第5-06話 再開と魔術師
「ここは皇族が大好きなお菓子屋さんだよ。特に第3皇女のアリシアがお気に入りなんだ」
「へー。アリシアが」
中に入ると色々なお菓子を売っているようで、イグニも色々と目移りしてしまう。
皇族御用達ということで、中にはかなりの数の客がいた。
数多の人種を抱えている帝国らしく、ドワーフや獣人など多くの人々が店内にいた。
「なぁ、ユーリ。アリシアになんか買っていかないか?」
「そうだね。アリシアさん、何が喜ぶかな」
そう言って2人でお菓子を見ていると、後ろにいたエリィが納得の声をだした。
「あ、そっか。君たちはロルモッドの生徒だもんね。アリシアとも面識があってもおかしくないか」
「そうだな。友達だ」
「へー。あの“颱”のアリシアに友達かあ……」
「ん? 友達いないのか?」
「彼女はどんな時でも笑顔1つ浮かべないことで有名だよ?」
「そうなのか? 普通に笑ってると思うが」
「それはそれだけ君たちに心を許してるってことだよ」
「それは嬉しいな」
と、口では軽く言いながらも心の中では大喜びのイグニ。
「イグニ。これ欲しい」
「ん? ああ、クッキーか」
1人離れてお菓子を見ていたサラがそう言って、お菓子を指さす。
それを見て、イグニはふと思いついた。
「クッキーとかどうだ? 日持ちも良いし」
「うん。そうだね。でも今買うの? アリシアさん、いつ学校に戻るか分からないから帰るときに買うくらいで良いんじゃない?」
「それもそうだな。なら、いくつか買って味見しておかないか? 美味しいものを買っていった方がアリシアも喜ぶだろう」
「そうだね。どれにしよっか」
「これが良い!」
そう言ってサラがピンクのクッキーを指さす。
「じゃあ、これとこれ……。あと、これもお願いします」
イグニはそう言って店員に注文すると、すぐに用意を始める。
支払いまで暇なので、ぼーっと店の中を見ていると見慣れた大きな帽子があった。
あれはアリシアがいつも被っている魔女帽子だ。
「帝国でも魔女帽子はつけるんだな」
と、イグニはもらす。それにエリィは頷いた。
「うん。やっぱり“賢しき”アリアの知名度は帝国でもすごいよ」
それは生き残った“勇者”のパーティーメンバーにして、唯一国を作らなかった魔女。
彼女が体系化した魔術理論は今の魔術の基幹を担っていると言われており、まさに賢者と呼ばれるにふさわしい魔女。彼女が被っているトレードマークである魔女帽子は、やはり剣聖や勇者のように幼子の憧れだ。
優れた魔女になるためにはあの大きな帽子を被って、静かに魔術に集中しなければ……なんてことを言われるのは魔術師ならば誰でも通る道である。
やっぱり“勇者”パーティーは知名度が違うな……なんて、考えていると隣にいたエリィがにやっと笑った。
「ちょっとイグニ。こっち来て」
「え、なになに? あ、ユーリ。支払い頼む」
急にエリィに腕を引っ張られて、イグニは困惑。
でも、女の子に手を握られて嫌な気持ちなど当然しないので、彼女に引っ張られるまま魔女帽子を被った少女に近づいていく。
砂糖菓子を前にして、にらめっこをしている少女の後ろにエリィは立って、ちょんと少女の肩をつついた。しかし、少女は熱心に見入っておりこちらに気が付かない。仕方ないので、エリィがもう一度肩をつつくと、
「……何?」
酷く低い声で少女が後ろを振り向いて……その顔が驚愕に染まった。
しかし、染まったのは少女だけではない。
それを見ていたイグニも同じように固まって、
「い、イグニ!?」
「アリ……むぐっ!」
アリシア!? と、言おうとした瞬間、真横から手が飛んできてイグニの口をふさぐ。
「こんなところで大声出したら目立っちゃうでしょ」
「い、いや。そうは言っても」
エリィの言葉にイグニは頷かざるを得ない。
しかし、驚きにストップはかけられない。
皇族がこんなところに1人で来て良いの?
という疑問がイグニの中に巣食ったまま、アリシアが口を開いた。
「な、なんでイグニがここに? というか、この女だれ?」
「だーれだ」
帽子を深くかぶって、顔をばれないようにしているアリシアは、同じようにフードを深くかぶって顔を見えなくしているエリィの顔を覗き込んで、
「えッ!? お、お姉さま!?」
「大せいかーい」
そして、驚いた。
「お姉さま?」
イグニが聞き捨てのならない単語を拾うと、
「うん。そうだよ。詳しくはこっちでお話しようっか!」
エリィはそう言ってニコッと笑って、アリシアの手を取ったのだった。
――――――――――
「私の名前はエリナ・エスメラルダ。もう言わなくても分かると思うけど、エスメラルダ帝国第2皇女。そこのアリシアのお姉さん」
喫茶店に5人が円を描くように座った中、エリナがニコニコしながら言葉を紡ぐ。
「いつも城にいて暇だから、時々冒険者として帝都の中で遊んでる。質問ある?」
「その……良いのか? 外に出ても」
エリィ改め、エリナにイグニは尋ねる。
「うん。やることやったらね」
「やることって……?」
「稽古とか、勉強とか」
エリナの言葉にイグニは『なるほど』と頷いた。
「で、なんで2人も揃って外出してんの……?」
イグニの口から紡がれたのは至極当然の疑問。
「ん? 決まってるでしょ。暇だったからだよ」
「暇って……」
「セリアお姉さまはどっか行ってるし、普段口うるさい爺やたちはドラゴン討伐で大忙し。だから、普段やることも今は無いの。生誕祭なんて毎年やってるから、今更リハーサルすることも無いしね」
と、エリナがよどみなく答える。
ちらり、イグニがアリシアを見ると、
「わ、私も同じよ。次はこっちが質問。なんで、イグニたちがここにいるの?」
「連れてこられたんだよ」
「誰に?」
「じいちゃん」
「……ルクスさん?」
「そう」
イグニの答えにアリシアが疑り深く問いかける。
「あれ? じいちゃんが帝国に来たってこと知らないの?」
「知らないわよ。聞いてないし」
「そうなんだ……」
古い知り合いが誰だか知らないが、わざわざルクスが帝国に足を運ぶほどだったので、てっきり知り合いとは皇族の誰かなのかと勝手に思っていたイグニだったが、それをアリシアが知らないと言っていたので当てが外れた。
そもそも“極点”は国家が保有する兵器。
勝手な移動は慎むべきなのだが、それを聞く相手なら貴族から追放されてないわけで。
「“極光”の話はいったん置いておいて」
アリシアが話を元に戻す。
「イグニにお願いがあるの」
「俺に?」
アリシアがイグニの目を見ながら、気楽に、気軽に言う。
彼ならば任せられると言わんばかりの期待を込めて、
「ドラゴン倒して欲しいの」
「良いよ」
無論、最強はそれに応える。
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