げた。


「良いじゃない。魔術で若返って見せてるんだから!」

『身体のガタがすごいんじゃ』

「魔術でなんとかしなさいよ!」

『我は【生】属性の魔術が苦手じゃ』

「じゃあ、得意な竜に使ってもらえばいいじゃないの」

『竜は生来、意識すれば身体が強化されるから【生】属性を使うやつは少ないんじゃ』

「だったら諦めなさいよ! 私はイグニ様と一緒に恋愛の湯に入るんだから!」

「……何だそれ」


 聞き覚えのある単語が2つ並んでいるだけだが、絶対に噛み合わないであろう単語同士がくっついているのでイグニは困惑しながらイリスに尋ねかえす。


「ウチの温泉は、あまりにも若返ってモテモテになっちゃうって言われてるんですが」

「え、なにそれ」


気取っていたイグニの素が思わずこんにちは。


「良いですか、これはアリシアには絶対内緒なんですけど」


 イリスはイグニに向き直ると、


「ウチの温泉はただでさえ効能がすごくて一度入るだけで10歳若返るって言われてるんですが、あまりにも肌が綺麗になるものだから顔がよくなってモテモテになる……って言われてるんです」

「マジかよ……!」


 思わずイグニは心の中でガッツポーズ。

 しかし、温泉に入るためにはガランドをどうにかしなければならない。


『我もその温泉とやらに入りたいんじゃが』

「だから! アンタがいるから温泉枯れちゃってて温泉に入れないのよ! その『渇きの魔術』をどうにかしなさいよ!」

『なんと……! しかし、無理じゃ……。これは我がおる限り、絶対になくならん』

「だったらここから立ち去りなさいよ」

『いや、しかし……』


 そんな2人のやり取りを見ながら、イグニはふと考えた。


 ……別にガランドって悪いことをしてないんだよなぁ、と。


 そう。彼女は別に悪いことをしていない。

 ただ、若返れないかと思って火山までやってきて、そのせいで温泉が枯れてしまった。だが、別にそれは彼女が意図的にそうしたわけではない。


「……うーん」

「どうしたんですか? イグニ様」

「いや、ちょっとな……」


 イグニとしては、女の子の悩みなのでガランドの悩みを解決してあげたい。

 だが、イリスの悩みも解決してあげたいのだ。


 もちろん、解決策が無いわけではない。サラのつけていた腕輪、それがあれば竜の持っている周囲の環境を書き換える魔力を抑えられることはハイエムで実証済みである。だが、それを持ってきていないのだ。


 かつて、未だにイグニとサラのパスが甘かったときには念のためサラに魔力を抑える腕輪をつけておく必要があった。だが、イグニが『人の澱み』を濾過ろかできるようになってからは、邪魔だからと外しており当然だが予備も持ってきていない。


 だが、もう一つイグニの中にある1を0にする『終焉の奇跡(ビッグクランチ)』を使ってガランドの魔力を0にすることも考えたは考えたのだが、あれは世界を書き換える魔法。そんな繊細な操作ができるかどうかが分からない。


 なので、イグニがあーでもない、こーでもないと考え込んでいたら、そこにイグニのものでも、イリスのものでも、ガランドのものでも無い声が響いた。


「話は聞かせてもらったわ!」

『ぬ!? 誰じゃ!!』


 そうガランドが叫んだ瞬間、しゅばッ! と世界が歪んで、蒼い髪の少女が出現した。


「イグニの妻よ!」

「うぇッ!? ローズ!!?」

「会いたかったわ! イグニ」


 そう言って抱きついてくるローズ。

 わけが分からず頭の中が「?」でうまるイグニ。


「なんでここに……?」

「『愛の奇跡』よ!」


 なんてドヤ顔でローズが言うものだからイグニは一瞬意味が分からなかったが、ふと合点が行った。


 ローズが言ったのはわけのわからない奇跡の話ではない。

 彼女が辿り着いた魔法きせきの話だ。


 ローズが辿り着いた極地であるそれは、自分とイグニの間にとって()()()を消し飛ばして0にするというローズの歪んだ認識を現実に押しつける奇跡。


 ならば、今回は2人の間の邪魔だった『距離』を消したのだろう。


「そのモテモテのお湯になるお湯に私も入りたいの」

「話聞いてたの?」

「もちろんよ! 私がイグニのことで知らないことは何もないわ!」


 さらっと先ほどまでの会話に入ってくるローズ。

 彼女の奇跡は何かを『消す』ことであって、超遠距離にいながら声を聞くような魔術や魔法は無いはずなのだがいつの間にか覚えていたらしい。


 ローズはさらっとイグニたちの中に入ってくると、パチンと指を鳴らした。


「そこのドラゴンの魔力を消したわ! 私はイグニの役に立つ女!」

「え、あ、うん。ありがとう……」


 とんでもない力技で解決したような気がするが、そもそもイグニとて使おうと思っていたのだ。何も問題はない。


「これで温泉が戻るの?」


 しかし、魔法1回で環境が元に戻るなら誰も苦労はしない。

 思わず心配になったイリスにがガランドにそう聞いたが、彼女も肩をすくめるだけ。


「大丈夫よ! 竜の魔力を消したんだから、魔力が戻るまでは環境は元に戻るわ!」


なんてローズが言った瞬間、激しい地震が突如として襲ってきた。


『む! まずい。揺れ戻しだ』

「揺れ戻し?」

『我のせいで枯れていた溶岩が戻ってくるぞ!』


 その言葉を咀嚼したイグニは瞬時に近くにいたローズとイリスをそれぞれの手で掴んだ。


「と、飛ぶぞ……ッ! 悪いが俺はローズとイリスを掴むから、ガランドは自分で飛んでくれッ!」

『無理じゃ。魔力切れで飛べん』

「うおおおおッ!!!」


 イグニはそのままガランドを背負って全力で空へと飛び上がる。だが、それと同時に火口が赤熱化すると信じられないほどの勢いで溶岩が吹き出してきたッ!

 あまりにも噴火が早すぎるッ!!


 それもそのはず。

 『揺れ戻し』とは竜のせいで歪められた環境を元に戻そうと一時的に自然が歪められた環境の対極を成すという自然現象。


 すなわち、ガランドによって抑えられていた噴火活動の対極。

 激しい噴火活動が今まさに始まろうとしているのだから……ッ!


「……まずいッ!」


 間に合わないッ!!

 このままだと全員が噴火に巻き込まれてしまう。


 イグニはとっさに魔法を使って時を止めようとして、


「邪魔よ」


 しかし、ローズの一言で全部消えた。


 便利だな、その魔法!!


――――――――――――――――――――――――


「ということで、ガランドを連れてきたわ!」

「えぇ……」


 ガランドを追い払うと行って飛び出した自分の娘が追い払うどころか、聖女とドラゴンと一緒に戻ってきたので信じられないものを見るような顔で自分の娘を見つめるガルネッタ家領主。


 しかし、ガランドの魔力がなくなると同時に温泉が復活したので、イグニとローズのいう『大丈夫』を信じた領主のおかげでようやくイグニたちは温泉に入れることになったのだが、


「……なんでユーリが男湯にいんの?」

「ボクは男の子だよ!」


 何故かタオルで胸の位置まで隠したユーリが男湯の温泉に入ってきたのだ。


「いやいや、ユーリは女湯でしょ」

「男の子が女の子のお風呂に入ったら問題になっちゃうよ!!!」

「ユーリが男湯にいるほうが問題じゃないか……?」


 なんてイグニが首を傾げた瞬間、


「イグニ! そっちに行くわ!」

「ちょっとローズ! ダメよ! 何してるの!!」

「なんで止めるのよ! アリシア!!」

『ふむ? 人の子はオスメスに分かれて湯浴みするものだと思っていたが、途中で合流するのか?』

「しないわよ!!! ちょっと、ガランド。見てないで止めなさい! イリス! アンタも手伝うって!」

「止めてるわよ! 『聖女』様の力がすごいの!!」

「こんなやつに様なんてつけなくていいわよッ!」


 なんか女湯の方から信じられない魔力の熾りが吹き荒れたので、思わずイグニは身構えた。馬鹿な。女湯は楽園パラダイスじゃないのか。


「ちょっと! イグニ! あんたも言葉で止めなさいよ!」

「ローズは俺の言うこと聞かないし……」


 だが、一応言葉をかけるだけかけておこうかとイグニが頭の中で言葉を練っていると、


「あはは……。モテモテだね、イグニ」

「ん、じゃあ良いや」


 ユーリがそう言ったものだから、イグニは全ての思考を放棄した。


「これ以上止めるなら男湯と女湯の壁を消すわ!」

「なんでそんな細かい調整ができるのよ!!」


 今日も世界は平和である。

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[良い点] えぇ...(素の反応)笑った
[良い点] ローズの魔法無茶苦茶スギィ
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