第6-20話 ゲリラ戦と魔術師
「『装焔:徹甲弾』ッ!」
イグニの詠唱により出現した3つの『ファイアボール』が回転開始。
魔力を込められて、密度を高める。
「どけッ! 『極光刃』ッ!!」
バズッ!!!
イグニがしゃがんだ瞬間、光の速度で飛んできた極彩色の刃が背後の木々を薙ぎ払う。広範囲の木々を一掃したフレイは、イグニにあたっていないことを知っている。だから、彼は目の前に手を向けると更に追加詠唱。
「『極光扇刃』ッ!!」
イグニがしゃがみこんでいる地面と、彼が逃げるであろう範囲全てを巻き込むような広範囲の光の刃が『ジャングル』の柔らかい地面を丸ごと抉った。
パラパラと吹き飛んだ小石や土が雨のように降ってくる中で、フレイは何かを直上から感知。ぱっと視線を上に上げると、そこには鋼鉄の質量を持った『ファイアボール』が降ってくる。
「……くそッ! 『極光防壁』」
その悪態はイグニを仕留めきれなかったものだろうか。
魔力散乱の術式は間に合わないと判断し、簡単な防護壁を張る。
ガガッ! と、防壁を軽く削られるが、『ファイアボール』は完全に停止。
フレイは魔術の飛んできた方向に向かって、反撃をしようとするがイグニがそこに居ないことに気がついた。
「……どこに隠れた?」
「『装焔:狙撃弾』」
声がした。
フレイは反射的に声の方向に振り向くが、どこにも声の主はいない。魔力の残滓すらも残っては居ない。
「どこに隠れたッ! 出てこい卑怯者!!」
その挑発の返答として帰ってきたのは小さな『ファイアボール』。それが、フレイの右の太ももを貫いた。
「……見せてやる。『極光爆破』ッ!!」
フレイの詠唱で、彼の足元が真白に発光!
そのまま凄まじい爆発を起こした!!
当然、その目的は『ジャングル』に隠れながら奇襲してくるイグニに対して、そのゲリラ戦を辞めさせることにある。フレイの目論見どおり、半径50mのクレーターが出来るように吹き飛ばすと、上空に浮遊するたった1人の魔術師の姿が。
「出てきたな、イグニ」
「あのまま削り取ろうと思ったんだけどな」
「お前のやりたいようには……させん」
イグニはフレイの現状を分析。
右腕は骨折、同時に右足もまともには動かない。
それに加えて、肋骨も何本か折れているだろう。
下手に動けば、折れた骨が心臓に刺さって死んでしまうかも知れない。
別にイグニはフレイを殺したいわけではない。
ここで足を止めておけば良いだけだ。
さて、どうしようかとしばらく考えているとフレイが片膝を地面についた。それと同時にエドワードから通信。
『イグニ。現状はどうだ?』
『エドワードか。フレイはばっちり足止めしてるぞ』
『分かった。いま、攻撃班がフラッグを2本奪った。あと1本の争奪に手間取っているところだ』
『じゃあ、俺はこのまま足を止めておけば良いんだな?』
『頼む』
『任せろ』
そう言ってイグニはエドワードからの通信を切ると、フレイを見下ろした。
「勝負もついたことだし、もう辞めとけ」
「……勝負が、ついただと?」
フレイは血の滲んだ拳を握りしめて、イグニを見た。
「馬鹿が。俺は魔術の最奥に手を伸ばしたんだ……ッ!」
「魔術を“極めた”ってことか?」
イグニはフレイに問いかけながら、わずかに目の色を変えた。
もし、彼が魔法にまで手を伸ばしていると話が変わってくる。
ここで足を止めるためには、イグニも同じように魔法を使わなければ行けないからだ。
だが、イグニの問いかけにフレイは何も言わなかった。
静かに握りしめた拳でイグニを見ているだけである。
「……ッ! 分かった!!」
そして、唐突に叫んだ。
「そういうことだったのか……ッ!」
「お、おいおい。大丈夫か……?」
急に叫び始めたフレイにドン引きのイグニ。
ちょっと強く『ファイアボール』を打ちすぎたかも知れないと、ちょっと反省。
「悪いことは言わねぇ。ここで投降して救護班に助けてもらえよ……」
「『極光変換』」
だが、イグニの問いかけを無視してフレイが詠唱。
次の瞬間、彼の身体が光に包まれた。
否、光粒子の塊になった。
「くははっ! これだ。こうすれば良いんだ!!」
そして元に戻ると、そこには一切の傷のついていないフレイが立っていた。
「どうだ! 俺が生み出した最強の防御術式は!!」
「……あー、いや……。それはだな」
ドヤ顔で叫ぶフレイがちょっと可愛そうに思えてきたイグニは、なんと言うべきか迷った。
「はははっ! 何が起きたのか分からないって顔してるな!!」
ちげーよ。なんて説明したら良いか迷ってる顔だよ。
とは言えないイグニは、うんともすんとも言わずに黙り込んだ。
これは教えたほうが良いのだろうか?
“光の極点”が数年前に編み出した防御術式だということを。
そして、まだ未完成であるということを。
「せっかくだから教えてやろう! これは自分の身体を光の粒子に変換することで、いかなる攻撃も無効化する魔術だ」
知ってるよ。
「そして、光から元の姿に戻す時に全ての傷を癒やす」
それも知ってる。
「『発射』」
だからイグニはフレイに向かって『ファイアボール』を撃った。
「無駄だ! お前の攻撃は何も届かない!!」
イグニの『ファイアボール』がフレイの身体に届いた瞬間、ぱっと光ってフレイの身体が粒子に切り替わっていく。
「……ああ、そりゃそうだろうな」
静かに息を吐くと、イグニは魔力の熾りを見た。
「『装焔』」
イグニの左斜め後ろに、新しく魔力が熾った。
だから、そこに照準をあわせて、
「『発射』」
「これでお前の攻撃は……グフッ!!」
ちょうど姿を表したフレイを『ファイアボール』が穿った。
「その魔術には欠点があんだよ。フレイ」
「……何を」
「それな、攻撃する時には実体化しなきゃいけねえんだ。だから、逃走用の魔術なんだよ」
ルクスが使っていたのは、浮気から逃げる時とイグニの特訓中に自分がモンスターに絡まれないようにする時である。また、原理をしらない雑魚刈りであれば、効果的なのかも知れないが、あいにくとイグニは道理を知っている。
「だから、フレイ。お前の――」
負けだよ。と、言おうとした瞬間、イグニとフレイの耳元に飛び込んできたのは耳をつんざくような警告音だった。




