第6-9話 対抗戦と魔術師
甲高い音とともに、個人対抗戦の開始の合図が鳴らされる。
それをイグニは関係者席から見ていると、ミコちゃん先輩が絡んできた。
「よう、イグニ。どうだ? 初めての対抗戦は」
「凄いですね。お祭りじゃないですか」
「学外からも集まるからな。実質的にお祭りみたいなものだ」
そういってミコちゃん先輩はちょうど目の前で戦っている2人に視線を向けた。
その周りでは観客たちが静かにその戦いを見ている。
だが、その人数は少ない。観客席も用意してある分が全て埋まるということはなくまばらだ。
「でも、人は少ないんですね」
「個人戦はあちこちでやってるからな。イグニもトーナメント表は見てるだろ?」
イグニが頷くと、ミコちゃん先輩は続けた。
「やっぱり、学外で有名なやつは観客もたくさん来るよ。今だと2年のフレンダのところにいるんじゃないか?」
「え、今フレンダ先輩が戦ってるんですか?」
「そうだぞ。そうか。お前は『大会』で一緒だったな」
「はい。準決勝の相手でしたよ」
「2つ名を持たずに準決勝まで上り詰めたやつだからな。有名だぞ」
「なるほど……」
イグニはそういって、自分の名前が記されていないトーナメント表を見た。
いや、厳密に言えば記されている。
それは、最終戦。
1年生の個人対抗戦で勝ち抜いた者が最終的にイグニと戦うのだ。
「だとしたらやっぱり、対抗戦の終わりが近いほど人がたくさん来るんですか?」
「そりゃな。出店も多くでるぜ? 楽しみにしとけよ」
「今はまだ少ないですもんね」
そういってイグニはロルモッドの入り口付近に構えられた出店を見た。
ちらほらと客もいるようだが、そこまで多くの人数がいるわけではない。
「ま、今は雑魚も戦うからな。見応えがない試合を見ても楽しくないだろ?」
「シビアですね」
「強くなりゃ良い。簡単な話だよ」
ミコちゃん先輩は何でも無いようにそう言って、笑った。
それは確かにロルモッドのあり方としてはひどく正しい。
どこまでいっても実力主義のこの学校では、強い方が正しいのだ。
そして、それは学外に出たときも同じである。
ロルモッドを卒業するということは、魔術師になるということである。
それは、騎士団の中で魔術師になるということもあれば、どこかの貴族に抱えられるのかも知れない。もしくは、村や里の中で用心棒として過ごすかも知れない。
だが、そのどれに置いても実力が物を言う。
ふとすれば死んでしまうかも知れない中に晒されるのが魔術師だ。
そこで自分の命を救うのは、運と実力しかないのだから。
「それに、腐ってもウチは名門だからよ。こうして魔術師のレベルの高さをアピールしておくのは必要だぜ? じゃなきゃ、入学生が減っちまうかも知れないからよ」
「入学生が減る……。そんなこともあるんですね」
「ああ。名門であり続けるには、アピールは欠かせないのさ」
ミコちゃん先輩はそう言うと、ふとイグニの方を見た。
「それにしても、よくあのエスティアを説得できたな。やっぱりお前のファンだからか?」
「いや、それは関係ないと思いますよ? 俺の場合は、交換条件でしたから」
「ありがとな。助かったぜ」
ミコちゃん先輩に 素直にそう言われて、イグニは少し照れた。
「イグニ。時間ですよ」
「ん。もうか」
一緒に観覧していたリリィにそう言われて、イグニは席を立つ。
「お。そろそろクラス対抗が始まるか」
「そうなんです。じゃ、俺たちは先にフィールドに向かうんで」
「初戦はどことやるんだ?」
「B組ですよ」
「頑張れ。後から見に行くよ」
「ちゃんと活躍するから、しっかり見ててくださいね」
「言うじゃねえか。生徒会メンバーはそうじゃねえとな」
イグニの大口を軽く流して、ミコが笑う。
ということでイグニは離席すると、会場に向かった。
初戦の相手となるB組と戦うのは『荒野』フィールドだ。
イグニが『ファイアボール』でぼっこぼこにした地面のところである。
「良いか、みんな。今回の3つの旗を奪い合うルールでは、当たり前のように旗を奪う人間と守る人間の配置が必要になる」
クラス対抗戦が始まる直前。
控室において、指揮を取るのはエドワードだ。
「もう班分けは知ってると思うが、僕たちのクラスは守りを重視した堅い戦略でいく。旗は取られないと負けることはないからな!」
そういって30人クラスの中で1つの旗に対する守りが7人という超防御型の布陣をエドワードがホワイトボードに指し示す。
「各チームはそれぞれの旗を維持すること。攻撃班は6人。どこから狙うか案はあるか?」
エドワードが攻撃担当の班員に聞くと、攻撃班のリーダーがうなずいた。
「うん。B組はきっと、お手本のように1つの旗を狙ってくると思う。だから、私達は狙われる旗の反対側から攻めようと思う」
「ということだ。それぞれ班を分けているが、班長は定期的に僕に情報を飛ばしてくれ。僕がそこから指示を飛ばす」
イグニはそれを聞きながら、自分の周りにいる2人を見た。
攻撃班1つに防御班3つ。
だが、それでも合計は27人にしかならない。
それらの班には所属せず、自由に動く遊撃班こそ。
「最後になるが遊撃班は状況を踏まえて自由に動いてくれ。正直、僕の手には余るんだ」
イグニ、アリシア、イリスの3人で構成された超機動力重視の部隊である。
「任せろ」
イグニがそういうと、エドワードは深くうなずいた。
彼は貴族の出身で、昔からこういった指揮の訓練を積んでいる。
だからこそ、彼がクラスのリーダーになるのに異議を唱える者はいなかった。
それに、イグニも状況を判断しながら群体を動かすよりも状況を見ながら自由に動く方が慣れているし上手く動ける。
適材適所というやつだ。
「班長は魔導具を耳につけたか?」
イグニはそっと自分の耳を触る。
そこには小さなインカムが装着されており、
「これは、僕の声をみんなのところに届ける。使い方は前にも説明したと思うが、魔導具に指を当てて喋れば良い。『ほら、聞こえるだろ?』」
イグニの耳に、エドワードの声が二重に届く。
「基本的に、僕以外の班長の声は僕にしか聞こえないようになっている。何かあれば全体チャンネルに合わせてくれ。使い方は前に教えたとおりだ」
その時、開始10分前を知らせる音がなる。
「開始だ。みんな、勝つぞ!」
エドワードの声に、全員が腕を上げた。