第27話 父と魔術師
「イグニ選手!! 優勝おめでとうございます!!!」
イグニに渡されるのは優勝者の証である『指輪』と、優勝賞金である。
「この『指輪』は何ですか?」
イグニは目の前の可愛い女の人に尋ねた。ずっと“闘技場”の実況をしていた女性である。
「これは『触媒』です! 身につけていれば魔術の発動をサポートしてくれるんですよ。この『指輪』はこの大会のためだけに作られる特別製で身につけていれば3倍は魔術の発動が早くなると言われてるんです!」
「3倍も! ありがとうございます」
イグニは礼。
フレイには準優勝として別の物が渡されていた。
イグニとの戦闘で負った傷は治癒師たちの治療により完治。
しかしその顔には不満が溜まっている。
「……イグニ。あんたは」
「うん?」
顔を曇らせたまま、フレイはイグニに問いかけた。
「強いな」
「ああ」
「僕は……弱いな…………」
思った以上にショックを受けてるっぽい。
……どうしよう?
「準優勝だろ? 胸を張れよ」
「……でも、優勝……出来なかったから…………」
「そんなに優勝が大事か?」
「……ああ、大事だ。僕は……“極点”になるんだから」
「こんな大会で優勝しなくても“極点”にはなれるだろ」
「……でも」
「なんでそんなに“極点“になりたい?」
「何故って……。父上がそれを望んでいるからだ」
「そうか」
イグニはフレイに何を言うべきか少しだけ迷って、
「お前はもう少し、自分の欲求に素直になった方が良いな」
柄にもなく、そんなアドバイスをした。
―――――――――
「イグニ! 優勝おめでとう!!」
「イグニ様! あの最後の魔術なんですか!? ばーんってなったやつです! ばーんって!!」
「アンタならやれると思ってたわよ! やるじゃない!!」
「ふん! 僕の思った通りだな!!」
“大会”が終わって観客席に戻るやいなや、すぐに仲間たちに囲まれた。
「流石は、イグニ。優勝するとは」
「エルミー! いたのか!」
「うん。フレイに、負けた」
そう言えばBブロックにいたような気がする。
「しばらく、魔術の練習は……いい…………」
ドMのエルミーがそんなことを言うなんて……!
イグニは色んな意味で驚いた。
「今日はみんなで、打ち上げかなぁ?」
エレノア先生が首をかしげる。
「先生の奢りですか!?」
すかさず聞くイリス。
いや、エレノア先生は金欠だぞ……。
「優勝賞金貰ったんだから、これでなんか食べよう」
「イグニ様! いいの!?」
「やけに太っ腹じゃない。どうしたの?」
「こんなに金があっても使わないからな。みんなで使った方が良いと思って」
「馬鹿なことを言うな! 僕が出す!!」
しかし、それを遮ったのはエドワード。
「う、うん……?」
「イグニは優勝したんだ。そんなイグニに金を出させるのは僕の沽券にかかわる! だから、僕が出す」
「い、良いのか? エドワード」
「エドワード様の心意気を受け取れ! イグニ!!」
「そうだぞ! エドワードさまの温情が分からないのか! イグニは!!」
「そうか、ありがとうな。エドワード」
「ふん。気にするな」
「でもぉ、それならどこに行こうかしらぁ」
「僕が良い店を知っている! そこに連れていってやろう」
「貴族がおすすめするお店!? すごい! ボク行ってみたい!!」
「もちろんだ! 僕なら顔パスだからな! ふふん」
ドヤ顔でドヤるエドワード。
今日はなんだか頼もしい。
「イグニ! ここにいたのか!」
しかし、その歓談を遮る声が急に響いた。
「……父上」
「良かった。まだここにいたんだな」
ほっとしたように息を吐いたのはアウロ。
すなわち、イグニの父親だった。
イグニはみんなに少し待つように伝えて、父の元に移動した。
「お前とフレイの試合、見させてもらった」
「……それは、どうも」
もはやイグニには無関係の人間である。
それだけ言って立ち去ろうとすると、アウロはイグニの腕をつかんだ。
「……うん?」
「お前なら……イグニ、お前なら“極点”を目指せる!」
「…………うん????」
何を言われているのか理解が出来なかった。
これから、何を言われるのかも予測が出来なかった。
「フレイの魔術を撃ち破ったお前の魔術! あれは素晴らしい!! どんな魔術なんだ。ぜひ教えてくれ!」
「え……。『ファイアボール』だけど……」
「そ、そうか……。秘密か…………」
いや、秘密でも何でもないけど…………。
どうにも会話がかみ合わないなぁ、と思うイグニ。
「イグニ。お前なら……お前なら“極点”を目指せる! 戻ってこい! イグニ!!」
「戻るって……どこに?」
本当に理解が追い付かなくて首をかしげるイグニ。
父親の言っていることが寸分足りとも理解が出来ないのだ。
「タルコイズにだ! お前が戻れば、我が家から“極点”が出る!」
「……あー」
だんだん話が分かってきたイグニはうめくような声を出した。
「つまり、貴族に……戻れと?」
「そうだ」
「やだよ」
「……………………な、なぜ?」
イグニがあっさり言うもんだから、驚いたアウロは掠れた声を出した。
「だって、モテないじゃん。貴族」
「……お前は」
今度はアウロが首をかしげる番だった。
「お前は、何を言っているんだ……?」
“極点”をひたすらに求める男と、“モテ”をひたすら求める男。
そんな2つが相入れるはずもなく。
「じゃあな」
「ま、待て……。イグニ! 待ってくれ!!」
踵を返したイグニにアウロが手を伸ばす。
だが、その手を掴んだものが1人。
「やめておけ。アウロ」
「じいちゃん!?」
ばっ、と音を立ててイグニが振り向く。
「じゃからお前は女にモテんのじゃ」
「邪魔をするな……! ルクスッ!!」
「モテの作法は人間関係の作法。イグニ。モテの作法15は」
「……“自分の都合を女性に押し付けない”」
「そうじゃ。イグニは理解が出来ておる。お前はどうじゃ? アウロ」
「……くっ! ふざけるな!! どうして、どうして戻ってこない! イグニ!!」
アウロがルクスの手を払ってイグニの元へやってくる。
「ほらの。モテんから自分の都合ばかり押し付けるじゃろ」
ルクスは失笑。
イグニはルクスの解説を、耳を澄まして聴いていた。
「お前なら“極点”になれる! どうして貴族に戻ろうとしない!!」
「他人のことを考えているようで、結局は自分のことばかり。イグニ。モテの作法12は?」
「――“まずは自分が相手のことを好きになれ”」
「そう。相手のことを好きになれば、相手の嫌がることはしない。少なくとも、自分本位に相手を求めることはしなくなるんじゃ」
「な、なるほど」
目の前で解説されるとためになるなぁ。
「うるさい! 黙れ!! いま私はイグニと喋っているんだ!!」
「イグニ。モテの極意その2は」
「“余裕のある男はモテる”」
「ついでに5は」
「“芯のある男はモテる”」
そこまでイグニが言った時、ルクスは笑った。
「守れておらんの。アウロ」
「……っ!!」
アウロの顔が真っ赤になる。
イグニは、しばらく考えてから言った。
「そんな怒らないでよ、父上。俺は感謝してるんだから」
「なら、なおのこと……!」
「俺を、貴族から追放してくれたことに。本当に、心から感謝をしているんだ」
「……な、何を言っている! 私は……お前に……!!!」
「ありがとう、父上。俺を自由にしてくれて」
アウロの目には、イグニがどう映ったのだろうか。
「だからもう、さよならだ。父上」
「ま、待て! 頼む!! 待ってくれ!!」
イグニは踵を返す。
「またね。じいちゃん」
「うむ」
唯一の家族に挨拶を返して、イグニは立ち去る。
「お願いだ! 私が間違っていた!! 頼む! イグニ、戻って来てくれ!」
しかし、イグニが二度と後ろを振り向くことは、無かった。
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