第5-22話 猫と魔術師
「守るって……どういうことだ?」
イグニの問いかけに、黒猫の瞳がイグニを貫く。
『あまり大きな声で言えるような内容では無いから、ここで言うことは他言無用にしておいて欲しい』
「なら、もう少し路地裏に入るか? それなら人通りも……」
イグニたちがいるのは大通りの端。
確かに人の意識には触れづらい所ではあるが、だからと言って全ての人間の視線から逃れられるわけではないだろう。
『いや、既に簡易的な結界を張っている。ここにいるのが分かるのは、私たちとお前たち3人だけだ』
流石は“生”の極点。準備が良いにもほどがある。
ここでいう大きな声、というのは周囲に言いふらすなということだろう。
『まず、端的に話そう。王国と帝国は“咎人”たちから同時期に宣戦布告を受けている』
「……ん!!?」
話し始めたセリアが何でもないように言った事実にイグニは硬直。
イグニだけではなく、ユーリも口をぽかんと空けて黒猫を見た。
唯一、状況が分かっていないであろうサラだけが首を傾げた。
『各国の“極点”たちは守りに入っているが……私にはやるべきことがあって帝国に戻れない。故に、私が戻るまで帝都の護衛を頼みたい。皇帝の生誕祭は皇族が集まる。“咎人”にとって格好の餌食になるだろう』
「……じいちゃんは?」
そういえばルクスは何をしているんだろうと思い、イグニが尋ねると、
『“極光”は仕事中だ』
「え、あのじいちゃんが!?」
『お前はルクスを何だと思っているのだ』
いや、仕事とか嘘でしょ。適当なこと言って女遊びしてるだけでしょ。
だって俺のじいちゃんだぞ……。
と、心の中で思いながらもイグニは続けた。
「帝都の護衛の件なら任せてくれ。セリアが戻ってくるまで守れば良いんだな?」
『ああ。何も無いのが一番だが、しかし宣戦布告から今の今まで向こうからのアクションが無い以上、時を伺っていると考えられる。そして、次に控えているのは生誕祭だ。向こうもその時を狙っているだろうな』
「そこまで分かっていて、戻れないのか?」
『そうだ、手が離せない仕事がある。帝国に迫っている“吸血鬼”たちの討伐だ。私以外では【地】か【光】の極点でないと対処できないだろう』
吸血鬼と言えばドラゴンと並ぶ最強種。
その恐ろしさはかつての『魔王』が使った魔法にも近しい不死の魔術にある。
とはいっても吸血鬼たちが使うのは魔術であるため、『魔王』のように無制限に吸血鬼たちが増え続けるわけでは無い。ただ、彼らに血を吸われ、また血を分けられた者が吸血鬼となる。
故に、鼠算式に増加する。
『故に私はそちらに帰れない。恐らくこれも、“咎人”たちが仕組んでいる』
「何のために?」
『快楽主義の奴らのことだ。深い理由なんて無いだろうよ。“国を盗ったら面白い”、そんな理由で国落としにかかっているんじゃないのか?』
イグニは“咎人”の思考の意味が分からず震えた。
そんなことをしてもモテないのに。
『だから、奴らはこの国に魔法使いが居ないと思っている。それが、チャンスだ』
だが、セリアはそんなイグニの考えなど露も知らず、つづけた。
「……俺があいつらの考えてない伏兵になると?」
『そういうことだ』
「……分かった。やろう」
モテの作法その5。――“女性が困っていたら助けるべし。女性から助けを求められたら絶対に助けるべし”だ。
『すまない。報酬に関しては後で話そう』
黒猫はそういうと、大きく伸びをした。
「あ、あの。セリアさん」
『ん? ユーリか。どうした?』
話の終わりを察したユーリがセリアに尋ねた。セリアで良いと言われたのに、さんを付けるとはユーリの性格の良さが伝わってくる。
「その魔術、どうやっているんですか? 使役系の魔術ですか?」
『いや、そこまで難しい魔術ではない。ただ、私の人格をコピーして話すべき内容を猫の海馬に埋め込んだだけだ』
「……え?」
『猫の声帯は人の声を喋るようにはできていないので、そこも私の魔術でどうにかしている』
「それって、難しく無いんですか……?」
『死んだ命を再現するよりは、はるかに簡単だ』
比較対象おかしいよ……と、ユーリが呟くのをイグニは聞き逃さなかった。
ちなみにイグニも同じことを考えていた。
『ん、どうした? 猫の様子が気になるか? それに関しても問題はないぞ。私の記憶と猫の記憶は交わらないようにしている。そうしないと、私にも猫の記憶が混ざるからな。だから、私の魔術が消えれば猫に戻る』
「……そ、そうか」
『では私はこれから城に向かう。セバスチャンにこのことを伝えねばならんからな』
「分かった。送っていこうか?」
猫になったとは言え、セリアは女の子だ。
だからイグニはそのように提案したのだが、
『ふははっ! イグニは相変わらず面白いな』
何故だか笑われてしまった。
『こっちの姿の利点は身軽に動けることだ。心配は要らんよ、イグニ』
「そうか」
『うむ。ではな』
セリアはそういうと、ぴょんと廃材の上を飛び跳ねて建物の屋根に上がって、そのまま消えた。
「猫ちゃん。喋ってた」
「ああ。あれは俺たちの知り合いだよ」
最初に口を開いたのはサラ。
3人の中で唯一セリアを知らない彼女には、イグニたちと普通に喋る猫が奇怪に映っただろう。
「イグニ、友達?」
「え、うん。どうだろうな……?」
セリアと友達か、と聞かれると何とも言えない関係だ。
前に脚斬られたよ、とは流石に言えないし。
「サラちゃん。あれはアリシアさんのお姉さんだよ」
「そうなの?」
「あってるよ」
「そっか」
それ以外に説明のしようも無い気がするので、イグニはユーリの説明に頷いた。
「知り合いなら、触りたかった」
「猫?」
「うん」
相手が“極点”だと知っていたら出てこない発想だが、サラからするとそんなものなのだろうか。
「今度あったら触らせてもらおうな」
「うん!」
サラは上機嫌に頷くと、イグニたちと一緒に帰路についた。
そして時は翌日。
生誕祭前夜へと、飛ぶ。
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