第6-11話 応援と魔術師
華々しい勝利を飾ったのもつかの間、イグニたちはエスティアの個人戦が始まるということでフィールドを移った。
「結構時間に余裕ないんだな」
「みたいだね。でも初日だけらしいよ? やっぱりたくさん生徒がいるからサクサク進めないといけないらしいし」
「明日からは楽になるってことか?」
「うん。個人戦がぐっと減るのが大きいよ」
ユーリと一緒にとやかく言いながら、関係者席にてエスティアの活躍を応援することにした。
「1年生から3年生までほとんど総出でトーナメントしてるからね。忙しいよ」
「そりゃ、言われてみればそうだよな」
ロルモッドの全校生徒が何人いるのかイグニたちは知らないが、それでも少なくはないはずである。支援担当も何割かいるとは言え、それでもほとんどがぶつかり合うこの『対抗戦』が忙しくないわけがなかった。
「でも、イグニは最後しか出ないから時間の余裕はあるんじゃないの?」
「応援はいるだろ?」
「なるほど。流石はイグニだね」
きょとんとした様子で尋ねてくるので、ユーリにドヤ顔でそう返すイグニ。
とりあえず、自分の知り合いの試合は全て応援するつもりでいるイグニは、頭の中で結構綿密にスケジュールを立てていた。
「この試合が終わったら別のフィールドでイリスの試合が始まるからな。急いで応援しに行かないと」
「確かに応援する側も大変だよね。この過密スケジュール……」
「ミル会長は『初日からそんなに人来ないでしょ』って言って笑ってたもんな」
「うん。確かに観覧に来てる人は少ないけど……」
ユーリがちらちらと周囲を見る。
「これって友達が多い人ほどたくさん応援に行かないと行けないから大変じゃないのかな」
「どうなんだろうな。普通、初日は忙しくて応援って感じじゃなさそうだけど」
イグニは特別枠で外されているからこそ、こうして余裕でいられるが数百人という数のトーナメントを3日間で終わらせるために組まれた試合は過密も過密である。イグニたちの言う通り2日目以降は劇的に楽になるが、初日のスケジュールで応援に回れる人間がいるのかどうかは謎である。
「あ、イグニ。始まるよ!」
個性豊かなクラス対抗戦のフィールドと打って変わって、個人対抗戦のフィールドはとても味気ない。わずかにお互いが立ち会うだけの狭いフィールドがあるだけだ。
そこにエスティアと、対戦相手の女の子が向かい合う。
エスティアの顔を見ると、ガチガチに緊張していた。
「エスティア頑張れー!」
「エスティアさん頑張ってー!!」
エスティアがきょろきょろと観客席の辺りで視線を迷わせると、そこにいるイグニたちを見つけてほっと息をはき出した。そして、対戦相手に向き直る。だが、そこには先程のような緊張は浮かんでいない。
「試合開始!」
教師が開始の合図をすると同時に、エスティアが何らかの魔術を発動。
刹那、巨大な岩の塊が地面から突き出すと対戦相手を巻き込んでその場で停止。
しばらくして、対戦相手のギブアップが宣言された。
「……え。もう、終わり?」
ぽつりとユーリが漏らす。
その様子を見ていたイグニはしっかり頷いた。
「みたいだな。流石はエスティア」
勝負にならない、というのはきっとこのようなことを言うのだろう。
圧倒的な火力で、圧倒的な才能で、凄まじい速度で試合を終わらせてしまう。
エスティアは魔術を解除すると、対戦相手とともに一礼し試合終了。
そして、その足でまっすぐイグニの元に走ってやってきた。
「いっ、イグニさん。いらしてたんですね!」
「応援しにきたんだ。初勝利おめでとう」
「あ、ありがとう……ございます……。まさか、イグニさんに来てもらえるなんて……。それに、ユーリさんも」
「あはは。ボクたちも試合がすぐに終わっちゃったからね」
「あ、そうだったんですね。さっきはびっくりしちゃいました。てっきり、イグニさんたちは試合中かと……」
ちなみにだがイグニたちのクラス対抗戦の試合もかなりのハイスピードで終わっている。だが、他のクラスが一試合にどれくらいの時間をかけているのか分からないので、イグニたちはそれに気がついていない。
「イグニさん、これから何か予定はありますか……?」
「友達を応援しに行こうかと思って」
「わっ、私もご一緒してもいいですか?」
「ああ。もちろん!」
応援は数が多ければ多いほど力になるというものだ。
断る理由も存在しないのでイグニは快諾。
エスティアは恥ずかしそうに「ありがとうございます」とつぶやいた。
「あ、イグニ。いた」
ふと、そう声を掛けられて紫の髪の少女がやってくるとイグニの膝の上に座った。
「おう、サラ。今日は起きるの遅いな」
「ううん。起きてた。でも、中々出てこれなくて」
サラはそう言ってイグニを見た。
出てこれない、というのはサラが住んでいる部屋からだろうか?
イグニは首を傾げた。
サラはロルモッド魔術学校の地下に住んでいる。それは彼女の魔力が暴走したときに、辺り一帯を『魔王領』にしてしまわないためであり、そのために学校側が力を入れているのだ。
だが、あれは入る時にはセキュリティゲートをくぐる必要があるので面倒だが外に出る時には必要なかったはずだが。
「なんかね。騎士団? って、人がたくさんいるの。それでね、出る時に色々聞かれたの」
「騎士団? なんで騎士団?」
「分かんない。でも、守るためって言ってた」
はて? 何から何を守るのだろうか?
イグニはさらに心の中で首をかしげる。
確かにロルモッドの地下では数多くの実験を行っている。
だから、たしかに多くの機密が含まれているのでそれが外に漏れないようにする必要性は分かるのだが、だとしても今までは学校だけでセキュリティが上手く行っていたはずだ。そこに騎士団が入ってくる必要性は何なのだろうか。
「それでね。今日ね、見てくれた人がね。イグニによろしくって言ってたよ」
「俺に? どんな人だ?」
「ハウエルって人」
……あいつかよ。
そういえば騎士団だったなぁ、とイグニは回想。
ぶっちゃけ男だったので忘れていた。
「わっ。イグニ! もう次の試合が始まるよ!」
「うおっ! 急ぐぞ!!」
イグニはサラを抱きかかえると、そのまま駆け出した。