7 成人しました
ジュールは5歳になると、お母様から引き離され、父主導のもとで教育を受けるようになった。
私が勉強をしているのに興味があった子だから、父にとられる前にと本の読み聞かせや、簡単な文字の書き取り、数字と簡単な足し算は私から教えて。もともと勉強は好きなのか、それ程辛くはないみたい。
それから7年、私は17歳の成人を迎え、ジュールは私より誕生日が少し早くて12歳で、だいぶ大人びてきた。まだふっくらとした頰は可愛らしいけど、私の事はお姉様と呼び、礼儀正しく、これなら最初のパーティーに行っても恥ずかしくないはず。
結局ユーグ様とは手紙の一通も交わしていないけれど、綺麗なあの人がとても紳士だった事は今も覚えている。きっとジュールも、女の子にずっと覚えられる、特別な男の子として見られるだろう。
(私の初めての社交界デビューも近い……可愛くないからたくさん頑張ってきたけれど、私の嫁ぎ先は見つかるかしら)
年頃になると、せめて可愛くないのだからと、乗馬などの運動も始めた。太ってしまったらますます見られたものじゃない。
お母様は、この家に来てから欠かさず私は可愛くないと言い続けた。私もそれは否定しない。でも、具体的にお母様にどこがどう可愛くないかとは言われたことがなくて、おかげで私は本当の母譲りの髪と瞳は好きなままでいられた。
父はもうずっと顔を見ていない。ジュールの教育と領地の運営と、事業にも手を広げ、更には王宮で官職もやっているのだから、目の回るような忙しさだろうとは思う。幸い、ジュールにそこまでのことを求める父でなかったのはよかった。よく領地の視察にジュールを連れて行くようにはなったけれど。
父にとっては私は早く家から追い出したいだろうし、私は今のところ……本当は成人が近くなれば見合いの話もくるはずなのだけれど……一件もお見合いの話はない。
パーティーで見つけるしかない。私の誕生日は春の終わりが近い頃で、社交界デビューは王宮でのパーティーに決まった。いきなりの大舞台だ。
私のような可愛くない娘が行っても大丈夫だろうか、と心配にはなるが、逆に小さなパーティーで少ない人に嘲笑されるくらいならば、大きなパーティーで人に紛れた方が目立たない気がする。
本当なら父のエスコートが必要だけれど、父にそれは望むべくもない。かといって、お母様が娘をエスコートするのも変な話だ。
ジュールはまだ小さいし、結局私は一人で社交界という場所に乗り込まなければならない。
そう思えば、たくさんの人がいる王宮のパーティーも悪くない気がした。というか、そう思わないとやっていられない。私が可愛くないのはもう仕方ないけれど、会場中で笑われるなんて事にはならないはずだ。大きいし。人も多いし。
所作やダンス、会話には自信がある。そう、最初のパーティーの時のように、私の内面を見てくれる人がいい。
高望みだけれど……、私が可愛くない分、かっこいい人が見初めてくれたらな、と思う。本当に高望みだ。その人が私の隣を歩くのを恥じるような人なら結婚してもうまくいくはずがない。
とにかく、私の内面を見てくれる人。私の最低限の基準はそこにして、もうそれ以外はあまり詳しく考えないようにした。
だって、頭の中には成長したユーグ様を最後には思い浮かべてしまうのだから。
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