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第5-26話 ボスと魔術師

迷宮主ボスが現れました」


 青ざめた表情で騎士がイグニにそう伝える。


「本当ですか!?」


 思わずイグニも騎士を激しく問い詰めた。


「え、ええ。今その連絡が入りました」

大氾濫スタンピードが起きたダンジョンは何階層ですか」

「……75階層です」

「厄介なのが出たな……」


 ダンジョンのモンスターは、出現する地下迷宮ダンジョンの階層に依存する。深層であればあるほど、モンスターは強くなるのだ。


 初心者冒険者たちが主な狩場とするのは1~15階層。

 中級冒険者たちが主な狩場とするのは16~30階層。

 上級冒険者たちが主な狩場とするのは31階層以降となる。


 ここからも分かる通り、上級冒険者の実力というのは上級という括りの中でも大きく分かれており、50階層以上の地下迷宮ダンジョンを主として狩場にする冒険者のことを超上級と呼称することもあるのだ。


 だが、今回出現したのは75階層の階層主ボス


「倒せるのか!?」

「……倒して見せますよ」


 イグニの問いかけに乾いた笑いを浮かべる若い騎士。

 そうだ。彼らには、それ以外の選択肢は最初から許されていない。


「……ここは俺だけで良い。加勢に行ってくれ」

「ご尽力、感謝いたします」


 若い騎士はイグニに敬礼すると、そのまま走って南に向かった。

 階層主ボスが帝都に到着するよりも先に、倒すためだろう。


「い、イグニ様。75階層の階層主ボスって……。その、倒せるんですか?」

「……どうだろうな。75階層の階層主を倒せるならSランク冒険者は確定だろうし、下手すると“極点”クラスが出張るような敵だからな」


 この世で最も深い迷宮ダンジョン地下監獄ラビリンスの99階層であるが、75階層というと世界で2番目に深い地下迷宮ダンジョンとなる。


 そんな最奥から階層主ボスを引っ張りだしたとなると、相手は並大抵の人間じゃない。


「……“咎人”、か」


 地下監獄ラビリンスを作るときも、当時の“極点”たちが三日三晩かけて最深部に潜り完全にダンジョンを手にしたという。75階層というと地下監獄ラビリンスほどではないが、普通の人間では潜ることすらも出来ない深部。


 間違いなくこの1件、“咎人”たちが絡んできている。


「ど、どうしてこんなことを?」

「さぁ? 考えたって答えは分からない。“咎人”の考えてることは意味不明だからな」


 セリアと話した時に体感したことをイグニは口にする。


 国を盗ってもモテるわけがないし、魔王になったってモテるわけがない。

 それなのに、()()()()()に執着する彼らのありようは、イグニには理解が出来なかった。


「だから、俺たちは俺たちのするべきことをしよう」


 階層主ボスが帝都に迫ってきているとはいえ、イグニがアリシアの側を離れるわけにはいかない。


『――WoooooOOOOOO!!!!』


 遠く、南方の果てから地獄の窯を開けたような遠吠えが聞こえて来た。


「きゃあっ!」


 怖がったイリスがイグニに抱き着く。何やら段上から舌打ちが聞こえて来たような気がしないことも無いが、それよりもイグニは目を凝らして声の方向を睨んだ。


 当然、イグニたちが居る場所は市壁に囲まれた帝都の中である。壁の向こうなど、見ることは出来ない。


 だが、それでも魔力の熾りは見ることが出来る。


 南東。ダンジョン方面に巨大な魔力が1つ。

 それを取り囲むようにして、中ほどの魔力が3つ。


 だが、その内の1つが大きく揺れたかと思うとふっと消えた。


 死んだか、あるいは気絶したか。

 状況はお世辞にも良いとは言えなかった。


「……アリシア。みんなを避難させろ」

「何が起こってるの?」


 騎士から何も知らされていないアリシアは困惑。

 イグニは状況をかいつまんで説明すると、彼女はそれらを咀嚼するためにぎゅっとその綺麗な瞳を閉じた。


 そして、ゆっくりと開いた。


「分かったわ。帝都の北に冒険者ギルドの支部があるから、そこに避難させましょう。私たちもすぐに城の中に戻れるように指示するわ」

「頼んだ」


 アリシアは側に控えていたセバスチャンを呼び出すと、イグニから受けた説明と自身の判断を合わせて説明。執事はそれを無言で受け取ると、近くにいた騎士たちにすぐに指示を出し始めた。


 ……これでアリシアたちの安全を確保したまま、城の中に入りこめる。

 そうすれば、後は“咎人”を全員で迎え撃つだけだ。


 アリシアの指示が通り馬車が城に向けて走り始めた瞬間、市壁が()()


「お、おい壁が!」

「何があったんだ!?」

「何だあの炎……」

「どうなってるんだ!!」


 市民が口々に叫ぶ。


 それはただ燃えているのではない!

 通常ではあり得ない、()によって市壁が燃やされ熔かされていく!!


「……黒炎っ!?」


 それは、ハイエムから話を聞いた“咎人”。

 竜の住処に手を出して、そして追い出した魔法使い。


 刹那、市壁が爆発!

 壁が崩壊した瞬間、そこから溢れんばかりのモンスターたちが帝都に侵入してきた!!



「……ッ! やりやがったッ!」


 そして、帝都の中が大混乱に陥った。

 モンスターたちから逃げるため、市民たちが一斉に北に逃げ始めたからだ!


「押すな馬鹿!」

「お前が邪魔なんだよ!!」

「モンスターがこっちに来るぞ!!」

「逃げろっ!!!」


 もうこうなってしまっては、指示が通らない。

 誰の声も通らない。


 アリシアを守りながら、少しでもモンスターの数を減らそうとイグニが崩壊した壁の方を向いた瞬間、イグニは気が付いた。


 気が付いて、しまった。


「……階層主ボスッ!」


 先ほどまで、騎士たちが止めにかかっていた75階層の階層主ボスモンスターがそこに立っていたのだ。


 体長はおよそ5mほど。

 いかつい巨躯の手には大きな鉈が握られており、全身に真っ赤な返り血が付いている。


 大きな角と、その下にある牛の頭。

 あり得ないほどの筋肉質な身体と、その全身からあがる蒸気が彼の異様さを際立たせていた。


「……ミノタウロス」


 迷宮の階層主ボスに相応しい恰好で、そのモンスターがそこにいた。

 そして、イグニがそれを見たのと同じように、それも同じくイグニを見た。


「イグニ!」


 ドンッ!!!


 という、砲弾じみた音と、アリシアがイグニを呼んだ声はほぼ同時。


『――Ah』


 イグニの目の前にはミノタウロス。

 その長距離を一瞬で詰めたのだと、イグニが認識した瞬間。


 ……ミシリ、と腕が鳴った。

 咄嗟にイグニがクロスした両腕に、3mはありそうな鉈が食い込む。

 

 『熾転イグナイト』によって両腕を強化しているからこそ耐えられた一撃。

 だが、


『――FOOOOO!!!』


 ミノタウロスは大きく踏み込んで、イグニの身体を吹き飛ばしたッ!

 さらに追撃と言わんばかりに、ミノタウロスは地面を蹴ってイグニに追随!!


 この場の最も強者を見抜き、それと戦うことを楽しんでいる!


「『装焔イグニッション』ッ!」


 しかしイグニも既に臨戦態勢。


 展開された『ファイアボール』に光が籠って、


「『爆発ファイア』」


 戦いの火蓋が切られた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 舌打ち皇女 モテ過ぎるのも考え物なのかもしれない
[良い点] 俺は''性''の魔法使いだ、世間からは''変態紳士''と呼ばれているそして俺の使える魔法は '' 男の娘の奇跡''(半径1キロ以内の全ての生物をユーリにする) ''幼女の奇跡''(自分の周…
[良い点] 1:さすらいの梅:21/05/18(火)22:38:42 斧じゃなくて鉈持ってるミノタウロスとか珍しくて草 [気になる点] 2:蜂蜜梅:21/05/18:(火)22:40:03 ↑…
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