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【Web版】極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~【漫画3巻発売中!】  作者: シクラメン
第6章

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第6-22話 魔法使い

「クレーヌ、さっさと起きろ」

「……ん。うん。あれ、どこここ?」


 ミラによって、屋上まで連れてこられたイグニは2人を観察。

 随分と気合の入った格好をしているが、それ以外に目立った様子はどこにも見えない。


 確かに魔術師としては一流なのかも知れないが、それ止まりといった印象を受ける。


 あくまでも油断しないように、イグニは彼我の戦力分析を開始。


「『装焔イグニッション』」


 ぎゅるり、と世界を捻じ曲げて炎の塊が出現。

 それら全てが目の前の男に向けられて、


「『発射ファイア』」

「『守り給え』」


 どす黒いもやが男の足元から出現すると、イグニの放った『ファイアボール』を防ぐ。そして、突破できずに火花を散らすと『ファイアボール』はかき消えた。

 

少し手加減しすぎたかも知れない。

 イグニはさらに魔力を熾して、まっすぐ指を向ける。


 だが、再びグレゴリーが手をかざすと、イグニの足元がぼこりと泡立つ。

 イグニはとっさにバックステップ。遅れて、イグニの足元だった場所から無数の手が出現すると必死にイグニに向かって手をのばす。


 生きた者を闇に取り込んで、命を吸い取る魔の手だ。

 【闇】属性の魔術の中でもかなりの高位の魔術だが、それを無詠唱で行うとは。


 イグニは頭の中の戦力差を修正。


「クレーヌ。作戦変更だ」

「どうして?」

()()()()。王国は暗部に関しては異常な執着を見せる。ここで連鎖を断ち切らないと、俺たちが危ない」

「このままだとバレちゃうってこと?」

「いや、殺される」

「……え、やだ」

「だから、先に殺すぞ」

「うん。分かった」


 グレゴリーの差し出した手を握って、クレーヌが立ち上がる。

 舞踏会の最中にいるかのような錯覚に陥るほどの演技がかった仕草は、しかし流麗で違和感を覚えない。


「『極光刃アウローラ・ブレイド』」

「『闇は光を飲み込み果てて』」


 フレイの光の刃に向かって、グレゴリーが手を差し出すとその闇に飲み込まれていく。


「『装焔イグニッション砲弾キャノン』」


 後方に控えたイグニが詠唱。

 巨大な『ファイアボール』が出現すると、炎を撒き散らして白熱化していく。


「『発射ファイア』ッ!」


 腹の底に響くような発射音とともに、砲弾のごとき『ファイアボール』がグレゴリーに飛んでいく。


「クレーヌ」


 一言、グレゴリーが語りかけた瞬間に、大きく魔力が熾って――2人の姿が消えた。


 そして、次の瞬間イグニの全身を襲った鋭く刺すような痛み。

 ぱっと身体を見下ろすと、全身を刃物で貫かれたような後がそこにあった。


「……馬鹿、な」


 何をされたのか、まったく分からなかった。

 いや、分からないことはない。


 魔術を使ったのだ。

 だが一体、どんな魔術なのか。どうして、姿を消すのと同時にここまで攻撃されているのか。


 それがイグニには分からなかった。

 遅れて、生ぬるい血が全身を伝って足元に垂れていく感覚。


 足に力が入らなくなり、地面に膝をつくと隣にはイグニと同じように全身に切り傷を刻みつけられたフレイがいた。彼も何が起きたのか分からずに、首を傾げ続けている。


「甘ったれたヒヨッコはこんなもんだ。俺たちの敵じゃないな、クレーヌ」

「うん! グレゴリーがいちばんつよいんだから!」


 視界が段々と暗くなっていく中、そんな男女の声が聞こえてくる。


 ……考えろ。俺は、何をされた。


 イグニは自らの血を眺めながら、息を吐き出す。


 魔力が熾った。

 次の瞬間、イグニの放った魔術の先から2人の姿がかき消えて、イグニとフレイがズタズタに切り裂かれていた。


「さて、もう少し暴れよう。クレーヌ」

「うん。そうする」

「俺たちに刃向かわないように、徹底的にだ」


 グレゴリーがそう言うと、ロルモッドの校舎に無数の影が走っていく。


「こういうときは、盟友たちも呼ぶべきだな」

「みんなでやれば楽しいもんね!」

「『陽を隠し給え』」


 刹那、どろりした魔力が熾ると空を覆っていく。

 それは暗く、黒く、太陽の光を隠していく。


 そして、世界を夜に仕立て上げた瞬間、校舎の影がした。


「突然呼び出すなんて無礼なやつだな。グレゴリー」

「そう言うなよ。ここまでお膳立てしてやったんだ。後は好きにしろ」


 現れたのは、グレゴリーと同じような黒い礼服に身を包んだ男。

 だが、異常なまでに肌が白い。まるで、一度たりとも陽の光をまともに浴びたことのないような、そんな色だ。


「お前たちは処女や童貞の血を好むだろう」

「ふん。学園か」


 黒い礼服の男が口角を釣り上げて笑う。

 その時、イグニは男の口元に人間ではありえない牙を見つけた。


 だが、目の前にいる男は獣人族ではない。


「まぁ、お前の呼び出しだ。我らも好きにさせてもらう」

「……吸血鬼ヴァンパイアかッ!」

「なんだお前。まだ、喋れたのか」


 イグニの確信をついた言葉に、グレゴリーが見下すような視線を向けてくる。


 それはドラゴンに並ぶ


「『極光線レーザー』」


 刹那、真横にいたフレイが全くの無傷で起き上がると、魔術を詠唱。

 極彩色の光が吸血鬼ヴァンパイアの頭を貫いた。


『はははははっ!!』


 だが吸血鬼ヴァンパイアは高笑いをしながら姿を影に変えると、刹那、実体に戻ってフレイの腹部を蹴り飛ばした。フレイの身体はまるで球技の球のように簡単に吹き飛ぶと、地面を3回バウンドして、ようやく止まった。


「こいつは私がもらう」

「好きにしろ」


 吸血鬼ヴァンパイアがフレイの頭を掴んで、持ち上げる。

 フレイはわずかな抵抗を見せるが、吸血鬼ヴァンパイアはそんなフレイで遊ぶように身体を地面に向かって落とした。


 学校内は突如として夜になったことと、溢れ出した吸血鬼ヴァンパイアたちで大混乱に陥っている。


「……どうにか、するしかねぇな」

「おいおい。首を切ってんだぞ。なんで生きてんだよ、お前……」


 イグニが血を吐きながら起き上がる。

 全身を刃物で切り裂かれ、血だるまになっても起き上がるイグニに対してグレゴリーが一歩後ろに下がった。その時、グレゴリーは見た。イグニの傷口に蠢く闇の澱みを。どこまでも、どす黒く汚染していく人の澱みを。


「……お前、何なんだ」

「俺は魔法使いだ」


 立ち上がったイグニの傷口を闇の塊が押さえつけると、修復していく。傷口を塞いで、失われた血液を補完していく。


 だが、イグニはそれに気が付かず、そっと胸に手を当てた。そこに繋がる無垢の少女に心の中で謝罪をすると、莫大な魔力を熾した。


「『装焔イグニッション完全燃焼フルバースト』ッ!」

「クレーヌ……ッ!」


 焦るグレゴリーの叫びとともに、クレーヌが魔術を使うのとイグニが時を止めたのは全くの同時だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い、次回は魔法使いとして衆目を浴びますね! [気になる点] イグニ君いつの間に澱の魔力使えるようになったの!
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