表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~【漫画3巻発売中!】  作者: シクラメン
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/281

第4-25話 理不尽と魔術師

 イグニが花火……に見せかけた『ファイアボール』を打ち上げると、すぐに近くから花火があがった。ということは、そこに3人がいるということになる。


 イグニはユーリを抱きかかえて『装焔機動アクセル・ブート』。

 空中を直線で移動すると、3人が待っている場所にたどり着いた。


「……うーわ」


 エリーナたちのところにたどり着いたユーリが漏らしたのは、何とも言い難いドン引きの声だった。


 かつて木々があった場所は焼け野原となっており、さらに奥にあった周囲の木々は鋭利な刃物で切断されたのか半径100mほどが、すっぱりと斬られている。


 周りを見ると、3人を子供たちが取り囲んではいたものの、一歩も踏み込めないで遠方から見ているだけ。


 エリーナたちは、その中心部で周囲を警戒しながらイグニたちの到着を待っていた。

そこに着地したイグニはユーリを放す。


「わわ……っ」


 少し驚いたように地面に着地したユーリは、イグニ以外の3人の顔を見た。


「……みんな、来てくれたんだ!」

「当たり前だ、ユーリ」


 エリーナが納刀しながら、ほほ笑んだ。


「私たちは友達だろ?」

「そうだよ! ユーリちゃん! それに、これをどうにかするために来たんだから、もっと私たちを頼ってくれてもいいのに!」


 エリーナとラニアの励ましに、ユーリはほほ笑む。


「ありがとう。みんな」


 そんなユーリを励ますように、そっとイグニはユーリの肩に手を置いた。


「無事ユーリも戻ってきたってことで、帰るか」

「イグニさん。そのことなんですが」


 ニエが言いづらそうにイグニに伝える。


「先ほどから少しだったのでこの空間内を調査してたんですけど、出口はありませんでした。どうやら入るのには無条件ですが、出るときはこの儀式が終了しているという条件付きで展開された空間らしいです」

「ああ、だろうな」


 子供たちからすれば、ユーリを捕まえて『蟲毒』を再現すること自体が念願だったはずだ。

 せっかく捕まえたユーリがこの空間から逃げないくらいの細工はしているだろう。


「その……どうやって出るんですか?」

()

「……え?」


 こてん、と首を傾げるニエ。


「全員、俺の側から離れないでくれよ」


 イグニは胸に手をあてる。

 普段であれば、ただ心臓の鼓動しかないそこに強く意識を向けると、感じるものがある。


(……サラ、借りるよ)


 見えないところで繋がっているそれは、魔力の通り道(パス)

 深い信頼関係の上でしか成り立たないそれを、イグニは優しく受け止めると『ファイアボール』を生み出した。


「『装焔イグニッション完全燃焼フルバースト』」


 ユーリの身に降りかかったものは、理不尽だ。


 生まれ育ちが、ユーリを歪ませた。

 その儀式が、ユーリをむしばんだ。

 そして、呪いが彼を縛り付けた。


 だから、イグニは同じように呪い(りふじん)理不尽まほうを叩きつける。


「『超球面テセア』」


 イグニが持つ第二の魔法。

 四次元構造体を三次元に落とし込むことによって、無限を内包した最強の『ファイアボール』は、複雑な煌めきを保ったまま、イグニの身体から全ての魔力を持っていく。


 だが、それを補うように端から莫大な魔力が注ぎ込まれ、イグニの魔力を補う。


「『発射ファイア』」


 誰も彼もが、その魔法に釘付けとなった。


 無限を持つそれは、残っていた少年少女の心を折るには十分すぎる。


 彼らを支えていたのは数年にわたる殺し合いによって得た自信。

 そして、やり直せばユーリに勝てるだろうという歪んだ希望。


 けれど、そこにあったのは魔法ファイアボールだった。


 彼らがどれだけ手を伸ばしても、願っても、羨んでも。

 魔法(その領域)には届かない。


 魔術と魔法は根本的にあり方が違う。

 それと同じように魔術師と魔法使いもあり方が違うのだ。


 人の道を外れ神の道理に手を伸ばし、魔術原理の根本を蹴り飛ばして鼻で嗤う。

 相対するのが神だろうが悪魔だろうが、委細の関係なしに彼らは戦うだろう。


 それが、人類の到達点。魔術師として行き着いた限界点であるからこその暴虐。


 

 ユーリは魔術師だった。

 だから、彼らは勝てると思った。

  

 だが、イグニは魔法使いだった。


「……こんなのって、ありかよ」


 誰かがそう言った。誰もがそう思った。


 暴力に暴力を。理不尽に理不尽を。

 そこに居たのは、純然たる最強だった。


 煌めく『ファイアボール』が世界に激突した。

 かくて、世界は崩壊した。



 目を開くと、イグニたちは最初に飲み込まれた場所に戻っていた。


『違う』『違う!』『聞いてない』

『ずるい』『もう一度だ!』


 赤子はただ、震えていた。

 そして口々に暴言を吐いた。


『お前だ』『お前が居なければ!!』

『死ね!』『誰がこいつをいれたんだ!』

『やり直しだ!!』


 赤子たちに向かって、イグニはため息をつきながら聞いた。


「じゃあ、もう一回やるか?」

『……』『……』『……』

『……』『……』『…………』


 それが、答えだった。

 赤子の口は完全に閉じ切ってしまい、静寂だけがあとに残った。


「……みんな、ごめん」


 静寂を砕いたのは、ユーリだった。


「……ボクが、みんなを」


 刹那、それを叱咤するように赤子が叫んだ。


『謝るな!』『謝るなッ!!』

『馬鹿にするな!』


 イグニはそれを察して、そっとユーリの肩に手を置いた。

 彼らが欲しいのは謝罪では無いのだ。


 それは、彼らの実力を馬鹿にしていることになるのだ。


 だから、


「悪いな、ユーリは強いんだ」


 だから、イグニは誇らしげに、彼らに自慢するように言った。


『ああ』『そうだな』

『知ってるさ!』


 赤子の口から出てきた言葉は同じように突き放すような言葉だったけれど、どこか声色が変わっているように思えた。


 ユーリもイグニのやりたいことを察して、こくりと首を縦に振った。


「……ぼ、ボクは強い」


 そして、ゆっくりと喋り始めた。


「そして、もっと強くなる。だから、見ていて欲しい」

『……ああ』『もちろん』

『次は負けねぇよ!!』


 彼らが欲しいのは、納得なのだ。


 自分が負けた相手が、何よりも強いんだという納得感。

 それなら自分が負けても仕方ないという納得感。

ただ、ユーリがそれだけ強い相手だと誰かに言って欲しかったのだ。


 そして、それは他ならぬユーリ自身からも。


「だから、みんな。()()、ね」


 ユーリがそういうとともに、赤子の身体がゆっくりと小さな粒子になって消えて行く。淡く発光している姿は、まるで天国に召されているかのようにも見えて。


『『『またな』』』


 それだけ、残して赤子は消えた。


 イグニは震えるユーリの肩にそっと手を置く。

 

 ユーリは反射的にイグニに飛び込むと、声を上げて泣いた。

 それを咎める者などいるはずもなく、ただユーリの泣き声だけが鉱山の中に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 殺し合いをした後で、「俺の方が強い」主張ばっかなのが異常に感じる ユーリ以外にまともなのがいない 参加した子供達は、天然なのか、洗脳されたのか知らないけど、 殺人をなんとも思わない、 …
[良い点] 魔力を使うときに、サラの名前を呼ぶイグニにきゅんしました(*´ー`*) ユーリが自分を認められるようになれた。 それだけでこれからもっともっと強くなりそうですね(((o(*゜▽゜*)o))…
[良い点] 全部読んだけど面白かった!!! [気になる点] モテの教訓は結局何個あったのか。 [一言] 徹夜する羽目になったが、一片の悔いなし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ