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第6-8話 ”万”と魔術師

 訳の分からない流れのまま、エスティアと模擬戦をすることになったイグニは裏庭に出た。エスティアの家は王都の中でも端の方にあり、かなり開けた裏庭がそこにあった。

 

 これだけあれば、十分動いても問題なさそうだ。


「……見学もいるけど、大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫だと、思います……」


 ちらりとイグニが視線を家の方に向けると、そこには4人の少女たちが顔を覗かせていた。次女のリタに三女と四女の双子コンビに五女はまだ小さく、三女に抱きかかえられていいた。


「多いんだな」

「う、うん。お母さんが1人で育てて、くれてるんだ」

「凄いな。その、お父さんは?」


 聞いても良い質問か分からなかったので、恐る恐るイグニは尋ねたのだが、彼女は少しだけ悲しそうな顔を浮かべて、


「お父さんは……。冒険者だったけど、死んじゃったの」

「……悪い」


 そう、言った。


 冒険者の死亡事故は珍しいものではない。

 むしろ、傭兵や魔術師と比べても遥かに高いといえるだろう。


 街のなんでも屋でもある冒険者たちは何かと駆り立てられることが多い。

 そのため、とにかく無理難題を押し付けられるのだ。


「ううん。大丈夫。あと、2年したら私がちゃんと働くから」

「しっかりしてるな」

「そ、そんなこと、ないです……」


 顔を赤らめてそっぽを向くエスティア。可愛い。


「じゃあ、やるか」

「はい!」


 イグニとエスティアは互いに距離を取る。

 そして、お互いの目を見た。


「ルールはどうする?」

「先に相手に触れられた方が負け、は、どうでしょう?」

「ああ、良いぜ」


 イグニの承諾によって、お互いがそれぞれ構えた。


「リタ。合図して」


 エスティアからそう指示を受けて、そっとこちらを見つめていたリタは「う、うん!」と元気に答えて手を上げた。


「はじめッ!」


 そして、お互いに地面を蹴った。


「『装焔イグニッション』」


 イグニはまず詠唱。

 自身の周囲に魔力を込めた『ファイアボール』を5つ生成。


「『ウォーター・ウィップ』」


 イグニが前方に蹴ったのに対して、エスティアが地面を蹴ったのは後ろ方向。イグニから距離を取るようにして、飛ばしてきたのは水の鞭。


「『発射ファイア』」


 だが、イグニはそれを見てから迎撃。

 こちらに飛んでくる鞭を見事に撃ち抜いて、身体を滑り込ませる。


「『風は暴れてヴェントス・テンペスト』」


 轟!!


 音を立ててイグニの周囲に猛風が吹き荒れる。だが、イグニは既にエスティアの直上に移動していた。


 魔力の熾りを見ることのできるイグニにとって、魔術の先打ちなど意味をなさない。

 それらは全て、発動前に()()()回避できるからだ。


「『装焔イグニッション狙撃弾スナイプ』」


 キュル、と音を立ててイグニの後方に展開された『ファイアボール』が回転する。

 それはエスティアの立っている地面に狙いが定められると、


「『発射ファイア』ッ!」


 連続で発射!!


「『大地は起きて(テツラ・アウェイク)』」


 だが、直前のエスティアの詠唱によって、地面から盾が出現するとそのままイグニの『ファイアボール』を全て防御!


「『大地は捻れて(テツラ・トルクエント)』ッ!」


 そして、エスティアの叫ぶような詠唱。

 起き上がった地面から鋭い槍がイグニに向かって飛んでいく。


「『迎撃ファイア』ッ!」


 だが、イグニはそれに『ファイアボール』を合わせると見事に打ち払った。


「……流石だな」

「つ、つよい……です」


 戦闘中の一呼吸。

 お互いに手合わせしてみてから分かる、その実力。


「聞かせてくれ。どうして、最初に距離を取ったんだ?」

「き、聞いていたんです。エリーナさんから。い、イグニさんと最初に戦った時に……気がついたら、剣を抑えられてたって」


 それは、最初の手合わせのときだろう。

 ミラ先生の指示によって、エリーナと戦わなければならなくなった時の初戦だろう。


「そ、それに。他の、戦いを見てても。イグニさんは、反射神経が良いんです。それに、動きも……すっ! 素早い、から。まずは全体を見るように後ろに飛び、ました」

「……凄いな。その戦い方は、誰かから教わったのか?」


 自分のことを知っていなければ取れない戦法とは言え、よく研究している。


 イグニはエスティアの話を聞きながら、そう判断を下した。


「いっ、いえ。生まれつき、です」

「なるほど。天才ってやつだな。エスティアは」


 なんの惜しみもなく、心からの賞賛をエスティアに送る。

 それは、イグニには無かったもの。


 だが、後天的に取得したものでもある。


「それにさっきの戦い。状況に応じて魔術の属性を切り変えるなんて、そんな判断がもうできるんだな」

「れ、練習しました!」


 胸をはって、そう答えるエスティア。


 彼女の行っていることは常人ではまず出来ない。

 普通の人間は、まず最も“適性”のある属性を伸ばす。


 アリシアや、ユーリのようにまず得意属性を一本決めてそれを伸ばしつつ他の属性はあくまでも補助的に使うのがセオリーなのだ。


 だが、彼女は違う。

 生まれついて、全ての属性の“適性”がA超えという驚異的な才能を持ちながら、その全ての属性を一級品まで磨きあげた実力がある。


 “よろず”のエスティア。

 かつて、“万能”の二つ名を持った勇者おとこがいた。


 彼女の2つ名はそれが由来である。


「なるほどな。じゃあ、再開するか」


 エスティアの実力は分かった。


 イグニは静かに腰を落とすと、魔術を始動。

ジリッ、と音を立ててイグニの足が地面から浮かび上がる。


 数千、数万の『ファイアボール』を足の裏に展開することで自らの身体を浮かび上がらせ空中を三次元的に動き回る『装焔機動アクセル・ブート』。


「『装焔イグニッション』」


 そして、魔術を使って……。


 ドンッ!!

 凄まじい勢いで空中を駆け出した!!


「『爆発ファイア』ッ!」


 そして空中で『ファイアボール』を起爆ッ!

 爆発によって生じた爆炎と爆風によってエスティアの視界の全てを奪う!!


「……ッ!? イグニさん!!?」

「ここだよ」


 ぽん、とエスティアの肩にイグニの手が置かれる。

 決着である。


「す、すげー!!」


 終わった後、両者を包む心地よい疲労感を打ち破るようにリタが声を上げた。


「いっ、いまのどうやったんすか!? あれも『ファイアボール』ですか!!?」

「ああ、そうだよ。というか、俺は『ファイアボール』しか使えないんだ」

「えッ!? そ、そうなんですか!? なのに“極点”たちと戦ったんですか!?」

「俺は『術式極化型スペル・ワン』だからな」

「かっけぇぇえええ!!!」


 リタの絶叫が響き渡った。



全然関係のない話なのですが主人公のことが好きすぎてみんなに嫌われるように悪評を流しながら、表では主人公の良き理解者になってどっぷりと自分に依存させていくヒロインって良いと思いませんか?

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[一言] 孤立誘導型ヤンデレですと!? またまたニッチなものを…大好きですよそりゃ!
[良い点] ヤンデレ大好き!!いや、その場合はメンヘラか? [一言] 依存エンドも良い、良いけど!! 依存させようとするヒロインの対立として、主人公の魅力を知る身勝手でない優しさを知るヒロインを出して…
[良い点] イグニが努力の人だとわかるところ [一言] ふむ、そのタイプは好機と見計らうとぐいぐいいくタイプなんだけど不意打ちで恥ずかしがっちゃってポンコツを発生させると思います。勝手な感想です!?そ…
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