6 お友達ってこうなのかしら?
「よくきてくださったわ、ビアンカ、エステル、セレン。初めてお友達をおもてなしできてとても嬉しいわ」
「今日はお招きありがとう、シェリル」
「とても楽しみにしてきたの。たくさんお話ししましょうね」
「私も……、あの、これ、お土産です」
今日はあのパーティーから一月たった日だった。4人でのやり取りは手紙では難しかったし、私は3人とこまめに文通するには少し時間が足りなかった。
お母様のすすめもあったし、私もやりたかったから、いつも勉強や教養の練習に時間を使っていた。寝る前には本も読みたかったし、それを踏まえてお母様にお友達を招きたいとご相談したら、もちろんいいわよ、と言われての今日だ。
しかし、今日も私は野暮ったい化粧をされている。いきなり顔が変わったら皆ビックリするわ、と言われて、そういうものなのね、と納得してしまった。
さすがにあの日のように眉毛を毛虫のように太くされる事は無かったけれど、そばかすと茶色の紅は健在だ。自分も、この3人になら可愛くない素顔を知られてもいいとは思うけど、最初が一番野暮ったかったのだから、今更そばかすも唇の血色も関係ないか、と思い直した。
彼女たちは私を見た目で判断しない人たち。それがわかっているから、安心して野暮ったい化粧で出迎えられた。
髪は編み込みの入ったハーフアップにして毛先を巻き、薄緑に白のアクセントのワンピース姿。お母様は髪や服にはこだわりがあって、私でもこれで少しはマシに見えると思うものを選んでくれる。
ビアンカとエステルとセレンは、ビアンカが勝気で、エステルはちょっとませていて、セレンは内気。でも、お喋りが始まればあまり関係ない。
私は用意していた小さなサロンに3人を案内した。夏の暑さが堪えるので窓は開け放ち、風を入れつつも、背の高い庭木で少し薄暗くて陽射しの入り込まない部屋だ。お母様の勧めだったが、本当にこの部屋なら涼しい。
外にはハーブの庭があり、風が吹くたびにハーブのいい香りが漂ってくる。内装もいつの間に整えてくれていたのか、ドールハウスのような可愛い木目にパステルな柄の入った調度品で揃えられていた。
ビアンカたちもこのサロンには喜んでくれた。私も最初に、この部屋をお使いなさい、と言われた時には嬉しくてお母様に抱きついたもの。
お母様は本当に大事にしてくれている。私が見た目も可愛かったらどれだけよかっただろう。この話はしない、と自分で決めていたのに、あのパーティーの話に始まり、素敵な男の子はいた? なんて話から、私の話になってしまった。
「シェリルって、本当に可愛いわよね。造りがもう全然違うもの。お化粧だけはいただけないけれど、あの眉毛がなくなっただけでずっと違うわ」
ビアンカがそんな事を言い出してビックリしてしまった。私が可愛いなんてあるはずないのに、でも本気で褒めてくれているみたいだし、否定してしまうのも失礼だ。
エステルもセレンも頷いている。
もしかして、女友達は相手の容姿を褒めるものなのかもしれない。たしかに、褒められて嬉しくない人はいない。私だってお母様に色々と褒められるのは嬉しいし。
でも、何故か見た目を褒められると、私の心がギシ、と音を立てて軋む。すごく間違った事を言われていると感じるのに、失礼だから否定できない。
私は今まで習ったマナーを最大限に活かして、ありがとう、と笑顔で褒め言葉を受け取ると、3人をその倍は褒めた。
その後はまた雑談になり、私はホッとした。ごめんね、私のお友達。私は可愛くないの。
そして、やはりあの日に出会ったもう一人のお友達……ユーグ様の事を思い出す。
ビアンカたちも可愛い。それぞれ違う魅力があって、表情も活きいきしている。
でも、一番綺麗だと思ったのは……男の子に綺麗なんて言ったら怒られそうだけれど、ユーグ様だったな。
日が暮れる前に私たちはお茶会を終え、今度はまた別の誰かの家で、と言って別れた。
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